レーススチュワードとして関わった鈴木亜久里氏。公道でのフォーミュラE東京大会の意義と今後の可能性
日本初のFIA世界選手権の公道レース、フォーミュラE東京大会にはさまざまな日本のレース関係者が運営に関わっていたが、その中でもっとも関係が深い人物のひとりが、鈴木亜久里氏だ。
スーパーアグリF1チームのスタッフと共にフォーミュラE創立の2014年にはアムリン・アグリフォーミュラEチームとして2年間参戦。その後にチームを売却したが、フォーミュラEの関係者とのつながりは強く、今回の東京大会では3名のレーススチュワード(審査委員/ペナルティの判定やインシデントの調査などを行う役割)のひとりとして、レース運営に携わっていた。
その亜久里氏に、フォーミュラE東京大会の役割と感想を聞いた。
「今回はレーススチュワードの1人として来ています。国際レースで必要な3人のスチュワートのひとりで、FIAから2人、現地のスチュワートがひとりで、そのひとりです」と亜久里氏。
レーススチュワードに選出された背景としては、フォーミュラEとの関係が深いだけでなく、JAF(日本自動車連盟)でモータースポーツ関連のさまざな委員を務めていることも関係している。
「JAFとしてはいろいろやっていて、モータースポーツ審議会の審議委員、モータースポーツ未来委員会、そして振興小委員会では議長をやっています」
話を聞いたのは決勝前だったが、この時点でも亜久里氏は今回の東京大会の意義を十分に感じている。
「いやいやいや、これだけの施設をこの都内に作って、驚いています。フォーミュラEは10年前から始まっていて、その10年前から東京で開催したいねという話があったけど、なかなか実現には至らなかった。10年目にしてやっと東京大会ができて、しかも日本で初めて公道を使うレースということで嬉しく思っているし、これだけの施設を造るというのは日本のレース界だけでは難しいので、数10億は掛かっているので、すごいですよね」と亜久里氏。
「まずは大きいこととして、フォーミュラEということだけではなくて、やっぱり日本で初めて市街地レースが開催できたということが、すごく大きな第一歩だよね。この一歩は、ものすごく大きな一歩だと思う。フォーミュラE自体は、電気自動車なので音もしないし、いろいろな場所でレースをすることができるので、そういった部分での第一歩の足掛かりとして、いい環境だと思います」と続ける。
フォーミュラEに日本人ドライバーが乗ってくれれば、さらに話題は大きくなるのだが……。
「それはなかなかね、個々のチームの問題だからね。できれば日本人ドライバーが乗ってくれればいいけど。Jujuちゃんとか乗ってくれるといいんだけどね。そうなるとフォーミュラEも日本でもっと話題になると思うし、盛り上がるよね。そういう部分では彼女の今年の日本へのモータースポーツの貢献というのは莫大なものがあると思っています」
パドックではスーパーアグリF1、アグリフォーミュラEチーム時代のマーク・プレストンや、佐藤琢磨など当時の顔ぶれも見られた。他にもサッシャ・フェネストラズ、ニック・キャシディ、ストフェル・バンドーンをはじめ、セルジオ・セッテ・カマラやオリバー・ターベイ、テレビの解説としてアンドレ・ロッテラーなどなどフォーミュラEでは日本でレースに参戦した経験があるドライバーが多いのも特徴的だ。
「マーク・プレストンがローラに行ってテクニカルな立場でチームに関わっているし、フォーミュラEには日本に馴染みのあるドライバーがいっぱいいるよね。そういう部分ではなかなか親近感のあるレースだよね」
その亜久里氏は実際、事前に市販車で今回の東京コースを走行したという。
「コースも実際に市販車で走ってみたけど、よくできていると思うよ。何カ所かリスキーな部分があって、2コーナーのところなどジャンピングスポットもあるけど、1年目の状況を考えると、よくこれだけのものができたなと思っています」
その2コーナーの路面の凹みのジャンプスポットは、亜久里氏もスチュワードとして参加した、金曜夜のドライバーズミーティングでも話題の中心となったという。
「ドライバーとは『どこのコーナーが危ない』とか、『ジャンピングスポットでクルマの底打ちがひどいので、クルマにダメージを与えてしまう』とか、そういう話をしました。話を聞いたけど、昨日の今日ではすぐに路面は変えることはできないのでというね」
このフォーミュラE東京大会の話題をきっかけに、日本のモータースポーツも盛り上がりのきっかけにしたいところだ。
「今回の東京大会の開催によって、市街地でレースができたというひとつの前例ができたわけなので、他のカテゴリーにとっても、JAFとしてもすごく大きなことだと思う.フォーミュラEも2年目だけでなく、このシリーズが続く限り、東京大会を続けて欲しいよね。今回の開催で設備ができたので、もうイチから造る必要はない。何年か続けて開催することで、収益的にも回収できるんじゃないかな」
フォーミュラEだけでなく、今回の設備を使用して、他のカテゴリーでも東京都内、市街地でのレース開催を期待したいところだが……。
「他のカテゴリーではこのフェンスとかコンクリートウォールは使えないんだよね。レギュレーションがあって、このコンクリートウォールの安全性はフォーミュラE用で、フォーミュラEだけで使えるコンクリートウォールなんですよ。安全性については厳しいレギュレーションがあるのでね」
フォーミュラEと他のカテゴリーとの併催や共有は難しいようだが、モータースポーツ界にとって、今回の最初の東京大会が無事に行われた意義は、限りなく大きい。フォーミュラE東京大会が、これまでレースに関心のない層とモータースポーツの新しいタッチポイントやインターフェースのような役割になれば、今後の日本のレースの可能性はさまざまな方向で広げることができる。
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