金正恩の「マスゲーム批判」で苦しむ子供たちの「深刻な後遺症」
北朝鮮の金正恩党委員長は3日、李雪主(リ・ソルチュ)夫人らとともに大規模なマスゲーム・芸術公演「人民の国」の開幕公演を鑑賞した。これを伝えた4日付の朝鮮中央通信によれば、金正恩氏は次のように不満を表したという。
「敬愛する最高指導者は公演後、大マスゲーム・芸術公演の創造のメンバーを呼びつけて作品の内容と形式を指摘し、彼らの誤った創作・創造気風、無責任な働きぶりについて深刻に批判した」
これを受け、マスゲームは10日から一時中断されていると各国メディアは伝えている。
以前なら、金正恩氏から批判を受けた責任者らは処刑されてもおかしくはなかった。現に数年前には、スッポン養殖工場の支配人が管理不備を責められて処刑された。
世界の耳目が集まっていることもあり、金正恩氏もさすがにマスゲームの責任者たちを片っ端から処刑することはないだろうが、彼の怒りが数多くの人々を苦しめることになるのは変わりない。中でも最大の犠牲者となるかもしれないのが、マスゲームに動員された数万人の子どもたちだ。
北朝鮮のマスゲームには10代はもちろん、5〜6歳の児童までが大量に動員されている。当局から号令がかかると、幼稚園は舞踊や体操に秀でた園児を選抜。また、小中高校は勉強そっちのけでマスゲームの練習、リハーサル、公演に取り組ませる。
その練習は極めて過酷だ。夏場には30度を超える暑さの中で長時間の練習や公演をさせられるせいで、関節炎、膀胱炎、神経痛を訴えて通院を余儀なくされるケースも少なくない。今回、金正恩氏の批判を受けてマスゲームの内容が大幅に見直されるとしたら、子どもたちをさらなる「苦行」が襲うことになるかもしれない。
北朝鮮はほかにも、様々な面で児童に対する人権侵害が指摘されている。
その中でもマスゲームは最大規模のものであり、国際社会から批判を浴びるようになって久しく、金正恩氏もそのことを認識しているはずなのだ。実際、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は今年3月、北朝鮮当局が人権問題を気にしてマスゲームを中止する可能性があると伝えていた。
実際にはそうならなかったのは、経済制裁により困難を極める台所事情があるのかもしれない。というのも、国連安全保障理事会の制裁決議で北朝鮮観光は制裁指定されておらず、またマスゲームは中国人観光客には人気で、ドル箱商品になっているのだ。
しかし、孤児院の環境改善に力を入れるなど、「慈愛深い最高指導者」をアピールしている金正恩氏が、児童に対する人権侵害批判に無神経でいられるのだろうか。いっそこのままマスゲームを「永久禁止」にしたら、人々の彼を見る目も変わるのではないか。
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