F1技術解説 フェラーリPU開発の軌跡(1):これまでの苦闘から、いかにメルセデスに追い付いたのか
F1の開発はとどまるところをしらず、毎グランプリ、新しいパーツが導入されている。F1iのテクニカルエキスパート、ニコラス・カーペンティアーズが2018年に躍進したフェラーリのパワーユニットについて年代ごとに解説する。
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■フェラーリが苦闘した2014、15年
タイトルこそ獲れなかったものの、2018年のフェラーリは純粋なマシン性能で言えば飛躍のシーズンを送った。中でもパワーユニット(PU/エンジン)『062 EVO』はメルセデスに対し終始互角のパフォーマンスを披露、時にはメルセデスを上回るパワーを発揮した。現行V6ハイブリッドが初めて導入された2014年当時の悲惨な状況を思えば、よくぞここまで盛り返したものである。
フェラーリのパワーユニット開発部門がいかに劣勢を跳ね返し、最強のパワーユニットを造り出すことに成功したのか。豊富なスクープ写真とともに、振り返ってみよう。
■2014年:最悪の初年度
パワーユニット元年のフェラーリは、何もかもがうまくいかなかった。車体開発部門の要請を受けて、ターボコンプレッサーを極限まで小さく設計したのだ。その結果、MGU-H(熱エネルギー回生システム)は十分なエネルギー回生ができず、致命的なパワー不足に見舞われた。そのハンデキャップを空力性能の向上で補えればまだよかったが、目論みは完全に空振りに終わってしまう。
パワーを犠牲にしてでもコンパクトさを追求するフェラーリの設計思想は、オイルタンクをエンジン後方、ギヤボックス上部に設置する愚も犯した(※写真1)。さらにMGU-K(運動エネルギー回生システム)も同様に、排熱の影響をもろに受けるエンジン後方に搭載された。
■2015年:「普通」へ回帰したパワーユニット
2014年の大失敗を受け、フェラーリはパワーユニット開発部門の提案を大幅に受け入れることになった。エンジン部門の責任者であるルカ・マルモリーニの更迭後、同部門を率いたマッティア・ビノットは、ターボコンプレッサーを一気に大型化した。その甲斐あってMGU-Hははるかに多くの熱エネルギーを回収できるようになり、デプロイ効率は飛躍的に向上した。
一方でオイルタンクもより常識的なパワーユニットとシャシーの間に収まったことで、重心位置の低下と、配管が短くなったことによる軽量化の効果も享受できた。(※写真1の円内写真及び写真下の黄色く塗られた部分)
ただしMGU-Kは依然として、エンジン本体の後部に置かれていた。インタークーラーもVバンクの内側に設置するという、非常にユニークな手法を維持した。その狙いはインタークーラーとコンプレッサーを繋ぐパイプを短くすることで、ターボラグを極力小さくすることだった。(※写真2の青く塗られた部分)
しかし2015年型フェラーリ製PUの最大の武器は、副燃焼室であった。ドイツ・マーレ社の供給するTJI(Turbulent Jet Ignitionジェット乱流イグニッション)と呼ばれるシステムの導入によって、非常に薄い混合気でも、ほとんどノッキングの恐れなくスムーズな燃焼ができるようになったのだ。その結果、パワーと燃費の向上を一気に実現できたのだった。
(その2に続く)
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