地方都市では「手軽なレジャー」…北朝鮮の薬物汚染がなお深刻
米ワシントン・ポストは昨年11月、脱北した薬物密売人の証言として咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)で市民の8割が覚せい剤を使っていると報じた。
覚せい剤は北朝鮮国内の市場に大量に流通しており、売人はいたるところにいる。
北朝鮮では計画経済がとん挫し、なし崩し的に資本主義化が進んだことで、以前はいなかった小金持ちが大量に出現した。しかし、娯楽の少ない地方都市では少し前まで、カネを持っていても、使う場所がない状況だった。そこで、手軽に楽しめるレジャーとして覚せい剤が脚光を浴びてしまったのだ。
その影響は少年少女にまで及んでおり、地方都市では学校を舞台にした薬物がらみの大騒動がたびたび持ち上がっている。
極めて深刻な覚せい剤の汚染状況を受けて、北朝鮮の国家保衛省(秘密警察)は、覚せい剤の生産、販売、所持に対して大々的な摘発を始めた。少しでもあやしい場所があれば、軍用犬を伴っての家宅捜索を行うほどだ。しかし、効果はあまり期待できそうにない。
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、覚せい剤に対する取り締まりが強化されたのは先月からのことだ。重点取り締まり地域は、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)と、平安南道の順川(スンチョン)だ。
順川には、李秀福(リスボク)化学工業大学と順川製薬工場が、咸興には咸興化学工業大学、興南製薬工場がある。つまり、大学が製造技術を持った人材を育成し、製薬工場が製造するという、覚せい剤づくりが地場産業になっているような地域なのだ。
平壌からやって来た国家保衛省の取締官は、地域の人民班(町内会)を通じて「軍用犬を伴って取り締まりを行っている」「覚せい剤の生産者、保有者は自首せよ」と呼びかけている。詳細は不明だが、軍用犬は北朝鮮の人々に恐怖を抱かせるもののようだ。
しかし、自首する人は誰もいないという。
「自首した場合、少量の所有なら許してもらえるが、1キロ以上を所有していれば、原料の出処、売人の名前などを厳しく追及される」(情報筋)
原料は国営工場で作られたもので、売人の背後には、様々な権限を握る実力者がいるのが常だ。例えば上述の会寧では、市の女性同盟委員長一家が薬物組織を運営していた。
つまり自首すれば、権力者の不正行為を告発することになり、どのような意趣返しを受けるかわからない。
結局、取り締まりに遭うのは庶民だけだ。
「国家保衛省の取り締まりチームが咸興市内のアパートの家宅捜索に乗り出した。50戸をランダムに家宅捜索し、たった0.2グラムしか持っていなかった人も捕まえて行った」(情報筋)
市民の間からは「先に幹部から捕まえろ」という不満の声が上がっているが、その声は、当局の責任者には届きそうにない。
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