放置され死にゆく兵士…北朝鮮軍、コロナで兵力3割に打撃
朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は毎年12月1日から翌年3月末まで、冬季訓練を実施する。仮想敵国は米軍と韓国軍だが、今年は訓練開始早々、違う敵との苦しい闘いを強いられている。新型コロナウイルスだ。
北朝鮮は今のところ、国内でのコロナ感染者の発生を認めていないが、感染の疑いで隔離される人が続出している。その数は、軍だけでも5万人超、民間人まで合わせると、総人口2500万人の0.54%の13万5000人に達している。
デイリーNKの朝鮮人民軍内部情報筋によると、軍の総参謀部、総政治局は訓練初日の今月1日、区分隊ごとの隔離者数を通知し、衛生防疫事業の強化を指示した。また、来年1月の朝鮮労働党第8回大会まで、1人の感染者も出してはならないとの点も強調した。
慈江道(チャガンド)、咸鏡北道(ハムギョンブクト)、平安北道(ピョンアンブクト)、両江道(リャンガンド)の国境地帯の部隊に対しては、軍医所が所属兵士の発熱状態を持続的にチェックすることを指示した。
しかし、そんな努力もむなしく、早速新型コロナウイルスの疑いのある兵士が続出している。
平安北道の塩州(ヨムジュ)に駐屯する第8軍団では、発熱や呼吸器の症状を訴える患者が続出し、隔離施設がパンクする事態となっている。他の軍団でも、状況は似たりよったりだという。
「病棟も不足し、軍医、看護員もとても足りない状況」
「全般的に(施設拡充が)発熱者の増加スピードに追いつけない状況に陥った」
(情報筋)
これに対して軍医局は、隔離対象者を地区ごとに設置された施設に移送するのではなく、軍団司令部の隔離病棟を拡充せよとの指示を下した。軍団所属の病院の中には、入院患者をすべて内科病棟に移すなどして、外科病棟を閉鎖し、対象者を隔離しているところもある。
それでも対象者全員を収容できない事態に陥り、外部に建設したプレハブの施設に収容する事態となっている。まともな暖房施設がない上に、医師の診断も、薬の処方もされず、ただ我慢することを強いられている。病気ではなく、低体温症で亡くなる事例も発生している。
「前日の夜まで隣で寝ていた同僚が、翌朝に息絶えているのを目の当たりした兵士たちは『自分もいつ死ぬかわからない』と恐怖に震えている。そんな状況なのに、両親に手紙1通出せない」(情報筋)
別の軍内部情報筋によると、隔離施設では1日3食が提供されるものの、トウモロコシ飯、塩スープ、大根の漬物だけで、量が少なく空腹を訴える者が多いという。週末には麺類が出されるが、肉や卵などのタンパク質が入っていることは極めて少ない。
世界保健機関(WHO)の指針とは異なり、窓を開けての換気を禁止しているため、ダニやノミが増加。洗濯や入浴も頻繁にできず、下着の供給もなされないため、疥癬などの皮膚病が蔓延している。
情報筋は「見込みがないと判断されれば、何の治療も受けられず、隔離だけして放置しているのだから、死者が増えるのは当たり前だ」と嘆いている。
軍医局は、兵士が隔離されても家族には伝えず、手紙や電話のやり取りを禁止しており、死亡したら家族に死亡通知書が届けられるだけで、遺骨すら戻ってこない。
「夏ごろまでは、隔離施設で亡くなった者は消毒をした上で火葬し、所属部隊が遺骨を裏山に葬っていたが、今ではまとめて火葬している。死者が多すぎて、9月からは戦死者への弔いの儀式の小銃発射も行っていない」(情報筋)
コロナ疑い以外にも、結核、脳膜炎、肝炎、栄養失調で、兵力全体の35%が訓練に参加できない状況だった。軍当局は無理やり退院させるなどして、9割以上を訓練に参加させようとしたが、隔離者の急増で、当初の計画は水の泡と消えたようだ。
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