タイヤ不足で未出荷トラックがあふれる北朝鮮「5カ年計画」の現場
今年1月の朝鮮労働党第8回大会で金正恩総書記が提示した「国家経済発展5カ年計画」。その達成に向けた動きが各地で活発化しているが、現実からかけ離れたノルマを押し付けられた現場からは悲鳴が上がっている。
平安南道(ピョンアンナムド)徳川(トクチョン)にある、北朝鮮を代表する自動車工場、勝利自動車連合企業所もその一つだ。その内情を、デイリーNKの内部情報筋が伝えた。
北朝鮮では昨秋、党大会で示す成果を無理やり作り出すための成果拡大キャンペーン「80日戦闘」が繰り広げられたが、勝利自動車は課せられたノルマに応じて5トントラックを生産した。だが、それから3ヶ月以上経った今に至るまで、出荷ができずにいる。なぜか。
「車体はあるが、タイヤがなくて動かせない状況なのだ」(情報筋)
工場では主にトラックを生産しているが、北朝鮮独自の技術、部品で生産しているのではない。中国から部品を取り寄せて組み立て、自社のブランドを付けて国産と称して出荷するノックダウン生産だ。
生産方式はともかく、北朝鮮は非常に力を入れている分野であり、金正恩氏も2017年に視察を行っている。また、2018年の新年の辞でも次のように触れている。(以下、朝鮮中央通信の記事の抜粋)
機械工業部門では、金星(クムソン)トラクター工場と勝利(スンリ)自動車連合企業所をはじめ機械工場を近代化し、世界的水準の機械製品を朝鮮式に開発し生産すべきです。
しかし、国際社会の制裁に加え、新型コロナウイルス対策として国境封鎖、貿易停止が行われているため、トラック生産に必要な部品が輸入されなくなった。実際には、タイヤや部品の輸入はごく少量行われてはいるが、中央党(朝鮮労働党中央委員会)や朝鮮人民軍(北朝鮮軍)から注文を受けたトラックの生産に使われるだけだ。
結局、一般の工場、企業所、業者がトラックを購入するには、市場で中古のタイヤを入手して、勝利自動車に持ち込み、新車に装着する以外に方法がない。
「新車に中古のタイヤをはかせるのが自力更生か」(情報筋)という皮肉交じりの批判が出るのも当然のことだろう。
輸入品である生ゴムを使う靴工場なども、生産に支障をきたしている。そもそも生ゴムは、中国南部を含めた東南アジア、アフリカ、ブラジルなど熱帯で取れるもので、北朝鮮が自前で賄うのは気候的に不可能。輸入に頼らざるを得ないが、国は輸入の許可も出さなければ、材料の供給も行わず、自力更生などと精神論を繰り返すばかり。さらに、課せられたノルマを達成できなければ、工場幹部が責任を問われる。
各地の国営工場、企業所では、体調不良を理由にして、ポストを投げ出して逃げ出す幹部が相次いでいるが、勝利自動車の幹部もそろそろ「体調が悪くなる」ころではないだろうか。
ちなみに勝利自動車では昨年6月、当局からの外貨稼ぎ命令で潮干狩りに出た労働者12人が溺死する事故が起きている。
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