東北大、視覚刺激に同調して脳内血管が拡張・収縮することを解明
マイナビニュース2024年5月1日(水)18時10分
東北大学は4月26日、実験動物のマウスを用いて、無垢の頭蓋骨越しに脳内の蛍光を計測する方法と、脳深部に光ファイバを留置して蛍光計測する方法を用いて、脳内の血管の運動である「バソモーション」を観察する方法を開発し、実験の結果、水平方向に行き来する縦縞模様をマウスに提示すると、次第に視覚刺激に完全に同期して、全脳の血管が拡張・収縮を繰り返すようになることが示されたと発表した。
同成果は、東北大大学院 生命科学研究科の佐々木大地大学院生/日本学術振興会 特別研究員(研究当時)、同・今井健大学院生、同・生駒葉子助教、同・松井広教授らの研究チームによるもの。詳細は、生物学と医学の全般を扱う学術誌「eLife」に掲載された。
脳の血管は、自発的に拡張と収縮を数秒単位でゆっくりと繰り返すことがあり、それはバソモーションと呼ばれている。同運動は、血管抵抗を減少させることで、効率よく血液を灌流(かんりゅう)させるために有益だとされており、またアルツハイマー病の原因物質の1つとして知られる「アミロイドβ」のような老廃物が排出(クリアランス)されることも示唆されている。つまり、バソモーションを促進することは、脳の健康と情報処理のクオリティにも影響する可能性があるという。そこで研究チームは今回、この血管の運動に注目したとする。
今回の研究ではまず、マウスの頭皮を麻酔下で切開して露出させた頭蓋骨をコーティングし、無垢の頭蓋骨越しに脳表面の血管が観察された。そして、血液中に蛍光物質を投与して血管を可視化し、血管内の蛍光量と血管径が計測された。すると血管径は、自発的に0.05~0.1Hzの低周波数で、時折拡張・収縮し、また血管内の蛍光量も同じ周波数で同期して増減することが確認されたという。
なお無垢の頭蓋骨越しの像では、血管壁の位置を正確に計測することが困難だったことから、血管径の指標として血管内蛍光量を計測することとなった。また、青色~紫外色領域の励起光を脳に照射すると、主に脳物質から生体分子「フラビン」などによる内因性の緑色の自家蛍光が発生し、血管は影として現れる。その自家蛍光の量の継時変化を計測すると、血管内蛍光量と同じ周波数だが、位相が反転した振動が観察されたとのこと。つまり、自家蛍光の変動を計測することで、血管運動の影をイメージングできることがわかったのである。
次に、覚醒下のマウスの血管運動が解析された。すると、マウスに対して低い時間周波数(0.25Hz)で水平方向に振動する縦縞模様を提示すると、視覚刺激の時間周波数に完全に一致した血管運動の振動が観察された。しかも、視覚刺激に同調した血管運動は、脳領域の「一次視覚野」だけでなく、大脳皮質と小脳の広い表面領域にも誘導されたという。そして、さらに続けて同様の刺激を繰り返したところ、その周波数に同調した血管運動の振幅が徐々に増幅していくことも確認された。なおこのような現象は、これまでに報告されたことがなかったという。
水平方向に周期的に振動する縦縞模様を提示すると、ヒトやマウスの眼球は、この視覚刺激を不随意に追随する「水平視機性眼球反応」(HOKR)を起こす。電車の車窓から外を眺めるヒトの眼を観察すると風景を追う動きが見られるが、これは、眼球運動の不随意反応によるものだ。このような水平振動刺激を繰り返し提示すると、眼球運動の振幅は徐々に増大し、次第に縞模様を視線が正確に捕捉するようになる。
HOKRの学習には、小脳の片葉領域の神経回路の可塑的変化が必須だ。そこで研究チームは、小脳片葉領域の血管運動を観測するため、光ファイバを同領域付近に刺入し、ファイバフォトメトリ法を用いて、内因性の自家蛍光の変動の計測による脳血管の影を計測。すると水平振動の視覚刺激が提示された際、ファイバフォトメトリーで計測される内因性の自家蛍光量も、視覚刺激の周波数に同調して変動することが確認されたという。
そこで、HOKR眼球運動と片葉領域の血管運動の同時計測を行ったところ、水平振動刺激を繰り返し提示すると、HOKR眼球運動学習が進むのと同時に、血管運動の振幅が増加することが示されたとのこと。つまり、血管運動の同調による効率的なエネルギー供給は、神経活動と神経回路の再編成に必要なエネルギー要求を満たすのに寄与している可能性が示唆されたのである。
今回の研究では、血管運動同調と並行して、小脳運動学習が亢進することが解明された。つまり血管運動の増強は、メタ可塑性を増大させ、神経細胞同士の効率的なシナプス可塑性を引き起こすための基盤を提供する可能性があるという。研究チームは、血管運動やエネルギーの分配のされ方次第で、脳神経回路の動作は左右される可能性があり、脳と心の働きは、血管という末梢系の働きに支配的な影響を受けている可能性もあるとしている。
同成果は、東北大大学院 生命科学研究科の佐々木大地大学院生/日本学術振興会 特別研究員(研究当時)、同・今井健大学院生、同・生駒葉子助教、同・松井広教授らの研究チームによるもの。詳細は、生物学と医学の全般を扱う学術誌「eLife」に掲載された。
脳の血管は、自発的に拡張と収縮を数秒単位でゆっくりと繰り返すことがあり、それはバソモーションと呼ばれている。同運動は、血管抵抗を減少させることで、効率よく血液を灌流(かんりゅう)させるために有益だとされており、またアルツハイマー病の原因物質の1つとして知られる「アミロイドβ」のような老廃物が排出(クリアランス)されることも示唆されている。つまり、バソモーションを促進することは、脳の健康と情報処理のクオリティにも影響する可能性があるという。そこで研究チームは今回、この血管の運動に注目したとする。
今回の研究ではまず、マウスの頭皮を麻酔下で切開して露出させた頭蓋骨をコーティングし、無垢の頭蓋骨越しに脳表面の血管が観察された。そして、血液中に蛍光物質を投与して血管を可視化し、血管内の蛍光量と血管径が計測された。すると血管径は、自発的に0.05~0.1Hzの低周波数で、時折拡張・収縮し、また血管内の蛍光量も同じ周波数で同期して増減することが確認されたという。
なお無垢の頭蓋骨越しの像では、血管壁の位置を正確に計測することが困難だったことから、血管径の指標として血管内蛍光量を計測することとなった。また、青色~紫外色領域の励起光を脳に照射すると、主に脳物質から生体分子「フラビン」などによる内因性の緑色の自家蛍光が発生し、血管は影として現れる。その自家蛍光の量の継時変化を計測すると、血管内蛍光量と同じ周波数だが、位相が反転した振動が観察されたとのこと。つまり、自家蛍光の変動を計測することで、血管運動の影をイメージングできることがわかったのである。
次に、覚醒下のマウスの血管運動が解析された。すると、マウスに対して低い時間周波数(0.25Hz)で水平方向に振動する縦縞模様を提示すると、視覚刺激の時間周波数に完全に一致した血管運動の振動が観察された。しかも、視覚刺激に同調した血管運動は、脳領域の「一次視覚野」だけでなく、大脳皮質と小脳の広い表面領域にも誘導されたという。そして、さらに続けて同様の刺激を繰り返したところ、その周波数に同調した血管運動の振幅が徐々に増幅していくことも確認された。なおこのような現象は、これまでに報告されたことがなかったという。
水平方向に周期的に振動する縦縞模様を提示すると、ヒトやマウスの眼球は、この視覚刺激を不随意に追随する「水平視機性眼球反応」(HOKR)を起こす。電車の車窓から外を眺めるヒトの眼を観察すると風景を追う動きが見られるが、これは、眼球運動の不随意反応によるものだ。このような水平振動刺激を繰り返し提示すると、眼球運動の振幅は徐々に増大し、次第に縞模様を視線が正確に捕捉するようになる。
HOKRの学習には、小脳の片葉領域の神経回路の可塑的変化が必須だ。そこで研究チームは、小脳片葉領域の血管運動を観測するため、光ファイバを同領域付近に刺入し、ファイバフォトメトリ法を用いて、内因性の自家蛍光の変動の計測による脳血管の影を計測。すると水平振動の視覚刺激が提示された際、ファイバフォトメトリーで計測される内因性の自家蛍光量も、視覚刺激の周波数に同調して変動することが確認されたという。
そこで、HOKR眼球運動と片葉領域の血管運動の同時計測を行ったところ、水平振動刺激を繰り返し提示すると、HOKR眼球運動学習が進むのと同時に、血管運動の振幅が増加することが示されたとのこと。つまり、血管運動の同調による効率的なエネルギー供給は、神経活動と神経回路の再編成に必要なエネルギー要求を満たすのに寄与している可能性が示唆されたのである。
今回の研究では、血管運動同調と並行して、小脳運動学習が亢進することが解明された。つまり血管運動の増強は、メタ可塑性を増大させ、神経細胞同士の効率的なシナプス可塑性を引き起こすための基盤を提供する可能性があるという。研究チームは、血管運動やエネルギーの分配のされ方次第で、脳神経回路の動作は左右される可能性があり、脳と心の働きは、血管という末梢系の働きに支配的な影響を受けている可能性もあるとしている。
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