わずか2戦目で優勝のジュリアーノ・アレジ。それでも「実力はまだまだ」の声とこれからの可能性【第3戦オートポリス】
スーパーフォーミュラ(SF)第3戦オートポリスで参戦2戦目ながら、ポール・トゥ・ウインを果たしたKuo VANTELIN TEAM TOM’S36号車のジュリアーノ・アレジ。この事実だけを見れば中嶋一貴の代役参戦とは言え、今後のスーパーフォーミュラでの参戦継続とチャンピオン争いまで期待できそうだが、実際のジュリアーノ・アレジの実力と評価はどれほどのものなのか。トムスチームに聞いた。
今回、アレジがポール・トゥ・ウインを果たした第3戦オートポリス戦のだが、予選ではダンプコンディションで赤旗が繰り返されるなか、多くのマシンがクリアラップを取れなかったり、タイヤのウォームアップがままならないままのタイム計測になってしまった。
そのなかでトムスチームは昨年のチームランキングトップの実績から、ピット割りがもっとも1コーナーよりだったことも幸いし、先頭でコースインを繰り返すことができた。前方がクリアな状況でウォームアップを行い、雨が徐々に強まっていくなかで常に先にアレジはアタックをすることができた。後方でタイヤを温めきれず、水煙などの影響を受けてコースアウトやスピンを喫して赤旗を出したマシンが続出したが、それらの影響を受ける前にタイムを計測できていたことも大きい。担当の大立健太エンジニアも「ピットの位置とアタックのタイミングが良かったです」と、振り返っている。
もちろん、路面のコンディションがわからないなかで一番先頭で走るデメリットがあるなかで、果敢に攻めたアレジの姿勢と、難しいウエットコンディション、経験の少ないスーパーフォーミュラのマシンとレインタイヤを装着し、積極的にアタックしてマシンをコントロールしていったアレジのスキルは高いレベルにあることは間違いない。
ただ、レーシングドライバーとしてのトータル能力としては、ポテンシャルは高いものの、まだまだ伸びしろが多い状況のようだ。スーパーフォーミュラで舘信秀監督とともにKuo VANTELIN TEAM TOM’Sのチーム監督を務め、フォーミュラ・ライツでもトムスチームの監督を務める山田淳氏が話す。
「2戦目での優勝は本当になかなかできることではないし、この短期間で予選でポールポジションを獲れることも普通ではないことですし、なにか運を持っているんじゃないですかね。まずはそんな印象です」と、オートポリス戦でのジュリアーノ・アレジを評価する山田監督。しかし、これまでトヨタ陣営の若手、そして海外ドライバーを含めた数々のドライバー育成を担ってきた山田監督に育成者としてのコメントを求めると、また話は別だ。
「ドライバーの実力としては、僕はフォーミュラ・ライツの方も見ているので非常に厳しい答えになってしまうのですけど、まだまだ足りないところがたくさんある。今までやってきたレースキャリアのなかで、ドライビングにしても、レースに対しての取り組み方にしても、しっかりと教えられていないようなところを感じるんですよね」
「ですので正直、まだまだこれからで、実力としてはまだSFで勝てるようなレベルではないドライバーだと思っています。フォーミュラ・ライツでもまだ(今年デビューした)平良(響)とか野中(誠太)と同じようなポジションですし、ライツでもまだ勝っているわけではないですからね。フェラーリ・アカデミー出身のドライバーはたしかに優秀なドライバーはたくさんいますし、僕も何人か直接知っていますが、ジュリアーノはまだそのレベルには中身が伴っていないなというのが正直なところです。今回は展開とか運の要素が大きかったのかなという印象です」
それでも山田監督も、アレジの今後の可能性、そしてスター性とポテンシャルには大きな期待を持っている。
「もちろん、人間としてキャラクターがいいのか、スター性に関してはものすごく持っていますよね。そして今回のように運も味方につけていますしね。ライツとダブルエントリーでSFにも乗って2戦になりますが、この2戦の過程のなかでドライバーとしてものすごくインプルーブ(進化)していることは間違いないです。このコロナの影響でSFに乗る大チャンスが来て、そのチャンスをうまく自分のものにできている。ドライバースキルの面でも間違いなくこの2戦でいい方向に変化しています。これから楽しみです」
優勝後の会見で、アレジが「こんなに早く優勝できるとは思っていなかった」「どうやってもっと速く走れか学んでいるところ」と話すようにアレジもその点を自覚している様子で、いつも「学び」を強調し、自分に足りない部分や課題をチームと共有している。
著名な両親の名前だけでなく、英語での質問にも頑張って日本語で答えようとするなど日本のレース、そして生活に馴染もうとするアレジの姿に、今後ファンが急増することは間違いない。
これまでアンドレ・ロッテラーやブノワ・トレルイエ、そしてアレックス・パロウにニック・キャシディ、ピエール・ガスリーなど、日本で実績を積んで世界へ大きく羽ばたいたドライバーたちはいずれも日本のチーム、日本のエンジニア、日本の文化から学び、そのポテンシャルを開花していった。そのいずれのドライバーにも共通していたのが、日本のレースへのリスペクトと、謙虚に学ぶ姿勢だった。
ジュリアーノ・アレジがその要素を満たしてポテンシャルをどこまで開花することができるのか。次のスーパーフォーミュラでは36号車は中嶋一貴の参加が濃厚でアレジはしばらくはフォーミュラ・ライツに専念することになりそうだが、アレジとトムスチームの今後が楽しみだ。
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