北朝鮮の漁師に迫る「生命の危機」、資材なく漁船修理できず
毎年秋から冬にかけて、東北や北陸の日本海沿岸には多数の木造船が漂着する。もぬけの殻の場合もあれば、遺体が発見される場合もある。いずれも北朝鮮から来たものだ。
2016年に犠牲になった漁民の数は平安南道(ピョンアンナムド)だけでも300人を超える。彼らが危険を顧みず漁に出ようとするのは、海産物の価格が上昇傾向にあることが一因だ。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)と両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、日本海で水揚げされたスケソウダラ、ホッケ、マス、イカナゴ、エビ、タコはすぐに冷凍保存され、両江道を経て中国に密輸される。
ホッケは1匹1万2500北朝鮮ウォン(約175円)、アコヤ貝は1袋23万7000北朝鮮ウォン(約3300円)で取引されている。中国への密輸が増えると国内の市場で品薄になるため、輸出用・内需用とも価格が上がるものと思われる。
漁に出るのは、儲かるからだけではない。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、北朝鮮水産省は3月初め、清津(チョンジン)市の各水産事業所に対して「冬季船舶修理期間を前倒しして出漁に備えよ、水揚げの実績を向上させよ」との指示を下した。
しかし、未だに船が動く気配はない。
「冬の寒さで港が凍りついて、漁船が動けなくなっている、氷が溶けるのを待つばかりだ」(情報筋)
朝鮮中央テレビの天気予報によると、3月の6日までは最低気温が氷点下7度、最高気温が0度だった。情報筋がこの話を伝えてきた3月20日は氷点下4度/2度まで上昇し、また23日には氷点下2度/9度まで上昇している(いずれも予報値)。そのため、海の氷は溶けつつあるものと思われる。
しかし、氷が溶けてもすぐに出港できるわけではない。漁船の修理に1ヶ月以上を要するからだ。政府が「前倒し」を命じたのは、この期間を短くするためだ。各水産事業所が所有する漁船は、12馬力の木造船か、30馬力の鋼鉄船だが、修理に必要な資材はすべて中国からの輸入に頼っている。
造花に使う針金ですら「軍事的に転用が可能だ」という理由で、中国税関により輸出を止められている状況であり、船舶用資材の輸入は極めて困難だ。
現地の別の情報筋によると、最近政府から「自力更生の精神で海産物生産を高めよ」との指示が下された。現場の事情を考えず、実績を上げることばかり強調する政府に対して、「一体何をどう自力更生しろというのか」「修理に必要な鉄板、コールタール、溶接棒、発電機も何もないのに、自力更生とは何の戯言か」などと、漁民の間から非難の声が上がっている。
当局が漁民をこのまま日本海に追いやれば、またもや多くの人命が失われるのは避けられないだろう。
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