今や強硬派に育った金正恩・妹の「お姫さま時代」
名前が「ジュエ」とされる北朝鮮の金正恩総書記の娘について、「朝鮮の新星」「女将軍」という称号が使われ始めたとする報道を受けて、北朝鮮の後継者問題に対する注目が高まっている。
たしかに、最高指導者の子どもに固有の称号が与えられたならば注目すべき動きだが、だからといって、10代前半の少女が「後継者で決まり」と見るのは時期尚早だ。極端な恐怖政治で支配されてきた独裁体制を引き継ぐには、後継者にもそれなりの「素養」が必要だ。
冷酷かつ残忍な一面が備わっていなければならないという意味だが、小学生ほどの少女にそれが可能かどうかを見極めるなどとうてい無理だ。
しかし、彼女が幼少期から「帝王学」を学び始めているのだとしたら、金正恩氏までの代とはまた違った人材になる可能性はある。正恩氏の父である故金正日総書記は、死期が迫るまで後継者を決めなかった。だから「やっつけ」で帝王学を学んだ正恩氏は父の急死後、”アドリブ”で権力を掌握した部分が多かったように思う。
その分、彼の生来の暴力性が発揮され、血なまぐさい粛清が繰り返されたのかもしれない。
一方、金王朝の女性として、史上最も目立った活躍をしているのは正恩氏の妹である金与正氏だが、彼女は兄にも増して自由に育ったようだ。昔から活発で社交的だったという与正氏は、友人も多く、学生時代から仲間と連れ立って、平壌市内の「高級スポット」に現われていたと、ある脱北者は伝えている。
その際に付き従う警護員たちは同僚との間で、与正氏のことを「コンジュニム(お姫様)」という符丁で呼んでいたという。
そうした社交的な一面がトラブルに発展した例もある。
デイリーNK内部情報筋によれば、2015年の5月ごろ、与正氏の金日成総合大学時代の同級生十数人が、勤務先の平壌の中央機関から一斉に姿を消した。その後、全員が地方に追放されたことが明らかになるが、追放の理由は、ほんの些細な言動だった。
彼らは「金与正は同級生だ」と周囲に言いふらしていた。これが党中央に報告され、「最高尊厳(金正恩氏)の妹の同級生であることを軽々しく吹聴するのはけしからん」と見なされたものと思われる。実際、周囲の人たちは、「おそらく金与正との関係を吹聴して、コネを利用しようとしたのだろう」と語っていたという。
ただし、社交的な性格の与正氏は、友人・知人が多いことから追放された同級生たちにも「困ったときは私の名前を出して」と言っていた可能性もある。また、彼女が事前に追放措置を知っていたら反対していただろうとも言われている。
「金与正は同級生」発言が、何らかの実害を出したとは考えにくいが、それにもかかわらず追放されたのは「金正恩氏の意向が強く働いた」」と内部情報筋は見ている。
追放措置が下された5月、金正恩氏はスッポン工場の現地視察に訪れ、激怒。その後、工場の責任者は銃殺に処された。また、現役の人民武力相・玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)氏が銃殺された時期と重なることから、内部情報筋は「神経質になっていた金正恩氏が、追放命令を下したのではないか」と語った。
同級生の追放措置に、与正氏はショックを受け、しばらく仕事が手につかなかったとも伝えられている。
そんな与正氏も、今では米韓に対して強硬な発言を繰り返す「コワモテ」の体制ナンバー2になった。金正恩氏の娘も成人してみれば、あっと驚くようなキャラクターに育っているかもしれない。
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