いきなり休業で国民に混乱…迷走を続ける「金正恩の米屋」
北朝鮮は現在、市場での穀物の販売を禁止し、国営米屋「糧穀販売所」でのみ販売する政策を取っている。
全国的な配給システムが機能していた1980年代までは、所属する職場を通じて食糧や生活必需品の配給を受けることになっていた。国民一人ひとりのライフラインを国が掌握することで、反政府的言動など好ましからざる行為を抑え込むという効果があった。
しかし、旧共産圏の崩壊により援助が期待できなくなり、非科学的な「チュチェ(主体)農法」を長年続けたことで土壌が疲弊。全国土の段々畑化で保水力を失った山のせいで、風水害の深刻な影響を受けるなど複合的な要因が作用して、未曾有の食糧危機「苦難の行軍」を招いてしまった。
これと前後して配給システムは崩壊。人々は配給システムの補完機能を負っていた非合法の農民市場で、穀物を買うようになった。食糧を使った統制システムが崩壊したわけだ。金正恩総書記は、これを再構築しようとしているものと思われるが、その取り組みは迷走を続けている。
今年1月20日から、糧穀販売所が急に臨時休業に入り、人々は穀物を買えなくなってしまった。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道(リャンガンド)の幹部によると、糧穀販売所、総合商店、百貨店などが1月20日から一斉休業に入った。その理由は、生活費の引き上げに伴う生産と流通体系を整理し、商品価格を設定し直すためだという。
それまでは糧穀販売所でも、地方によって同じ商品が異なる価格で販売されていたが、これを平壌の市場の価格を基準にして統一し、全国の市場と国家商業網を効率的に管理しようというのが、政府の意図だという。
穀物販売所の食糧価格は市場より2割安く設定されているが、市場価格を基準にしているため、地方によって価格に差が生じていた。例えば、両江道ではジャガイモが多く取れるため、他の地方より安く売られており、トウモロコシが多く取れる平安北道(ピョンアンブクト)では、その価格が他所より安いといった具合だ。
百貨店で販売している飴菓子も、貿易会社の製品、国営基礎食品工場の製品、穀産工場(穀物加工工場)の製品で価格がバラバラだったが、これを社会主義の原則に合わせて統一するという。
北朝鮮は最近、今まで3000北朝鮮ウォン(約51円)程度だった一般労働者の月給を、10倍から35倍と大幅に引き上げる措置を取った。同時に協同農場での穀物買取価格を大幅に引き上げた。穀物を市場ではなく糧穀販売所に出荷するルートを作り、消費者は引き上げられた賃金で購入するというのが筋書きだ。今回の糧穀販売所一斉休業は、この政策の一環のようだ。
しかし、今回の措置による悪影響が消費者を苦しめている。
別の情報筋によると、穀物販売所は百貨店や総合商店より早く1月10日から休業に入った。それにより、穀物の密売価格が大幅に上昇した。具体的には、1キロ5000北朝鮮ウォンだったコメが、2月13日には6600北朝鮮ウォン(約112円)まで上昇した。
両江道では、金正恩氏の生誕記念日である1月8日を前後して、糧穀販売所で住民に10日分の食糧を販売したが、その後何の説明もなく休業に入ってしまった。
1月3日に各人民班(町内会)で行われた会議で、このようことが伝えられていた。
「今年から穀物販売所と百貨店を正常に運営するので、いつでも必要なものを買うことができる」
ところが、これを真に受けた人や、大量の穀物を買うほどの経済的余裕のない人は、たちまち食べるものがない状況に陥ってしまった。
その後、糧穀販売所は営業を再開したが、価格を統一するという当初の目的は達成されていないようだ。
平壌では2月6日、7日、28日、29日の4回に限って糧穀販売所の営業が再開したと、デイリーNKの内部情報筋が伝えている。しかし、価格は一定でなかった。
トウモロコシの場合、6日と7日には1キロ2100北朝鮮ウォン(約36円)だったが、28日と29日には2400北朝鮮ウォン(約41円)に上がった。また、小麦麺1キロは6日に2200北朝鮮ウォン(約37円)だったのが、翌7日には2600北朝鮮ウォン(約44円)に引き上げられた。
また、28日は小麦が1キロ2500北朝鮮ウォン(約43円)で販売されたが、翌日にはもう在庫がなかったという。小麦はロシア産だったとのことだ。価格はトウモロコシが14%、小麦が17%市場より安かったが、2021年に糧穀販売所の運営が再開された当初の2〜3割安い状態にはできていない。
さらに販売量にも制限があり、6日と7日にはトウモロコシと小麦麺の割合が6対4、28日と29日にはトウモロコシと小麦の割合が7対3で、一般労働者は1日700グラム、小学校の児童は400グラムで、それぞれ4日分の購入が可能だった。
品質に関する評価はまちまちで「ニオイがする」という人もいれば、「ご飯と混ぜても美味しく炊ける」という人もいた。
このように迷走を繰り返している糧穀販売所だが、悪影響は様々な方面に及んでいる。地方政府の税収の多くを占めていた市場使用料(ショバ代)だが、市場で穀物の販売が禁止されたことで市場が活気を失い、穀物が市場以外の場所で密売されるようになったことで、税収が減少し、行政サービスが滞る事態となっている。
2014年にも、糧穀販売所以外での穀物の販売を禁止する措置を取っているが、いつの間にかウヤムヤになってしまった。今回は10年前と比べてより本腰を入れて取り組んでいるが、その分だけ、庶民にしわ寄せが行く結果となっている。
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