【北朝鮮国民インタビュー】自力更生を叫んでばかりの政府は無能
1990年代後半の北朝鮮を襲った大飢饉「苦難の行軍」の再来が囁かれる中、金正恩総書記は各自治体のトップを集めて行われた第1回市・郡党責任書記講習会で、「責任書記が常に民心を重視し、自分の活動に対する評価を人民から受けなければならない」として、人々の声に耳を傾けるように指示した。
これに対して、責任書記の間からは「今の経済的状況があたかも自分たちのせいで悪くなったかのように見える」として、上層部の失政の責任が、自分たちになすりつけられるのではないかと懸念する声が上がっていると、デイリーNK内部情報筋が伝えている。
責任書記たちはまた、経済難の原因はコロナ対策としての国境封鎖、貿易停止、国境警備強化にあることを当局もよく知っているはずだとして、密輸取り締まりの一部緩和や市場での商業活動の保障などの政策が必要で、民心に耳を傾けることそのものが重要というわけではない、との異論も唱えているとのことだ。
一般国民の反応はいかなるものか。デイリーNKは、中国との国境に接する平安北道(ピョンアンブクト)に住むAさんにインタビューし、今回の金正恩氏の指示や、経済政策について質問した。
ー金正恩氏は責任書記に「常に民心を重視せよ」と指示したが
Aさん:「自分の腹がふくれれば人が腹をすかせていることを知らない」(対岸の火事の意)ということわざがあるが、元帥様(金正恩氏)はそれにピッタリの実例だ。民心を重視したくとも、国の経済が情けない有様なのに、責任書記が良い案を出せるわけがない。そんな事情をてっぺん(上層部)はわかっていないようだ。責任書記に民心を重視して、事業評価は人民から受けろという発言は、あたかも人民のためであるかのように聞こえるかも知れないが、相変わらずの政治だと人々は感じるだろう。
ー金正恩氏の政治手腕をどう思うか?
Aさん:以前は金正日(総書記)よりはマシだとよく言われていた。金正日時代には、先軍政治をするとか言って、軍ばかり持ち上げて、連中をヤクザのようにしてしまったが、今の元帥様は口だけでも人民大衆第一政治をしようと言っている。
問題は、時が経つにつれ暮らし向きがよくなるべきなのに、そうはなっていないところにある。もちろんコロナのせいで一時的に経済が苦しいという事情があるだろうが、コロナがなくなっても暮らし向きが良くなるという期待が持てない。過去より今のほうが生活が苦しく、よくなる兆しが全く見えないからだ。
ー当局の統制がひどくなったと言うが?
生活が苦しいときほど、(統制が)強くなる傾向がある。最近、市場に対する統制がより強くなった。人々は統制(強化)にそれなりに適応しつつある。営業時間内に商売を切り上げて、市場に出てこれない人々は、電話で注文を受けて配達するなどして、取り締まりの下でも商売を続けようとしている。
一方で、税金の負担が増えたことに対して、人々は露骨に不満を示している。国がカネを稼げないから、人民から奪い取ろうとしているとの話も聞こえる。
ー当局の政策で最悪なものは?
自力更生などといった話にもならない政策ばかり出すことだ。数十年間、自力更生をしてきたではないか。自力更生だけでは絶対に経済を発展させられないことはわかりきっているのに、強制的に貫徹させようとするのは、指導層にもこれといった案がないからだろう。
しかし、米国や国連が敵対的な関係を続けて、制裁撤回のための積極的な努力をしないのも大きな問題だ。コロナのように困難な状況となり、人民が苦しい暮らしをしているのに、自力更生ばかり強調するのは無能な措置だと思う。
ー経済難を解決するために必要な政策は?
話にもならない正面突破戦を強調するのではなく、経済封鎖(制裁)が緩和されるように積極的に取り組んで欲しい。その次に、南北(朝鮮)の交流を通じて、南側(韓国)との友好関係を築いてほしい。交流が増えると、人民の経済生活もよくなると思う。
それ以外にも、他の国とも友好的な関係を築き、経済的に活発になって発展するのが最大の望みだ。そうしてこそ、われわれ人民の生活もよくなるのではないかと思う。
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