加賀まりこ×内田有紀「20代の時に女優を一度休業して、30歳で復帰。まりこさんに再会、気合を入れられ目が覚めた」

2024年4月26日(金)12時30分 婦人公論.jp


プライベートでの親交も深いという、加賀まりこさん(右)と内田有紀さん(左)(撮影:浅井佳代子)

プライベートでの親交も深い加賀まりこさんと内田有紀さん。ともに女優として活躍しながらも、この仕事をやめようと思ったこともあると言います。自分の人生を決めるうえで、ふたりが大切にしていることとは(撮影=浅井佳代子 構成=小西恵美子)

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<前編よりつづく>

女優の道の歩む覚悟を決めた時


加賀 女優をやめようと思ったことは、しょっちゅうある(笑)。日本が高度経済成長期の真っ只中で、みんな上を向いてるのがイヤでね。17歳から20歳まで噓みたいにお金をいただけたから、《普通》に憧れた。

内田 それでフランスに。

加賀 パリに行ったら、生きていくうえで大事なのは、「今夜、誰と食事するか」「今夜、何着ようか」「今夜、誰を口説こうか」だって。そういうフランス人が愛おしかったね。金持ちになりたいタイプは、うんとバカにされていた。で、これが人間の暮らしだと思ったの。

内田 当時の上昇志向の日本と違って。

加賀 アメリカ人やカナダ人と一緒にフランス語の授業を受けたの。発音もすぐできたから覚えるのが楽しかった。まだ日本に入っていないフランスのブランドを紹介するライセンスの勉強をしてたのよ。

パリではイヴ・サンローランさんのお家の近くに住んでいて、遊びに行ったし。許可をもらえれば日本で彼の傘やハンカチを売れると思ってね。

内田 20歳そこそこでそう思えるのがすごいと思います。常に俯瞰で捉えているというか。


「最後の台詞を私が言うと同時に幕が下りるんだけど、幕が下りるか下りないかで、うわーって喝采がくるのよ。これはやめられない(笑)」(加賀さん)

加賀 パリの生活を楽しんでいると、浅利慶太さんから電話がかかってきて、日生劇場の舞台『オンディーヌ』に出ないかと。姉に言ったら、「あんたみたいなチンピラにできるような役じゃない」って。その言い方にむかついて、やってダメなら職業を変えられると思った。

で、日本に帰ったの。なんと大当たり。日生劇場、始まって以来の。3歩歩いて4つ勘定したら振り返る(笑)、とか演出家の言うままにってただけで、自分で考えてなかったね。つまり単なる被写体だった。それが、急に女優志願になっちゃった。

内田 何が心を動かしたんですか?

加賀 最後の台詞を私が言うと同時に幕が下りるんだけど、幕が下りるか下りないかで、うわーって喝采がくるのよ。これはやめられない(笑)。そこから私、演技を学ぶの。台詞や発声の練習、パントマイム、ダンスと。で、女優になることを本気で決心した。

内田 意志を感じますね。

加賀 『オンディーヌ』は自分をすり減らす自己犠牲の愛の話だから、私、そうなっちゃって、惚れる相手も間違った。(笑)

内田 私は20代の時に女優を一度休業して、30歳で復帰。その時にまりこさんと再会して、「女優をやるのなら若いわけじゃないから、誰もちやほやしてくれない。悪女でも何でもやりなさい。その覚悟はあるのね」って言われて。生半可な気持ちではできないと思いました。

加賀 私ははっきり言った。

内田 目が覚めました。30歳まで気づけなかった。芝居に対して準備する大切さも。大河ドラマ『軍師官兵衛』への出演が決まった時、衣装さんに電話してくださいましたね。

加賀 「あの子、細いから肉襦袢も紐も用意して」って。

内田 放送が始まって、まりこさんに「まだまだだけど、ま、頑張ってんじゃない」って言われたのが、終わる頃には、「板についてきた」と。うれしかった。「プロならば理解を深めて動きも考えて、腹にそれを入れてやる。着ること、歩くこと、所作、当たり前のことができるように」とも教えてもらって。

加賀 あの当時、普段、着物を着て生活してるわけだからね。

内田 時代劇に限らず、役に失礼のないように演じることも教えてもらいました。私が変わったきっかけのひとつは、まりこさん。芝居を「よかったよ」と言ってもらえる時は、私も噓がなくできたと思った時。「相手とのタイミングがうまくいってないね」と言われることもある。まりこさんには全部バレてる。

加賀 すぐわかるね。芝居はそこにいることが大事だから。

内田 最近、演じることがとても楽しいんです。まりこさんから「松田優作さんとのお芝居で、『カットかけないで』っていうぐらい気持ちが入っていた」と聞いて、私もその境地に達したいと思って目指しています。

続けるために始めたこと


加賀 ピラティスを始めたのは69歳。2013年、藤山直美さんという天才と舞台『さくら橋』で共演することになって、丁々発止渡り合わなきゃならなくなった。新橋演舞場には花道があるから、しっかり歩きたいと思ったのね。そのためには体幹を鍛えるピラティスがいいと判断したの。年齢的にも寝たままで運動できるのはよかったし。

内田 続いてますよね。

加賀 10年以上、週に1回。開脚も問題なくやってます。

内田 何か変わりましたか?

加賀 例えば、両足の親指を感じていると体幹につながるのがわかる。呼吸も関係してくるし。ピラティスやってから、歩く時に地面を親指が摑んでいるかって初めて意識したの。

内田 体幹は大事ですよね。私はバレトンを始めました。ニューヨーク発祥のエクササイズで、バレエとフィットネスとヨガを合わせたもの。家でリズムに乗ってやってます。

加賀 むずかしそう。

内田 バレエとヨガの要素が多いプログラムはゆっくりしたペースでできて、面白いですよ。私、演じている時に立ち姿がよれたり、着物を着た時にすっと立てなかったり、だんだん怪しくなってきたので。

加賀 ちょっと早いんじゃないの?(笑)

内田 体育会系なので、できない自分が嫌なんです(笑)。ヒール履いてかっこよく歩く役の時、ヨロヨロしないようにと思って。

加賀 ヤクザを演るのが好きな男優は多いけど、女優もかっこいい役ばかりよりも悪女とかさ。

内田 人間味の溢れる役。

加賀 そう。ファッションじゃない役、やってよ。

内田 まりこさんは、そういう人物も演じていますよね。

加賀 固定観念を外すと世界は広がるからね。私は世間体は気にしない。人にどう思われるかとか、気にしないで生きてもらいたいね。

内田 私、気にしていました。でも最近、あっという間に人生は終わってしまうから好きなことをしたいと思い始めたんです。

加賀 50歳前にわかってよかったよ。(笑)

内田 怖がらずに、固定観念を手放さなきゃ。

加賀 でも、失敗はするのよ。失敗しなきゃ。失敗は失敗。で、直す。

内田 突き刺さります。

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