「女性にぎやかし部隊」も沈黙させられた北朝鮮幹部の死

2024年5月15日(水)11時6分 デイリーNKジャパン

北朝鮮の労働現場の映像を見ていると、ワゴン車に積まれたスピーカーから威勢のいい声で何かを叫びつつけている一団をよく見かける。一般的に「扇動隊」、正式には「起動芸術扇動隊」と呼ばれているもので、工場、企業所、協同農場、建設現場を周り、朝鮮労働党の政策を宣伝し、歌って踊って労働意欲を高めるのが目的だ。


1961年に故金日成主席の指示に基づいて発足したこの組織、果たして効果があるのやら甚だ疑問だが、そんな「女性にぎやかし部隊」が急に静かになった。歌舞音曲禁止令が出されたからだ。


朝鮮労働党中央委員会書記を務め、「北朝鮮のゲッベルス」とも呼ばれた金己男(キム・ギナム)氏が7日逝去したが、それに伴う措置とのことだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。


咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、今月8日の朝に道内すべての工場、企業所、機関に「朝鮮労働党書記だった金己男同志が亡くなったので、皆哀悼の意を表するように」との指示が下された。


その後の午前9時から清津(チョンジン)市の浦港(ポハン)区域のマンション建設現場では行われた緊急集会では、朝鮮労働党中央委員会(中央党)から発せされたものだとして、朝鮮労働党咸鏡北道委員会(道党)からこのような指示が言い渡された。


「金己男同志の葬儀は国葬で行う。今日から3日間は歌を歌ったり、大声を出したりせず、厳粛な雰囲気で金己男同志を哀悼せよ」


その瞬間、扇動隊のスピーカーのスイッチが切られた。


「毎日朝から晩まで、耳が痛くなるほど建設現場に響き渡っていた放送員(扇動隊の隊員)の激昂したような口調の演説が急に止まり、現場はネズミ一匹すらいなくなったかのように静まり返った」(情報筋)


やはり扇動隊はうるさいだけで、あまり効果はなさそうだ。


平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、金正恩総書記が示した「地方発展20✕10政策」を貫徹させるため、国全体が「働け!働け!」と大騒ぎだったが、国葬と歌舞音曲禁止令が出されたことで、急に静まり返ったようになったと、現地の雰囲気を伝えた。



国民は今回の指示を聞き、怪訝な表情を浮かべている。


「まあ珍しいこともあるものだ」
「金正恩氏を死守せよと扇動していた彼に、なぜわれわれ(住民)が哀悼の意を表す必要があるのか」


ここまでの状況は金日成主席や金正日総書記が亡くなったときに匹敵するほどだという。それについて情報筋は次のように述べた。


「一人の高位幹部が亡くなったからと党が国葬を行うと宣言して全人民に哀悼を表するよう指示したのを見ると、彼が金正恩時代にいかに中枢的な役割を果たしていたのか見て取れる」

デイリーNKジャパン

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