LMDhのレースを左右する新要素『低温用タイヤ』と『ダブルスティント』【デイトナ24時間の戦い方】
2023年のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権第1戦デイトナ24時間レースにおいて、GTPクラスにエントリーするチームは、タイヤをダブルスティント(2スティント連続でのタイヤ使用)することが求められる。この新しいタイヤセット数制限は、レース戦略に「新たな変数」を加えることになると、GTPドライバーとミシュランは語っている。
GTPクラスにデビューするLMDh車両のタイヤ本数は、DPi時代よりも大幅に削減されており、1月28〜29日に開催される2023年の決勝レースでは、1台あたり21セットに制限される。同時に、このシリーズのトップクラスでは初めて、2種類のコンパウンドも導入される。
24時間のレース中には、およそ30回のフルサービス・ピットストップが予定されていることから、ダブルスティントが常態化することになるが、これはこの10年間のトップカテゴリーでは見られなかった事態だ。
ミシュランのIMSAウェザーテック・シリーズのマネジャーであるハンス・エメルは、「IMSAとのパートナーシップでは、耐久レースに対して、よりサステナブルなアプローチをすることがひとつの目標に掲げられている」と語る。
「その一環として、サーキットに持ち込むタイヤの数を減らすことがある」
「それにより、タイヤの生産量、輸送量、ロジスティクス、原材料の使用量などを削減することができる。ダブルスティントや、より良いタイヤの素材、より新しい優れた技術、新しいデザインのタイヤによって、それを実現することができるのだ」
「セット数を少なくすることで、チームはダブルスティントで戦うことになる」
「レース中、ずっとダブルスティントで走るとは思わないが、チームによって異なるアプローチが見られると思う。あるクルマは左側タイヤのダブルスティントをするかもしれないし、またあるクルマは右側タイヤのダブルスティントをした後、左側タイヤのダブルスティントをするかもしれない」
「またあるクルマは、4輪でダブルスティントを行うかもしれないし、いったん外した左の2輪をまた後の機会に使う、といったこともできる。いろんなことができるのだ」
ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのニック・タンディは、WEC世界耐久選手権のようなダブルスティントやトリプルスティントを日常的に行う他のシリーズで経験を積んだドライバーにとって、このIMSAの新しい措置は有益なものになると考えている。
タンディは直近の2022年シーズンは、コルベット・レーシングから2022年のWECのGTEプロクラスに参戦していた。
「IMSAにとって、現実的には新しい状況だ」とタンディ。
「1時間のスティントを行うマシンで(IMSAの)レースしていたときでさえ、僕らはピット作業では常にタイヤを交換、つまりシングルスティントで走っていた」
「もちろん、プロトタイプはもっと長いスティントが必要だが、多くのタイヤセットをダブルスティントしなければならなくなるから、このシリーズにとってはこれまでとは異なる状況になるね」
「僕は、これはいいことだと思う。面白い側面がある。レースの戦略、クルマのセットアップ、スティントの特徴など、さまざまな要素が絡んでくる」
「とりわけ暑い日中は、タイヤが最も酷使されるときだ。だから、できるだけ涼しいところで、タイヤをダブルスティント、あるいはトリプルスティントで使うんだ」
タイヤの割り当てが減ったことに加え、1スティントの時間も長くなっている。DPi時代には38〜40分程度だった1スティントは、デイトナのGTPクラスでは50分程度にまで延ばされる。
「どのタイヤを履いているか、そのライフがどの段階にあるかに応じて、ポジションが上がったり下がったりするランダム性が、多く見られると思う。本当の挑戦になるだろうね」とチップ・ガナッシ・レーシングのドライバー、アール・バンバーは語っている。
「周りがニュータイヤを履いているときに、2スティント目を走っているドライバーは我慢が必要になるだろう。レース終盤でバトルするためには、何かが欲しいところだ」
「僕らのアウトラップの性能はとても遅いので、アウトラップで得られるものと失うものとの間で、ちょっとしたジレンマが生じることになる」
「コースによって、デグラデーションが良いところと、厳しいところがある。だから、レース展開がとても面白くなりそうなんだ」
ミシュランのエメルは、この新しいルールは今週末だけでなく、シーズンが進むにつれて「誰もが話題にする」ものになると考えている。
「特にシーズン序盤は、みんなが違うことをやって、違うアプローチを試みるから面白いだろう」とエメル。
「モーターレースのすべてがそうであるように、ある時点で、レース序盤や終盤のダブルスティントなど、同じような戦略に収斂されていくと思う」
■終盤、畳み掛けるための“SHT”をいかに残しておくか
また、IMSAがミシュランの低温用タイヤを走らせるために定めたウインドウは、エメルによれば、レース全体の戦略に影響を与える可能性が高いという。
水曜日に確認されたように、GTPチームはレース中の午後7時から午前8時の間にSLT(ソフト・ロウ・テンプ。低温用ソフトタイヤ)コンパウンドを使用することが許可される。決勝に割り当てられる21セットのうち9セットはSLTでなければならず、残りの時間はSHT(ソフト・ハイ・テンプ。高温用ソフトタイヤ)コンパウンドで走行する。
しかしエメルは、チームが「そのタイヤをうまく機能させることができれば」夜間にSHTタイヤを使用することは許される、と語っている。
「我々がしたいことは、SLTの使用を許可する時間帯を設けることだ」とエメル。
「SHTをもっと走らせられると思うチームもあるかもしれない。だが、(SLT)ウインドウの終わり(午前8時の直前)には、SLTを外してSHTを使わなければならない」
「これは私個人の見解だが、レースを考えると、セーフティカーやロングイエローなどのタイミングを用いて、各チームはSHTを節約しようとすると思う」
「おそらく彼らは、レース終盤は(SHTでの)シングルスティントを何回か繰り返してフィニッシュしたいと考えているだろうしね。それが速く走る方法だからだ」
「したがって、スタートしてから(夜に)SLTのウインドウに入るまでの間、できるだけ少ないタイヤで戦うという面白いゲームが展開されるだろう」
「SLTウインドウが開始されたら、そのタイヤではレースを終えることはできないのだから、SLTを使い果たすことを心配することはない。それらを(日曜日の日中に)とっておいても、役に立たないのだ」
「彼らはレースを逆算して、『OK、何本のタイヤを持っていて、レースを終えるためにシングルスティントを何回やればいいのか?』と考えるようになるだろう」
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