国内トップフォーミュラ名レース3選第3回:1999年/ツインリンクもてぎ20周年企画
1997年に開場したツインリンクもてぎ。以来、もてぎロードコースでは毎年、国内トップフォーミュラの激闘が展開され続けている。今年のもてぎ戦を前に、選りすぐりの名レースを紹介する短期連載の最終回は、1999年10月のフォーミュラ・ニッポン第9戦、本山哲と道上龍の名勝負だ。
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1999年はフォーミュラ・ニッポン(FN)のシャシー刷新年だった。当時はワンメイクではなく、レイナード、ローラ、Gフォースという3社の競合。ただ、日本市場参入からまだ時間が経っていないGフォースは輸入代理店だった名門ノバエンジニアリングの1チーム体制で、それ以外のチームは従来の図式通り、レイナードとローラの2大勢力に(ほぼ半々に)分かれて戦うこととなった。なお、当時はエンジンが無限MF308の実質ワンメイク、タイヤはブリヂストンのワンメイク。
開幕前のテストで異常事態が発生する。レイナード99L、圧倒的に優勢。というよりは、ローラB99/51が走らなすぎる……という状況だった。
国内トップフォーミュラにおいて、レイナードとローラのパワーバランスがここまで一方的に偏ったのは初めてといってよかっただろう。シーズンが始まるとレイナードの優位はリザルト的にも明確なものとなり、ローラを捨ててレイナードに乗りかえるチームが増えてくる。
全10戦のシリーズが第9戦もてぎを迎える頃には、参戦全21台中、ローラは4台のみに。そのうちの2台はムーンクラフトチーム、ドライバーは道上龍と影山正彦だった。
そしてムーンクラフトといえば、空力の巨匠・由良拓也である。チームは由良を中心に可能な限りの空力的モディファイをローラに施した。努力の甲斐あって徐々に効果もあらわれるようになってきた状況で迎えたのが、終盤第9戦のもてぎだった。
道上は予選でシーズン最高となる4番グリッドを獲得。そして彼は、1コーナーまでの距離が長いとはいえないもてぎのスタートで見事なダッシュを決めてみせる。
グランドスタンドの観客、そしてムーンクラフトのピットも大いに沸き立つ瞬間であった。道上はオープニングラップを首位で終える。
道上とチームにとっては望外のトップランが実現した。マシンも確実に速くなってきている。とはいえ、生来のポテンシャルで大きく上回るレイナード勢が後ろにいるのだから、やがて防戦一方になって、そう遠くない段階で首位を譲り渡すことになるのだろう……というのが多くの者の率直な思いだった。
しかし、その予想はいい意味で裏切られる。道上はトップを維持したまま後半戦まで走り続けたのである。優勝の期待さえもが次第に膨らんできた。
しかし、2番手を走るレイナードの本山哲(チームルマン)にも、このまま2位でよしとすることはできない事情があった。
前年に初王座を獲得、連覇を目指したこの年の本山はシーズン序盤を1位-2位-1位と準パーフェクトの成績で滑り出したものの、中盤に失速し、トム・コロネル(ナカジマレーシング)の後塵を拝す展開を強いられていた。
前戦終了段階でポイントランク首位のコロネルに10点のリードを許しており、このもてぎを含めて残り2戦、本山は崖っぷちの状況(当時は決勝1〜6位に10-6-4-3-2-1点)。もてぎではコロネルより前を走っているとはいえ、優勝できなければ大きく差を詰めることはできず、最終戦鈴鹿にかなり不利な状態で向かうことになる。前を走る道上をこのまま逃すわけにはいかない。
レース後半、本山がペースアップし、首位奪取の動きに転じた。そして45周レースの30周目、ダウンヒルストレートの先、90度コーナーで本山は道上をパスする。
満を持してチャンスを待っていたかのような本山。一方の道上にはこの好走を結果につなげたいという思いもあったのだろう、マシン的に地力上位である相手に対して必要以上の抵抗はしなかったように思えた。
当時の両者を取り巻く様々な状況を考えた時、この首位交代劇には見た目以上の深い意味と重い価値があったといえる。
首位に立った本山は6戦ぶりのシーズン3勝目を挙げ、最終戦に自力逆転王座の可能性を復活させた。そして道上は2位を守って走りきり、ローラでは奇跡的ともいえる好結果をチームに持ち帰った。
当時28歳の本山と26歳の道上。この先、長く日本レース界を牽引し、今も現役としてスーパーGTやWTCCという第一線で活躍している両雄が若き日に見せた、もてぎフォーミュラ名勝負であった。
本山はこれがもてぎでのFN初優勝。前年6月、そしてこの99年5月のレースではともに2位に甘んじていただけに、その意味でも雪辱の1勝だった。
彼はこの年、最終的にはFN王座連覇ならなかったが(最終戦ではスタート直後にコロネルと本山が接触)、そののち2001、2003、2005年と3つの王冠を自身のキャリアに加える。その3度の復冠地は、いずれもツインリンクもてぎだった。
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