飢餓の中「一さじの昼食」を分け合う北朝鮮の人々
北朝鮮の黄海北道(ファンヘブクト)は、韓国と接する軍事境界線の北側にあり、比較的温暖な気候で平野も多く、大穀倉地帯となっている。
国営の朝鮮中央通信は先月31日、黄海北道での大豆の種まきが終わったと報じ、今月3日には全国の田植えが完了したと報じた。
本当に終わったのかどうかは定かでないが、地元当局はかなり無茶な動員をかけて、無理やり田植えを行ったようだ。黄海南道(ファンヘナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
朝鮮労働党の沙里院(サリウォン)市委員会は先月20日、各洞(町)の事務所と人民班(町内会)を通じて、「沙里院市は火かき棒も走らなければならない時期」だとして、老人までも「田植え戦闘」に動員した。この「火かき棒」とは、二十四節気の一つで、穀物の種まきや田植えをする日の「芒種」(6月6日)の比喩だ。そして、各人民班ごとに野良仕事のノルマを課した。
コロナ前までは、老人は田植えの動員を免除され、家で留守番をしたり、もぬけの殻となった町内の見回りをしたり、赤ん坊の世話をしたりなど、動員を裏から支える役割を担っていた。ところが、今では老人も若者と同じように田畑に行けと言われている。
しかし、すぐに問題が起きた。68歳の男性は先月25日午後3時ごろ、畑でトウモロコシの苗を植えていた最中に倒れて、放送車(プロパガンダを流す街宣車)で病院へ運ばれた。下された診察結果は、酷い脱水と栄養失調。
妻と二人暮らしのこの男性の家には、食べるものがほとんどなく、1日に1食がやっと。この日も重労働を前にして、何も食べずに家を出て、昼に食べる弁当も持っていなかった。
夫が倒れたという連絡を受けて駆けつけた妻は「家に食べるものが何もない、退院して帰宅しても何も食べさせてあげられない」と泣きじゃくったという。
それを聞いた医師たちは、昼食から1匙ずつご飯を集めて、老夫婦に手渡した。その優しさに触れた夫婦は、しばらく泣き続けていたとのことだ。
北朝鮮の人々の間には助け合いの精神が根付いていて、誰かから強制されなくても困った人を助けることはよくあるようだ。一方で、金正恩総書記や朝鮮労働党は「人民愛」を強調するが、人民には冷たい。実際、今回の事態を受けて、朝鮮共産党沙里院市委員会の下した緊急指示はこんなものだ。
「61歳以上の年老保障者(年金受給者)は、弁当を持たなくても(田畑に)行き来できるように午前だけ仕事をさせよ、洞事務所は車で送り迎えせよ」
動員免除はせず、時間短縮で対応せよということだ。いや、これでもかなりマシな方かもしれない。
金正恩氏は2012年、指導者就任の祝宴のためにこの近隣地域から食糧を根こそぎ徴発し、大量の餓死者を出した「前科」がある。また、現在各地で餓死者が出ているが、充分な対策を取っていない。地域によっては、6割が「絶糧世帯」、つまり食べ物が底をついた世帯となっているが、その対応は地方に丸投げしている。
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