AIがサプライチェーンにもたらす「可視性」と「従業員の新たな価値」(前編)
マイナビニュース2024年11月27日(水)16時10分
データ収集の課題を克服し、倉庫の複雑性に対処するために、企業は業務効率を向上する技術の導入を検討する必要があります。本稿では、AIがサプライチェーンの状況をどのように再構築しているのかを探り、AIによって実現可能な可視性の向上がどのようなメリットをもたらすのかについて解説します。
リアルタイムデータがもたらす「可視性」
AIのアルゴリズムは、ロジスティクスにおいて、膨大なデータを分析し、インサイト(知見)を抽出して結果を予測し、自律的な意思決定を支援します。これらアルゴリズムが優れている点は、新たなデータからの学習を継続して行うため、時間とともに適応や改善が続いていくことです。
大幅な在庫レベルの調整から想定外の状況に応じた配送ルートの変更まで、リアルタイムデータがもたらす効果は、業務効率の改善を超えた範囲にまで及びます。リアルタイムデータを戦略的ツールとして用いることもでき、顧客の需要や市場の変化、想定外の事柄への迅速な対応につなげます。リアルタイムデータは、サプライチェーンの可視性も向上します。
ここでの「可視性」とは、物流のさまざまな段階で、モノ、情報、リソースの動きをリアルタイムに追跡・監視する能力のことです。商品がサプライヤーから最終顧客に届くまでの動きを包括的に把握するもので、サプライチェーンのレジリエンス(強靭性)を実現する上で、極めて重要な役割を果たします。
しかし、自社のオペレーションを完全に把握し可視性を実現していると考えているロジスティクス企業は、全体のわずか6%に過ぎません。
「可視性」を向上させるメリット
多くの企業がサプライチェーンのレジリエンス実現に投資を増やす中、投資内容を費用対効果で検討することは欠かせません。コスト効率を高めるという点で「可視性」が果たせる役割には以下の例があります。
問題の早期発見
可視性が確保されると、サプライチェーンのさまざまな段階で表面に現れていない混乱や問題を迅速に特定できます。先を見越した対策を講じて潜在リスクを軽減し、問題の拡大を予防し、将来の混乱を防ぐことにもつながります。
意思決定の向上
正確でタイムリーな情報に基づいた意思決定が可能になります。リアルタイムで提供される高精度のデータとインサイトがあれば、外部の環境変化に素早く即応できるビジネスアジリティを実現できます。
効果的なリスクマネジメント
可視性が確保されると、状況をより正確に把握でき、現在進行中または潜在的なリスクが生じているとみられる領域を特定できるようになります。どこが脆弱であるかを知り、それに応じた危機対応策や万が一に備えた余裕(冗長化)を準備することで、ビジネスリーダーは先を見越した効果的なリスクマネジメントができます。
サプライチェーンの最適化
最適化の基盤はデータです。そして、可視化によってデータとインサイトの質と量が向上し、より効果的なサプライチェーンの最適化やボトルネックの解消、在庫管理の改善に向けた選択肢が広がります。
コラボレーションの強化
可視化を通じて企業内のインテリジェンスと業務認識(オペレーション・アウェアネス、業務の動きを理解すること)が拡大します。これこそ、サプライチェーンのパートナー企業と行う効果的なコミュニケーションやコラボレーション(連携)の中核となるものです。平時や混乱発生時に協働するための、取り組みの作業指針を改善することにつながります。
顧客へのサービスと満足度の向上
コロナ禍で業界に対する信頼の絆は揺るぎました。リアルタイムの可視性は、サプライチェーンの管理という実務上のソリューションとして機能するだけではなく、顧客とつながりインサイトを共有していく上で拠り所となる、強固なデータ主導の基盤をもたらします。透明性が確保されることで、たとえ困難な状況下にあったとしても、顧客満足度と顧客ロイヤリティーは強まります。
データと現実のズレから生まれる「可視性のギャップ」
サプライヤーから輸送業者まで、数多くのステークホルダーが関わる現代のサプライチェーンは非常に複雑なため、完全な可視性を確保し、それを維持することはますます難しくなっています。
その中で多くの企業はいまだに、バラバラに断片化されたレガシーシステムを運用しています。データはサイロ化され、それぞれ別のプラットフォームに蓄積されています。こうした統合性の欠如がデータのシームレスな行き来を妨げており、サプライチェーン全体をリアルタイムで追跡・監視することを難しくしています。ここで生まれるのが、収集したデータが示す姿と実際の状況との差(ギャップ)、「可視性のギャップ」です。
では、可視性のギャップはどのように埋めればよいのでしょうか。以下はそのための提言です。
リアルタイムデータの収集を
リアルタイムのデータを収集することで、すべての業務を俯瞰することができ、さらにそのデータを倉庫管理システム(WMS)と照らし合わせれば、システム内の相違を迅速に発見できます。これを実現するには、在庫レベル、発注状況、出荷追跡について最新情報を即座に提供できる統合システムに投資することが必要です。
高度な分析と予兆検知(予兆監視)を実施
高度なアナリティクスと予測モデリングを活用しましょう。需要の変動予測、在庫レベルの最適化、倉庫内の潜在的ボトルネックの特定に役立ちます。分析にAIを搭載したソリューションを使うことで、より多くのデータから、さらに多くのインサイトと可視性を生み出せます。これまでの思い込みを根拠にするのではなく、業務の今の現実の姿に基づいた意思決定を行うためにも、この点は特に重要です。
テクノロジーインフラへの投資
倉庫内のテクノロジーインフラの更新・統合にリソースを割り当てましょう。業務を合理化して、リアルタイムの可視性を高めるために、WMSやモノのインターネット(IoT)デバイス、クラウドベースのソリューションを導入することなどが含まれます。
コラボレーションの促進
サプライヤー、製造業者、販売業者とのコラボレーションを促進しましょう。サプライチェーン全体で、シームレスなコミュニケーションと情報の流れを確保するために、共通のプラットフォームや標準化されたデータ交換プロトコルを導入しましょう。
従業員教育と「チェンジ・マネジメント」を実施
新たなテクノロジーの活用を最適化するには、従業員トレーニングが重要です。新たなプロセスを従業員が受け入れ、円滑な移行ができるよう、チェンジ・マネジメント戦略を導入します。変革への抵抗感をできる限りなくし、効率化のメリットを最大限に引き出せるようにします。
継続的な改善を
倉庫業務において、継続的に改善に取り組む文化を確立しましょう。データ分析やフィードバックループを行い、業務プロセスを定期的に評価し磨きをかけていくことで、変化し続ける市場の状況に適応できるようにします。
サプライチェーンの担当者はAIやIoTなどの新たなテクノロジーを取り入れ、途切れることのないリアルタイムデータの流れを通じて可視性を向上させる必要があります。データ収集の課題を解決し、倉庫業務における複雑な問題に対処するとともに、エンド・ツー・エンドの可視性とデータの正確性に焦点を当て、一貫性とレジリエンスを確保することが重要です。
○Andrei Danescu、Dexory(デクソリー)CEO兼共同創業者
Dexory(旧BotsAndUs)は英国ロンドンを拠点に、物流倉庫向けの最先端ロボット工学とAlソリューションの開発を行うテクノロジー企業。ダネスクはDexoryの共同創業者で、システム工学と自律技術分野での経験を有するエンジニアでもある。 2004年からロボット開発に携わり、自律型ロボットを世界に広げる機会を探求し続ける。
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