「カネ貸し」が嫌われて景気が低迷する北朝鮮経済
2020年を迎えた北朝鮮。金正恩党委員長は、昨年末の朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会で、国際社会の制裁に打ち勝つための「正面突破戦」なる概念を打ち出し、経済建設を重要視する方針を示した。
しかし、新しい一年の門出に水を差すような出来事が起きていると、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。
情報筋によると、最近になって「年の初めにカネを貸し借りすると1年中カネのことで苦しめられる」というジンクスが広がった。そのせいで、誰もカネを借りようとも貸そうともせず、市場にカネが回らなくなり、ただでさえ景気が悪いのに余計に悪くなっているとのことだ。
北朝鮮最大の卸売市場である平壌郊外の平城(ピョンソン)市場にも影響が現れている。この市場には、カネを貸して利子で設ける金融業者が数多く存在するが、カネを借りようとする人が減ってしまった影響で、商品の売買もあまり活発には行われなくなった。
それに加えて、年末のキムジャン(越冬用に大量のキムチを漬けること)や冬服、燃料購入などの越冬準備でカネを使い過ぎた消費者が、財布の紐を固く締めたことが、ジンクス不景気に追い打ちをかけているというのが情報筋の説明だ。
そもそも、北朝鮮の刑法はカネを貸して利子を取る行為を禁じている。
第113条(高利貸罪) 高利貸行為を常習的に行った者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の罪状の重い場合は3年以下の労働教化刑に処す。
北朝鮮の社会安全省(現人民保安省、警察庁にあたる)は1997年8月、穀物を貸して利子を取った者は、場合によっては銃殺にするとの布告を出している。また、2009年の貨幣改革(デノミネーション)にあたって、「個人の負債は法的に無効化される」という徳政令を出している。
しかし、商売をするにあたって資金調達が必要でも、北朝鮮では銀行から融資を受けることはほぼ不可能だ。そんな状況で、個人の金融業者の存在は必要不可欠であり、現在では当局もほとんど取り締まりを行っていない。
ちなみに、1990年代中盤には年利が150%に達していたが、今では3〜50%に落ち着いている。脱北者によると、相手の信用度合いによって利子を決めるため、利子が異なるとのことだ
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北朝鮮の草の根市場経済の発展において、カネの貸し借りは重要な役割を果たしてきた。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を乗り切るために、多くの人が市場での商売に乗り出した。その元手を貸して利子で儲けた人々は、利益を製造、流通、運輸、さらには不動産など様々な分野に投資した。いわゆるトンジュ(金主、新興富裕層)の始まりは金貸しだ。
大量の品物を地方の市場に運ぶ業者や、トラックドライバーたちは、今年の雰囲気は昨年と比べて冷え切っているとして、早く1月が終わることを待って耐えているという。
ジンクス以外にも不安要素がある。当局は毎年新年に、住民を大量に動員して、不足する肥料を補うための下肥を作る「堆肥戦闘」を繰り広げるが、大規模な動員が行う際に支障になるとして、市場の営業時間を制限することがある。そうなれば、冷え切った市場の景気がさらに冷え込むことは避けられない。
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