「いっそ戦争でも…」壊滅前夜の北朝鮮で台頭する”破壊願望”
北朝鮮では先月から、麦やジャガイモの収穫が始まっている。また、中国やロシアからコメや小麦粉が大量に輸入されている。長きにわたった食糧難がようやく解消するかと思いきや、未だに餓死者を出すような状況が続いているという。
平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、道内の泰川(テチョン)で先月、50代女性のAさんが餓死した。
体調が悪く仕事ができなかったAさんは、人民班(町内会)で持ち寄ったトウモロコシなどを受け取り、それで糊口をしのいでいたが、苦しいのは皆が同じ。それだけでは充分ではなく、食べ物も、それを買う現金も底をついた「絶糧世帯」となっていた。
苦しい中でも助け合っていた人民班の人々だが、人民班長(町内会長)は「餓死ではなく病気が悪化して死んだのだ」として、死因について外部で話さないようかん口令を敷いた。どこから指示があったのかは不明だが、餓死者が発生したとの情報が広まると社会不安につながるとの判断があったようだ。
上述のようにロシアから小麦粉が大量に輸入されたが、トウモロコシより市場価格が高く、日々の糧にも事欠く貧しい人々の手には届かない。
隣接する朔州(サクチュ)でも先月末、60代男性のBさんが亡くなった。彼は、これといった病気もせず健康そのものだったが、急に高熱を出し咳をするようになり、わずか数日で息を引き取った。
地域住民はコロナではないかと囁いているが、もしそうだったとしても、金正恩祖書記が「非常防疫大戦」で大勝利したと宣言した以上、認められることはない。ちなみに、朔州は川を挟んで中国と向かい合う地であり、かつては中国の遊覧船に北朝鮮の船が接近して土産物などを売る光景が見られた。
現地の保健機関は、Bさんがインフルエンザにかかり、高齢だったことを死因に挙げたが、「元気だった人が急に高熱を出して死んだのだからコロナを疑って当然」(情報筋)ではあるものの、やはりコロナだとは表立って口に出せないようだ。
相次ぐ餓死と病死、そしてそれを隠蔽する当局。人々の不安が高まり、過激な意見も聞こえつつある。
「こんな状況なのになにが戦勝節(7月27日の朝鮮戦争休戦協定締結日)か」
「国は何もしてくれないのに、するなということは増えるばかり」
「いっそ戦争でも起きてくれたらいい」
戦争待望論は、北朝鮮社会で不満や不安が非常に高まるたびに頭をもたげる破壊願望だ。
コロナ前には食糧事情が安定し、市場での商売も活発に行われ、「量より質」が問われるほどの状況になりつつあった。ところが、2020年1月に新型コロナウイルス国内流入を防ぐために鎖国状態に入ってから、経済も食糧事情も急速に悪化。正確な数はわからないものの、餓死者を多数出し、市場への統制も高まり、人々の不満はいつになく高まっている。
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