北朝鮮「食い詰めた兵士」に群がるブローカーたち
すべての北朝鮮男性は学校卒業後に、工場、企業所、農場、機関などの職場に配置される。勤め先は、単なる労働の場にとどまらず、食料品や生活必需品の配給を受け取る窓口でもあり、思想教育の場でもあった。大規模な工場になると、独自の住宅、託児所なども完備していた。現金収入は乏しくとも、普通に働いてさえいれば、生きていけたのだ。
ところが、旧共産圏からの援助が途絶えた1990年代以降、その機能がマヒし、配給が得られなくなった。多くの人が現金収入を得るために商売を始めたが、無断出勤は違法行為であり、自己都合の退職も認められない。そこで夫ではなく妻が市場に働きに出るようになった。
それから20数年。旧来の社会主義計画経済システムは未だに残されているものの、今や北朝鮮国民の3分の2が、勤め先からの給与ではなく、市場などの商売で収入を得るようになっているとされる。
最も一般的なのは、当局が定めた市場で、一定の使用料を払って売台(ワゴン)を借り、どこかから仕入れた商品や、自宅で製造したものを販売する形態だが、おりからのコロナ不況で市場はどこも閑古鳥が鳴いている。食い詰めた人々は儲かりそうなところに押しかけ、店を開く。最近、商人が増えているのは、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊周辺だ。
米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、部隊には幹部やその家族を対象とした軍人商店があるが、大して商品がないため利用者は少なく、幹部も一般の兵士も部隊周辺の屋台で買い物をするという。
一般の兵士への待遇は極めて悪く、食糧は横流しされ、栄養失調がまん延している。多くが家族からの食べ物の差し入れや仕送りに頼っているが、これを狙った悪徳業者もいると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋が伝えている。
一般の兵士は許可なく部隊の外には出られない。家族からの送金を受け取るには銀行に行かなければならないが、市や郡に1店舗ほどしかなく、引き出しに行くのも一苦労だ。
そこで、代わりに現金を引き出して本人に伝達するブローカーが数多く登場したが、手数料が引き出し額の1割にもなる。こうしたブローカーは違法行為だ。
刑法112条
ブローカー行為を行い大量の利益を得た者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。前項の行為で得た利益が特に多い場合は3年以下の労働強化刑に処す。
北朝鮮の刑法は、そもそも個人による商行為を禁じているなど、現実とはかけ離れたものだが、軍当局はブローカーのみならず、部隊周辺での商行為の実態調査に乗り出し、商行為を行っている者すべてを処罰する方針だ。
その後の動きについていずれの情報筋も伝えていないが、待遇の改善なくして、ブローカーや商人がいなくなければ、部隊の幹部や兵士が困るだけなのだ。
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