南北首脳会談を見るうえでの最大のポイント
2015年8月24日、北朝鮮と韓国は関係を改善することでいったん合意した。同月4日、北朝鮮側が非武装地帯に仕掛けた地雷が爆発して韓国軍兵士の身体の一部が吹き飛ばされた。それをきっかけに南北の軍事対立が激化し、戦争寸前にまで行ったのを、ギリギリの対話で踏みとどまったのだ。
しかし合意後も、北朝鮮側の挙動には不穏なものがあった。本気で関係改善を欲しているようには見えなかったのだ。そして案の定、翌年1月には4回目の核実験を強行。その後も弾道ミサイル発射と核実験を繰り返し、北朝鮮と韓国の対立は決定的なものになった。
つまり2015年8月の関係改善の合意は、明らかに北朝鮮側の「時間稼ぎ」だったのだ。その時点では、仮に韓国と軍事衝突に至っても「勝てない」と踏み、核開発の加速化を準備したのであろう。
そして今日、南北間で3回目の首脳会談が開かれる。前後の状況から、韓国との関係改善に賭ける金正恩党委員長の意思は本物のようにも見える。
2015年8月と今とでは、大きく3つの相違点があると言える。第1に、北朝鮮が核戦力の完成を昨年の段階で宣言したこと。第2に国際社会の経済制裁により、北朝鮮経済が圧迫されていること。そして第3に、韓国の文在寅政権が北朝鮮の人権侵害追及に積極的でないことだ。
北朝鮮政府は2016年1月6日に発表した声明で、核実験を強行した理由として、米国による軍事・経済的な圧迫と並び「謀略的な『人権』騒動」を挙げた。恐怖政治で権力を維持している金正恩党委員長にとって、人権侵害を追及されることは、体制の根幹に触れる問題だ。この問題が前面に出ている限り、妥協は不可能なのだ。
そしてその後、北朝鮮は核実験を繰り返し、様々な射程の弾道ミサイル開発に成功したことで、国際社会の危機感を増大させることに成功し、人権問題を相対的に小さく見せることに成功した。「非核化」を取引材料にして対話を重ねて行けば、人権侵害の上に成り立っている体制の存続を、既成事実化することも可能だ。
しかし、国民の利益を顧みず、選挙の洗礼をまったく受ける心配のない独裁体制は、いつでも再び核開発に舵を切ることができる。北朝鮮の民主化なくして、危機を根本から除去することにはつながらない。
きょうの南北首脳会談でどのような場面が演出されようとも、我々は決してそのことを忘れてはならない。
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