がん組織近くで使える高エネルギー電子線をレーザーで生成、QSTなど
マイナビニュース2024年4月1日(月)19時4分
量子科学技術研究開発機構(QST)と科学技術振興機構(JST)の両者は3月29日、細孔が多数開いたガラス板(マイクロチャンネルプレート)へのピーク出力の低いレーザー光照射でも、がんの治療に利用される放射線の一種である「高エネルギー電子線」を発生させられることを実証したと共同で発表した。
同成果は、QST 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所の森道昭上席研究員らの研究チームによるもの。詳細は、物理学に関する全般を扱う学術誌「AIP Advances」に掲載された。
免疫療法もあるが、現在のがんの標準的な治療方法といえば、外科的手術、抗がん剤による化学療法、そして放射線治療だとされ、放射線治療は、人体に負担となる外科的手術を伴わないため、生活の質の高い治療法といえる。しかし、放射線療法にも課題はあり、改良は続けられているものの、今のところ、患部に放射線を届けるまでに被ばくが避けられない。また、加速器運転に伴って放射線が発生したり、放射線源の取り扱いなどに注意する必要があったりと病院施設側の負担もあるほか、装置の価格が高く、運用コストもかかることも課題とされていた。
レーザーを物質に照射することで生じたプラズマにおいて強い電場強度が発生し、電子(放射線の一種の電子線)を加速させることができる。この手法では、ピーク出力の高いレーザーを使うことで、電場強度が一般的な粒子加速器が発生できる電場強度の数百から数千倍に相当し、強力な加速力を生み出せるという。
瞬間的に光を放つパルスレーザーは、発光時間が短いほど、瞬間的には強い光強度(ピーク出力)を発生させることが可能だ。そのため、現在のレーザープラズマ加速研究は、ピーク出力のより高いレーザー装置を用いて、より高いエネルギーの電子発生を目指すのが、世界的なトレンドとなっているとする。中でも、高エネルギーの電子発生を目指すような科学実験などでは、1平方cmあたりエクサ(100京、10の18乗)ワット級の非常に強いレーザー強度(ピーク出力を集光面積で割ったもの)が用いられている。
それに対し、産業や医療などへの応用では十分なエネルギーの電子線を、必要とされる数だけ発生させられる手法として、研究チームの一員である田島俊樹博士が、カーボンナノチューブ(CNT)に低いピーク出力のレーザーを照射することで生成されるプラズマを利用するという研究成果を発表していた。そこで今回の研究では、QSTでこれまで培われてきた技術をベースにしつつ、ピーク出力はエクサワット級の1/10~1/100程度と低いが、その代わりに非常に安定したレーザー装置を活用するという発想の転換をし、高効率かつ実用的な電子の加速を目指すことにしたとする。
なお今回の研究では、CNTを利用しないことにしたという。その理由は、整列されたCNTは製造上の技術的課題が多く、実用化に向いていないことが課題として浮かび上がったからである。そこで、1mm四方のガラス板に10マイクロメートルの微小な穴が約6000個も空いた材料である市販の「マイクロチャンネルプレート」でも同様の効果を得られると考えられたことから、今回は同材料を用いて実験を行うことにしたとする。そして、実際にパルスレーザーをマイクロチャンネルプレートに照射したところ、実際に数百キロ電子ボルト(keV)レベルの高エネルギー電子線が発生することが確認されたとした。
今回の実験結果から、光ファイバーの先端に微小なマイクロチャンネルプレートを固定した装置を作製し、10ミリジュール程度の比較的低い出力の手のひらサイズのレーザー装置(ファイバーレーザーやマイクロチップレーザーなど)を利用し、内視鏡と組み合わせて体内のがん組織に近接させた場所まで先端を近づけてそこで高エネルギー電子線を発生させれば、患部その場での放射線治療を行える可能性があるという。この方法であれば、周囲の正常細胞が被ばくする線量を低減させることが可能であり、また放射線遮蔽設備を必要としない放射線がん治療技術の確立につながる(装置の価格や運用コストの削減につながる)とした。
また今回の研究成果は、医療応用だけでなく、電子を使った可搬型の殺菌装置や、可搬型の電子顕微鏡など、他分野への展開も見込まれるという。QSTでは、今後も電子線発生に適したレーザー条件の探索を進めることで、内視鏡型がん治療装置用だけではなく、産業応用に適した小型の新たな電子線発生装置の研究開発も進めていく予定としている。
同成果は、QST 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所の森道昭上席研究員らの研究チームによるもの。詳細は、物理学に関する全般を扱う学術誌「AIP Advances」に掲載された。
免疫療法もあるが、現在のがんの標準的な治療方法といえば、外科的手術、抗がん剤による化学療法、そして放射線治療だとされ、放射線治療は、人体に負担となる外科的手術を伴わないため、生活の質の高い治療法といえる。しかし、放射線療法にも課題はあり、改良は続けられているものの、今のところ、患部に放射線を届けるまでに被ばくが避けられない。また、加速器運転に伴って放射線が発生したり、放射線源の取り扱いなどに注意する必要があったりと病院施設側の負担もあるほか、装置の価格が高く、運用コストもかかることも課題とされていた。
レーザーを物質に照射することで生じたプラズマにおいて強い電場強度が発生し、電子(放射線の一種の電子線)を加速させることができる。この手法では、ピーク出力の高いレーザーを使うことで、電場強度が一般的な粒子加速器が発生できる電場強度の数百から数千倍に相当し、強力な加速力を生み出せるという。
瞬間的に光を放つパルスレーザーは、発光時間が短いほど、瞬間的には強い光強度(ピーク出力)を発生させることが可能だ。そのため、現在のレーザープラズマ加速研究は、ピーク出力のより高いレーザー装置を用いて、より高いエネルギーの電子発生を目指すのが、世界的なトレンドとなっているとする。中でも、高エネルギーの電子発生を目指すような科学実験などでは、1平方cmあたりエクサ(100京、10の18乗)ワット級の非常に強いレーザー強度(ピーク出力を集光面積で割ったもの)が用いられている。
それに対し、産業や医療などへの応用では十分なエネルギーの電子線を、必要とされる数だけ発生させられる手法として、研究チームの一員である田島俊樹博士が、カーボンナノチューブ(CNT)に低いピーク出力のレーザーを照射することで生成されるプラズマを利用するという研究成果を発表していた。そこで今回の研究では、QSTでこれまで培われてきた技術をベースにしつつ、ピーク出力はエクサワット級の1/10~1/100程度と低いが、その代わりに非常に安定したレーザー装置を活用するという発想の転換をし、高効率かつ実用的な電子の加速を目指すことにしたとする。
なお今回の研究では、CNTを利用しないことにしたという。その理由は、整列されたCNTは製造上の技術的課題が多く、実用化に向いていないことが課題として浮かび上がったからである。そこで、1mm四方のガラス板に10マイクロメートルの微小な穴が約6000個も空いた材料である市販の「マイクロチャンネルプレート」でも同様の効果を得られると考えられたことから、今回は同材料を用いて実験を行うことにしたとする。そして、実際にパルスレーザーをマイクロチャンネルプレートに照射したところ、実際に数百キロ電子ボルト(keV)レベルの高エネルギー電子線が発生することが確認されたとした。
今回の実験結果から、光ファイバーの先端に微小なマイクロチャンネルプレートを固定した装置を作製し、10ミリジュール程度の比較的低い出力の手のひらサイズのレーザー装置(ファイバーレーザーやマイクロチップレーザーなど)を利用し、内視鏡と組み合わせて体内のがん組織に近接させた場所まで先端を近づけてそこで高エネルギー電子線を発生させれば、患部その場での放射線治療を行える可能性があるという。この方法であれば、周囲の正常細胞が被ばくする線量を低減させることが可能であり、また放射線遮蔽設備を必要としない放射線がん治療技術の確立につながる(装置の価格や運用コストの削減につながる)とした。
また今回の研究成果は、医療応用だけでなく、電子を使った可搬型の殺菌装置や、可搬型の電子顕微鏡など、他分野への展開も見込まれるという。QSTでは、今後も電子線発生に適したレーザー条件の探索を進めることで、内視鏡型がん治療装置用だけではなく、産業応用に適した小型の新たな電子線発生装置の研究開発も進めていく予定としている。
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