もはや「就職詐欺」というべき北朝鮮の嘆願事業
北朝鮮の平壌観光大学は、観光活性化を目的とし、観光関連業の専門家を育成するために2014年に設立された大学だ。卒業者は、朝鮮国際旅行社などに配属されることになっている。
コロナ前の北朝鮮では、中国からの観光客が急増。キャパシティを超えてしまい、一時的に受け入れ制限を行うほど大盛況だった。2018年には、多い日で1人2000人の外国人観光客を受け入れた。
(参考資料:急増する外国人観光客に「キャパ限界」…北朝鮮が受け入れ制限)
ところが、状況は一変。2020年1月に新型コロナウイルスの国内流入を防ぐために、外国人の入国はもちろん、自国民ですら帰国を許さない鎖国状態となった。そんな中で新卒者の行き先が決まったが、華々しい観光業で活躍しようとしていた彼ら、彼女らにとっては極めて理不尽な決定となった。平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
人材はコロナ禍の下でも育成が続いたが、観光業界に配属させても仕事は全くなく、配属先が決まらず待機状態にいる人も増加。そんな状態を朝鮮労働党平壌市委員会(平壌市党)は問題視し、朝鮮労働党中央委員会(中央党)に報告した。
中央党は、「現状に合わない配属は意味がない、観光産業が活性化されるまでは嘆願進出者のリストに多く登録して、幹部事業(幹部人事)の方向そのものを転換せよ」との指示を下した。職場には配属されたものの、仕事がない人も含めて、嘆願させるように指示した。
「嘆願」とは、誰も行きたがらない農村や炭鉱など危険、キツい、汚いの3Kの職場に、「頼むから行かせて欲しい」と志願することだが、そんなところに自らの意志で行こうとする若者はほぼ皆無だ。実際は、各地域ごとにノルマが割り当てられ、「嘆願者を何人送り出せ」と半強制的に派遣するものだ。
(参考資料:北朝鮮の若者たちを憂鬱にする「嘆願」という名のタダ働き)
ただし、経歴を積んだ社員は対象から除外し、新入社員だけを選んでいる。もし行かないなどと言い出しても、非党的行為だと指摘して、絶対に妥協してはならないとも指示している。
中央党は、「観光部門の後備隊の精神力と思想性を検証するにも、革命的気質を育てるためにも良い機会だ」などと、野良仕事をしてこそ、後々立派なイルクン(幹部)になれると精神論を説いているが、観光業に従事するためにがんばって勉強してきたのに、炭鉱や農村に行かされてはたまったものではない。華々しい舞台を期待していたのに、山中の寒村で一生貧困と闘うはめになるかもしれない。
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