金正恩「コロナに感染した」事実を認めず危ない状況
北朝鮮の金正恩総書記は昨年8月、国内で感染が広がった新型コロナウイルスとの戦いである「最大非常防疫戦」に勝利したと高らかに宣言した。
だが、相手はウイルスだ。一度抑え込めたとしても、再び広がるのはどの国でもありうることだ。隣国の中国での感染拡大を受けて、北朝鮮でも感染が広がっていると伝えられている。
複数のデイリーNK内部情報筋によると、新義州(シニジュ)など中国と国境を接する地域や、貿易港を擁する南浦(ナムポ)を中心に発熱、高熱、咳、呼吸困難、喉の痛みなどを訴える人が最近になって急増している。
発熱すれば、人民班(町内会)や保健所に届け出ることになっているが、保健当局は住民の検温以外に何もしようとしない。コロナが疑われる症状が出ても治療はもちろん、コロナに感染したとの診断もしてくれず、「インフルエンザだ」と言って自宅での隔離を指示するだけで、本当にコロナなのか、別の病気なのかもわからない。
そればかりか、患者自身が「コロナに感染したかも知れない」ということすら言い出せない空気となっている。金正恩氏が「最大非常防疫戦に勝利した」と宣言した以上、コロナに感染することは政治的に許されないという、北朝鮮ならではの非常に歪んだ状況となっている。
下手に感染したと騒ぎ立てでもしたら、環境が劣悪なことで悪名高いコロナ収容施設、さらには管理所(政治犯収容所)に放り込まれてしまうかもしれず、最悪の場合は、二度と出てこれない可能性もある。「勝利した」という最高指導者の言葉を守り切るため、それにそぐわない現実を消し去っているのだ。
一方、北朝鮮当局は、中国と国境を接する平安北道(ピョンアンブクト)、慈江道(チャガンド)、両江道(リャンガンド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)に対して、特別警戒態勢を取るように指示したと伝えられている。
先月末の朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会拡大会議の後、年初の日まで国境沿いの地域に対する特別警戒週間が宣言されたが、13日の時点でも解除されていない。国境警備隊員や地域住民は、密輸などで中国人との接触を防ぐ意図があるものと見ている。
「密輸が増えて中国からコロナが入ってきたことを知らない人はいない。中国で感染者が増えたころから、新義州や朔州(サクチュ)などで急激にコロナを疑わせる症状を訴える人が増えた」(情報筋)
一時は、人間はもちろんのこと、野生動物も国境に接近すれば射殺されるほどのガチガチの国境警備体制を敷いていた北朝鮮だが、最近は以前ほどではないと伝えられている。未だに公式の出入国が一切認められていない北朝鮮でコロナ感染が拡大した理由は、国境警備緩和で再び増えた密輸以外に考えられない。
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