吉川明日論の半導体放談 第294回 ゴジラ-1.0 - ハリウッドが脱帽した日本のVFX技術
マイナビニュース2024年3月13日(水)6時30分
前回のコラムで「限られた条件の下で最適解を見つける」日本の優秀技術について触れてみたが、それがそのまま現代の映画界の最前線で実証されたような気がして、大きな興奮を覚えた。
というのも、第96回 米アカデミー賞で山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞を受賞したからだ(同時に宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」も長編アニメーション賞を受賞した)。まさに快挙である。私の自宅には大小/古今のゴジラのフィギュアが溢れている。往年のゴジラファンとしては格別にうれしいニュースである。
VFXのメッカ、ハリウッドで日本映画が視覚効果賞を受賞する快挙
ハリウッドは映画制作のメッカであるとともに、最先端の視覚効果技術をビジネスとしている大小のスタジオやVFXサポート企業がひしめいている。DreamWorks、Pixar、Walt Disneyといった世界に冠たるスタジオだけでなく、UnityやUnreal EngineなどといったVFX制作をサポートするライブラリーやシミュレーションソフトを提供する技術集団も多くあり、「スター・ウォーズ」、「アバター」、「タイタニック」といった過去のハリウッドによる視覚効果賞部門での受賞作品の多くにこれらの重厚なVFXインフラ企業が関わっているのが通例である。
しかし、報道によれば、ゴジラ-1.0に関わったVFX制作スタジオは「白組」という製作スタッフが35人ほどという小規模な集団で、総制作費は非公開ながら同部門にノミネートされた他作品の1/10にも満たないということだ。非常に興味を持ったので、YouTubeなどに公式がアップされた“メイキング・ビデオ”などを見てみると、少人数のスタッフが限りある予算・リソースを有効に活用して、短期間で大迫力のシーンを短期間に創り上げていった様子が見て取れた。
しかし、1カットで5TBという膨大なデータ量をあのようなリアルな映像に加工するのには、自然界での物の落下、崩れ方、生物の動きなどの実際の映像を細部まで観察し、高性能のCPU/GPUを活用したワークステーションに物理式を入力するという地道な作業の果てしない繰り返しであり、制作スタッフのあくまでも細部にこだわる執念が感じられる。
映画全体だけでなく、VFX制作の総監督も務めた山崎貴監督のゴジラ映画にかける情熱にはただただ敬服するばかりである。
幻の戦闘機「震電」の飛行が見れるゴジラ-1.0のラストシーン
前回のコラムでは、ゴジラ-1.0のラストシーンに登場した幻の戦闘機「震電」についてもご紹介した。焦土と化した敗戦直後の日本に突如出現し、東京を蹂躙する大怪獣ゴジラから国民を守る一撃を加えた“震電”が登場するシーンは大変に印象的だった。先のコラムの執筆とゴジラ-1.0のアカデミー賞の受賞はまったくの偶然だったが、その絶妙なタイミングに押されて調べていくうちに、実は映画に使われた実物大の模型の“震電”が筑前町の大刀洗平和記念館にあったものであったことがわかった。
後退翼を持つ意欲的な設計が採用された“震電”は第2次世界大戦末期に福岡にあった九州飛行機で開発されたが、かつて旧陸軍太刀洗(たちあらい)飛行場があった跡地にこの記念館が建っている。この「太刀洗平和記念館」にはゼロ戦や九七式戦闘機の実物が展示されている。かねてより記念館はこの地で開発された“震電”も展示したいと切望していて、実機が存在している米スミソニアン博物館との交渉も試みたが、結局、日本での展示には至らなかった。そこで、記念館はゴジラ-1.0公開まで出所を秘密にするという条件で映画製作後、東宝からこの実物大模型を買い取り、現在の展示に至ったという。
興奮のあまり、とめどない話を一気に書いてしまったが、ビキニ環礁の水爆実験により目覚め、日本を襲う1954年の初代から、今回のゴジラ-1.0までのすべてのゴジラ映画を観てきた私ではあるが、ゴジラの魅力は増すばかりだ。今回、作品賞・監督賞・主演男優賞を含むアカデミー賞の7部門を受賞したのはクリストファー・ノーラン監督が「原爆の父」と呼ばれる物理学者を描いた「オッペンハイマー」だった。一見すると趣のまったく異なるこの2つの映画に不思議な符号を読み取るのは私だけではないと思う。
吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。 この著者の記事一覧はこちら
というのも、第96回 米アカデミー賞で山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」が視覚効果賞を受賞したからだ(同時に宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」も長編アニメーション賞を受賞した)。まさに快挙である。私の自宅には大小/古今のゴジラのフィギュアが溢れている。往年のゴジラファンとしては格別にうれしいニュースである。
VFXのメッカ、ハリウッドで日本映画が視覚効果賞を受賞する快挙
ハリウッドは映画制作のメッカであるとともに、最先端の視覚効果技術をビジネスとしている大小のスタジオやVFXサポート企業がひしめいている。DreamWorks、Pixar、Walt Disneyといった世界に冠たるスタジオだけでなく、UnityやUnreal EngineなどといったVFX制作をサポートするライブラリーやシミュレーションソフトを提供する技術集団も多くあり、「スター・ウォーズ」、「アバター」、「タイタニック」といった過去のハリウッドによる視覚効果賞部門での受賞作品の多くにこれらの重厚なVFXインフラ企業が関わっているのが通例である。
しかし、報道によれば、ゴジラ-1.0に関わったVFX制作スタジオは「白組」という製作スタッフが35人ほどという小規模な集団で、総制作費は非公開ながら同部門にノミネートされた他作品の1/10にも満たないということだ。非常に興味を持ったので、YouTubeなどに公式がアップされた“メイキング・ビデオ”などを見てみると、少人数のスタッフが限りある予算・リソースを有効に活用して、短期間で大迫力のシーンを短期間に創り上げていった様子が見て取れた。
しかし、1カットで5TBという膨大なデータ量をあのようなリアルな映像に加工するのには、自然界での物の落下、崩れ方、生物の動きなどの実際の映像を細部まで観察し、高性能のCPU/GPUを活用したワークステーションに物理式を入力するという地道な作業の果てしない繰り返しであり、制作スタッフのあくまでも細部にこだわる執念が感じられる。
映画全体だけでなく、VFX制作の総監督も務めた山崎貴監督のゴジラ映画にかける情熱にはただただ敬服するばかりである。
幻の戦闘機「震電」の飛行が見れるゴジラ-1.0のラストシーン
前回のコラムでは、ゴジラ-1.0のラストシーンに登場した幻の戦闘機「震電」についてもご紹介した。焦土と化した敗戦直後の日本に突如出現し、東京を蹂躙する大怪獣ゴジラから国民を守る一撃を加えた“震電”が登場するシーンは大変に印象的だった。先のコラムの執筆とゴジラ-1.0のアカデミー賞の受賞はまったくの偶然だったが、その絶妙なタイミングに押されて調べていくうちに、実は映画に使われた実物大の模型の“震電”が筑前町の大刀洗平和記念館にあったものであったことがわかった。
後退翼を持つ意欲的な設計が採用された“震電”は第2次世界大戦末期に福岡にあった九州飛行機で開発されたが、かつて旧陸軍太刀洗(たちあらい)飛行場があった跡地にこの記念館が建っている。この「太刀洗平和記念館」にはゼロ戦や九七式戦闘機の実物が展示されている。かねてより記念館はこの地で開発された“震電”も展示したいと切望していて、実機が存在している米スミソニアン博物館との交渉も試みたが、結局、日本での展示には至らなかった。そこで、記念館はゴジラ-1.0公開まで出所を秘密にするという条件で映画製作後、東宝からこの実物大模型を買い取り、現在の展示に至ったという。
興奮のあまり、とめどない話を一気に書いてしまったが、ビキニ環礁の水爆実験により目覚め、日本を襲う1954年の初代から、今回のゴジラ-1.0までのすべてのゴジラ映画を観てきた私ではあるが、ゴジラの魅力は増すばかりだ。今回、作品賞・監督賞・主演男優賞を含むアカデミー賞の7部門を受賞したのはクリストファー・ノーラン監督が「原爆の父」と呼ばれる物理学者を描いた「オッペンハイマー」だった。一見すると趣のまったく異なるこの2つの映画に不思議な符号を読み取るのは私だけではないと思う。
吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。 この著者の記事一覧はこちら
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