青森山田、強さの要因は“コミュニケーション強度” ぶつかり恐れず高めた連携と練度
サッカーキング2022年1月11日(火)19時50分
3大会ぶり3度目の選手権優勝を果たした青森山田 [写真]=野口岳彦
「強いものが勝つわけじゃない。勝ったものが強いんだ」
これはドイツの“皇帝”フランツ・ベッケンバウアーの名言だが、100回目の全国高校サッカー選手権に関しては、ひたすら「強いチームが勝った」印象を鮮烈に残すこととなった。
青森山田(青森)は内容的にそこまでポジティブな試合ができていたわけではないのだが、準決勝・決勝でピークを迎えた。肉体的な消耗はあったはずなのだが、特に決勝で「今シーズン通して一番か二番か争うくらい」(MF松木玖生)のゲームを実現させたのは見事と言う他なかった。
そんな青森山田が特別な強さを持てた要因は何か。戦術面や体力面など色々とクローズアップされる部分はあるだろうが、個人的には“コミュニケーションの強さ”を挙げておきたい。ライバル校とはこの点が確実に一段階以上違っていた。
今年は特にピッチ脇で青森山田の試合を観る機会が多かったが、彼らがピッチ上で交わすコミュニケーションの密度は桁違いだ。選手たちからは「嫌われてもいいから言うべきことを言う」といった言葉が漏れるとおり、厳しい要求をお互いに出し合い続ける様子は、対戦したチームの監督が驚くほど。別に怒ってばかりというわけではなく、ピンチに頑張って戻ってきた選手などに対しては、皆が絶賛の言葉を放つのも印象的だった。
プレーのディテールへのこだわりも面白い。一つのヘディングの勝ち負け、シュートの質、ラストパスの精度、ポジショニングといった点で声が飛び交う。リーグ戦を追い掛けていると、シーズン当初にできなかったことができていくという過程を観ることができて面白かった。シーズン当初は怒られ役だったDF丸山大和のブレイクスルーは象徴的だが、他の選手についても印象的な場面がいろいろと思い浮かぶ。
例えば、GK沼田晃季である。決勝では深い位置に蹴り込んで相手のディフェンスラインを押し下げる“嫌らしい”ロングキックが光っていたが、リーグ戦では当初このキックができずに怒られる場面もあった。なまじキックに自信があるだけに、味方の頭を意識して蹴り込むのだが、必ずしも実効的でない場面があった。これについて「そうじゃねえだろ!」と黒田剛監督が怒声を飛ばし、沼田が自分のキックの意図について言い返す場面に出くわしたこともあるが、こうして指導者含めてぶつかり合う中でチームが勝つための最適解を見付けて共有していくという過程を年間通じてできているからこそ、チームの練度は上がっていく。
ぼんやりと観ている分にはロングボールもプレッシングも「闇雲にやっている」ように見える場面はあるのだが、中の選手たちは意外と冷静で、状況を観察しながら「勝つための最適解」を自然と実践し、そして狙いを共有できている強さがあった。それは付け焼き刃ではなく、ぶつかり合いを恐れぬコミュニケーションから生まれる連携と練度で培ってきたものだ。
黒田監督はシーズン当初から「今年は人間的なパワーのある選手が多いんだよ」と、熱い議論の絶えないチームのムードを歓迎していた。そうして培われていった「強さ」は、最後の舞台でも一際抜きん出たものがあった。
100回目の選手権は、強いものが勝ち、勝ったものが強かった。
取材・文=川端暁彦
これはドイツの“皇帝”フランツ・ベッケンバウアーの名言だが、100回目の全国高校サッカー選手権に関しては、ひたすら「強いチームが勝った」印象を鮮烈に残すこととなった。
青森山田(青森)は内容的にそこまでポジティブな試合ができていたわけではないのだが、準決勝・決勝でピークを迎えた。肉体的な消耗はあったはずなのだが、特に決勝で「今シーズン通して一番か二番か争うくらい」(MF松木玖生)のゲームを実現させたのは見事と言う他なかった。
そんな青森山田が特別な強さを持てた要因は何か。戦術面や体力面など色々とクローズアップされる部分はあるだろうが、個人的には“コミュニケーションの強さ”を挙げておきたい。ライバル校とはこの点が確実に一段階以上違っていた。
今年は特にピッチ脇で青森山田の試合を観る機会が多かったが、彼らがピッチ上で交わすコミュニケーションの密度は桁違いだ。選手たちからは「嫌われてもいいから言うべきことを言う」といった言葉が漏れるとおり、厳しい要求をお互いに出し合い続ける様子は、対戦したチームの監督が驚くほど。別に怒ってばかりというわけではなく、ピンチに頑張って戻ってきた選手などに対しては、皆が絶賛の言葉を放つのも印象的だった。
プレーのディテールへのこだわりも面白い。一つのヘディングの勝ち負け、シュートの質、ラストパスの精度、ポジショニングといった点で声が飛び交う。リーグ戦を追い掛けていると、シーズン当初にできなかったことができていくという過程を観ることができて面白かった。シーズン当初は怒られ役だったDF丸山大和のブレイクスルーは象徴的だが、他の選手についても印象的な場面がいろいろと思い浮かぶ。
例えば、GK沼田晃季である。決勝では深い位置に蹴り込んで相手のディフェンスラインを押し下げる“嫌らしい”ロングキックが光っていたが、リーグ戦では当初このキックができずに怒られる場面もあった。なまじキックに自信があるだけに、味方の頭を意識して蹴り込むのだが、必ずしも実効的でない場面があった。これについて「そうじゃねえだろ!」と黒田剛監督が怒声を飛ばし、沼田が自分のキックの意図について言い返す場面に出くわしたこともあるが、こうして指導者含めてぶつかり合う中でチームが勝つための最適解を見付けて共有していくという過程を年間通じてできているからこそ、チームの練度は上がっていく。
ぼんやりと観ている分にはロングボールもプレッシングも「闇雲にやっている」ように見える場面はあるのだが、中の選手たちは意外と冷静で、状況を観察しながら「勝つための最適解」を自然と実践し、そして狙いを共有できている強さがあった。それは付け焼き刃ではなく、ぶつかり合いを恐れぬコミュニケーションから生まれる連携と練度で培ってきたものだ。
黒田監督はシーズン当初から「今年は人間的なパワーのある選手が多いんだよ」と、熱い議論の絶えないチームのムードを歓迎していた。そうして培われていった「強さ」は、最後の舞台でも一際抜きん出たものがあった。
100回目の選手権は、強いものが勝ち、勝ったものが強かった。
取材・文=川端暁彦
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