「崩壊惨事が生々しい」金正恩の新たなタワマン、安全基準を無視
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は3日、金徳訓(キム・ドックン)内閣総理(朝鮮労働党政治局常務委員)が、新たに造成されているタワマン団地「平壌市1万世帯住宅」の建設現場を視察したことを報じた。
同通信によれば、金徳訓氏は「住宅の建設が完工段階に入ったことに合わせて単位別、対象別に応じた工程計画を狂いなく実行し、設計と施工の要求を厳格に守って仕上げ工事と園林緑化の質的水準を徹底的に保障して、人民により文化的で幸せな生活を享受させようとする党の構想と意図を立派に実現することを強調した」という。
金正恩総書記の出席の下、この住宅建設の着工式が行われたのは、今年の3月23日だ。何でも急いで作りたがるのが北朝鮮の常とは言え、今は新型コロナウイルス対策で21カ月間も国境を封鎖し、貿易が停止した状況にある。
国内のモノ不足は深刻で、それは金正恩氏が自ら旗を振る建設事業の現場とて同じだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、現地情報筋が5月末に目撃した建設現場の様子を、次のように伝えている。
「何日か雨が降り続いたのに、何の対策もなく野積みにされた鉄筋が真っ赤に錆びても、気に掛ける人が誰もいない。コンクリートの混合比も安全基準以下なのを見て驚いた。2013年に完工した平川(ピョンチョン)区域のマンション崩壊惨事が生々しく思い出された」
それにしても、金正恩氏は何故、この物資窮乏の折に無理な建設事業を推し進めるのか。
よく言われている説は2つある。
ひとつは、ハコモノ行政以外には、形をもって経済政策の進捗をアピールできる要素がないからだ。経済に実質的な改善があれば、こんなものがなくとも成果は内外に伝わる。金正恩氏は1月の朝鮮労働党第8回大会で、2025年までの経済5カ年計画期間中に毎年1万戸、計5万戸の住宅を平壌に建設すると宣言している。
つまり、1年に1万戸の住宅を作ることは、5カ年計画の成功をアピールするための最低ラインなのだろう。
そしてもうひとつ、北朝鮮当局は国民を大規模な建設事業に動員して疲弊させ、経済難や行き過ぎたコロナ対策に対する不満が爆発しないようにコントロールしているのだという見方もある。
これもあり得ることだが、仮にそんなやり方で大衆の行動を統制できたとしても、人々の心の中には、より大きな不満のガスがたまるだけだろう。
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