ボッタスのペース悪化を懸念していたメルセデスF1。ノリスの接近がハミルトンとの順位入れ替えの引き金に
メルセデスがチームオーダーを出すことは滅多にないが、ときにはそうすることもあり、2021年F1第9戦オーストリアGPもそうしたケースのひとつだった。
決勝レース前半ではメルセデスのルイス・ハミルトンが2番手を走行していたが、首位を走るマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)を捕らえる見込みはなかった。
その後ハミルトンは縁石でマシンにダメージを負い、ペースを落とした。そこへチームメイトのバルテリ・ボッタスがハミルトンの後ろに追いついていたが、ハミルトンが2位となってポイントを獲得することを強く望んでいたメルセデスは、当初はボッタスにハミルトンの後方にいるように指示を出した。
ところがボッタスはハミルトンよりもはるかに速く、その一方でマクラーレンのランド・ノリスからプレッシャーを受けていた。だがハミルトンがダメージを負っているにもかかわらず、ハミルトンにボッタスを先に行かせるように命じるチームオーダーは、すぐには発令されなかった。
このことはメルセデスのジレンマを表している。その2周後、ハミルトンはボッタスにオーバーテイクさせるように指示を受けた。
エンジニアリングディレクターのアンドリュー・ショブリンはこの決断について次のように説明している。
「最初にまずルイスのマシンに関するパフォーマンス上の問題を診断すると、実際のところ彼のラップタイムは安定していることが分かったが、かなり早い段階で後ろのランド・ノリスを抑えることが不可能だと明確になった」とショブリンは語った。
「このバトルのなかでバルテリが最終的にペースを落としてしまうことを懸念していた。だが我々が待っていたのは、ランドが実際にバルテリにとって脅威になる程近づくところだった。それが我々が順序を入れ替える決断の引き金になった」
「そういうわけで、ルイスがバルテリを先に行かせるところが見られたわけだ。そして最終的にランドはルイスを抜くことができた。だが私が言ったように、我々はダメージの程度を理解してからかなり早い段階で3番手を守ることは事実上不可能だと結論を出していた」
ショブリンは、ハミルトンのマシンの損傷は1周につき0.5秒以上の遅れを生み、さらにその問題はタイヤの劣化をいっそう早めることになったと述べた。
「出てくる推定値は30ポイントから40ポイントのダウンフォースだった。それが意味するのは、1周あたり0.6秒か0.7秒ということで、かなり大きな値だった」
「だがさらに悪いことには、原因はすべてリヤアクスルにあったことで、ルイスはそのスティントでかなりのオーバーステアになっており、マシンの後部は滑っていた。それによりタイヤが熱せられて劣化した。その問題はコンパウンド自体のデグラデーションの度合いを悪化させ始めた。そのために最終的にルイスは2位の座を失ってしまった」
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