F1予算制限導入へのビッグ3チームの対応策。“サテライトチーム”を利用し人材流出を防ぐ
2021年F1に導入される予算上限額は1億4500万ドル(約150億円)に設定されているが、直接的な影響を被るのは、参戦している10チームのうち5チームだけだ。ウイリアムズ、ハース、アルファロメオ・ザウバー、アルファタウリ、アストンマーティン(元レーシングポイント)はすでにこの額よりも低い予算で運営されているので、新財務レギュレーションに準拠するために体制に変更を加える必要はない。しかしメルセデス、フェラーリ、レッドブル、ルノー、マクラーレンといった大規模チームでは、新規則に適応し予算を抑えるための変更が図られている。
公式には1億4500万ドル(約150億円)とされているが、この予算制限には含まれない多くのコストがある。代表的なのはドライバーおよび最も給与が高い3名のスタッフへの報酬だ。その他にも、ロジスティクスのコスト、ファクトリーのメンテナンスと改修コスト、法務コスト、リースコスト、年末のボーナスの支払いも監査からは外れる。トップチームの計算によると、メルセデス、フェラーリ、レッドブルといったチームは、年間2億5000万ドル(約260億円)を支出すると予想される。一方でルノーとマクラーレンは、2億ドル(約207億円)をやや超える予算で運営されるようだ。
ファクトリーを売却してそれを賃借することは、マクラーレンが予算に含まれるファクトリー維持費の負担を避けつつ、ウォーキングでの活動を継続するために見出したやり方だ。市販車販売に打撃を受けたマクラーレンは、2020年の段階で200人以上を解雇しており、そのうち70人はモータースポーツ部門のスタッフだった。
メルセデス、フェラーリ、レッドブルはさらに創造力を発揮しなければならなかった。メルセデスではブラックリーとブリックスワースの2カ所のファクトリーに1000人以上の従業員が働いている。フェラーリはマラネロに950人のスタッフを雇用しており、レッドブルはレッドブル・レーシングとレッドブル・テクノロジーズで合計860人以上のスタッフを抱えている。これだけの人数の給与を支払うと、マシンの設計開発費が大幅に削られることになる。そのため、変更が加えられた。
たとえばフェラーリは、シャシー・エンジニアリング責任者シモーネ・レスタをハースにテクニカルディレクターとして加入させた。また、約75人のスタッフがマラネロに作られた新施設で仕事をし、ハースから給与を受け取ることになる。これによりフェラーリは数百万ドル(約数億円)を節約できる。
メルセデスは同様のことをアストンマーティンと行おうとしている。ローレンス・ストロールのチームは今も数多くのスタッフを雇い入れている。ブラックリー(メルセデス)を拠点とするスタッフがシルバーストン(アストンマーティン)で仕事をする場合、15分で移動できる。つまり彼らは、通勤時間が少し増え、小規模なチームで働くことにはなっても、F1での仕事をなくさずに済み、今までより上のポジションにつく可能性も高くなる。
レッドブルは、すでにふたつのF1チームがあるため、ライバルチームに比べると対処が最も楽だった。昨年末までレッドブル・レーシングで仕事をしていたスタッフの一部を、今年からアルファタウリに配属するという方法をとることができる。彼らは、アルファタウリのファエンツァのファクトリーと直接連携しつつ、レッドブル・テクノロジーズのファクトリーで仕事をするようになる。
ビッグ3チームは、自身のスタッフをライバルチームに取られることを極力避けようとしている。そのため、たとえば同じ報酬でもサテライトチームで高い地位の仕事をオファーするという手段をとる。それが、トト・ウォルフ、マッティア・ビノット、クリスチャン・ホーナーが見出した最高の解決策だ。
そのため結局のところF1の人材は減ることがなく、むしろ現在多額の投資を行っているアストンマーティンやウイリアムズでは、多数のスタッフを募集している。パンデミックが暗い日々をもたらしているにもかかわらず、F1が今も大勢のスタッフを求めているというのは、このスポーツが活力と強さを持ち合わせていることの証明といえるだろう。
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