【コラム】ヒデ、本田級のインパクト…21歳のダイナモ・井手口陽介が代表を変える?
サッカーキング2017年9月1日(金)8時26分
オーストラリア戦で追加点を決めた井手口陽介 [写真]=新井賢一
FW浅野拓磨(シュトゥットガルト/ドイツ)が前半終了間際に挙げた先制ゴールで1点をリードしながら、追加点を奪えなかった日本代表。後半に入ってオーストラリアのアンジェ・ポステコグルー監督はベンチに置いていたFWトミ・ユリッチ(ルツェルン)、日本の天敵、FWティム・ケーヒル(メルボルン・シティ)といった持ち駒を次々と投入。ボール支配率を高め、じりじりと敵陣深く押し込むようになった。
その苦しい終盤。チーム最年少・21歳のダイナモがここ一番の勝負強さを見せつける。FW乾貴士(エイバル/スペイン)と交代したMF原口元気(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)がインターセプトしたボールを受けたMF井手口陽介(ガンバ大阪)は迷うことなくドリブルで中へ切れ込み、マークについていたDFジャクソン・アーバイン(バートン)を振り切って右足を一閃。豪快ミドルを叩き込んだのだ。
「(ゴールが)入るとは思っていなかったんで、枠に入ればいいかなと思うくらいだった。それで力が抜けてたんじゃないかなと。その前に(GKに防がれた)惜しいのを外していたし、『自分が決めてやる』って気持ちで臨めたのが良かったんじゃないかなと思います」と、2018 FIFAワールドカップ ロシア出場を決定づける殊勲弾を叩き出した若武者は恐ろしいほど冷静だった。
「小学校の頃の陽介はティエリ・アンリ(元フランス代表)に憧れていて、ボールを持ったらガンガン行くFWで、ゴールを取りまくっていました。ああいう得点は何度も見ましたよ」と油山カメリアーズFC時代の加藤善裕監督も、天性の得点感覚に太鼓判を押していたが、井手口はその能力を大舞台でいかんなく発揮したのである。
ゴールだけではない。8月24日にメンバー発表を行った際、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督から「井手口はずっと安定したプレーを見せていて、常に我々から高い評価を受けていた。ボールを奪いに行けて、積極的にデュエルにも行けて、右でも左でもパスを出せる」と絶賛された通り、背番号2は出足の鋭さと豊富な運動量、攻守の切り替えの素早さで強烈な輝きを放った。
代表で初めてインサイドハーフに並んだMF山口蛍(セレッソ大阪)も「陽介と一緒に組んだら面白そうやな」と以前から期待を口にしていたが、接近戦にめっぽう強い2人はアーバイン、MFマッシモ・ルオンゴ(QPR/イングランド)の両ボランチを徹底マーク。面白いようにボールを奪い取り、仕事らしい仕事をさせなかった。さらに井手口はそこからゴール前への侵入を繰り返し、相手を再三再四、脅威に陥れる。その一挙手一投足は、彼自身が「注目している」と話したことのあるフランス代表MFエンゴロ・カンテ(チェルシー/イングランド)を彷彿させるものがあった。
井手口が代表初キャップを飾ったのは、6月7日のシリア戦(東京スタジアム)だった。山口の右すね打撲によって途中出場のチャンスを得て、少なからずインパクトを残した。この試合でのパフォーマンスが評価されて、続く2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選・イラク戦(テヘラン)でMF遠藤航(浦和レッズ)とダブルボランチを組んで先発。「陽介は若いし、ガンガン行ける。すごくよかった」とベンチから見守った山口も絶賛した。頭を打って途中退場していなければ、もっと大きな仕事をしていたはずだった。
そして、3試合目となる今回は、1列前のインサイドハーフでプレー。毎回のように異なる役割を託されながら、それを瞬く間に理解・実践し、代表初ゴールも奪った。本人は「いつも通りの試合かなって感じで入れました」と大一番の重圧なしに自然体でプレーしたというから末恐ろしい。「若い時の方が何も考えずに思い切ったプレーができることがある」とGK川島永嗣(メス/フランス)も話したが、その勢いはチームを劇的に変化させそうだ。
20代前半のタレントが急激に頭角を表し、日本代表をガラリと変えた例は過去にもある。その筆頭が97年5月の日韓戦(国立)ですい星のごとくデビューし、瞬く間に日本の司令塔に君臨した当時21歳の中田英寿。1998年のフランス・ワールドカップ初出場、2002年の日韓・ワールドカップでのベスト16進出と、日本が世界の階段を一気に駆け上がることができたのは、この男の存在抜きには語れない。
もう1人が2010年の南アフリカ・ワールドカップ16強へとチームを導いた当時24歳の本田圭佑(パチューカ)だ。チームを率いた岡田武史監督(当時)は大会直前、本田の星稜高校時代の恩師でる河崎護監督に「ヒデ(中田)が出てきてイタリアで活躍して、日本をワンランクアップさせた。本田もそういう存在になるかもしれない」と予言したというが、実際、その通りになった。
今回の井手口のパフォーマンスを見て岡田氏がどんな感想を口にするか、ぜひとも聞いてみたいところだが、前者2人に共通する強烈なインパクトと強心臓ぶりを示したのは事実だ。このまま順調に成長を遂げてG大阪のエースにのし上がり、海外へステップアップするようなことになれば、レジェンド2人同様に日本代表をけん引する存在になるかもしれない。それだけの期待を抱かせた。
「今日の自分のパフォーマンス? もっと前半から行けたと思うし、まだまだその辺が自分の中で甘いんじゃないかと。展開のパスを出せたのも後半から。90分通して、それをできるような選手になっていきたい」と貪欲に高みを目指す井手口の未来像、そしてロシアへの軌跡を興味深く見守りたい。
取材・文=元川悦子
その苦しい終盤。チーム最年少・21歳のダイナモがここ一番の勝負強さを見せつける。FW乾貴士(エイバル/スペイン)と交代したMF原口元気(ヘルタ・ベルリン/ドイツ)がインターセプトしたボールを受けたMF井手口陽介(ガンバ大阪)は迷うことなくドリブルで中へ切れ込み、マークについていたDFジャクソン・アーバイン(バートン)を振り切って右足を一閃。豪快ミドルを叩き込んだのだ。
「(ゴールが)入るとは思っていなかったんで、枠に入ればいいかなと思うくらいだった。それで力が抜けてたんじゃないかなと。その前に(GKに防がれた)惜しいのを外していたし、『自分が決めてやる』って気持ちで臨めたのが良かったんじゃないかなと思います」と、2018 FIFAワールドカップ ロシア出場を決定づける殊勲弾を叩き出した若武者は恐ろしいほど冷静だった。
「小学校の頃の陽介はティエリ・アンリ(元フランス代表)に憧れていて、ボールを持ったらガンガン行くFWで、ゴールを取りまくっていました。ああいう得点は何度も見ましたよ」と油山カメリアーズFC時代の加藤善裕監督も、天性の得点感覚に太鼓判を押していたが、井手口はその能力を大舞台でいかんなく発揮したのである。
ゴールだけではない。8月24日にメンバー発表を行った際、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督から「井手口はずっと安定したプレーを見せていて、常に我々から高い評価を受けていた。ボールを奪いに行けて、積極的にデュエルにも行けて、右でも左でもパスを出せる」と絶賛された通り、背番号2は出足の鋭さと豊富な運動量、攻守の切り替えの素早さで強烈な輝きを放った。
代表で初めてインサイドハーフに並んだMF山口蛍(セレッソ大阪)も「陽介と一緒に組んだら面白そうやな」と以前から期待を口にしていたが、接近戦にめっぽう強い2人はアーバイン、MFマッシモ・ルオンゴ(QPR/イングランド)の両ボランチを徹底マーク。面白いようにボールを奪い取り、仕事らしい仕事をさせなかった。さらに井手口はそこからゴール前への侵入を繰り返し、相手を再三再四、脅威に陥れる。その一挙手一投足は、彼自身が「注目している」と話したことのあるフランス代表MFエンゴロ・カンテ(チェルシー/イングランド)を彷彿させるものがあった。
井手口が代表初キャップを飾ったのは、6月7日のシリア戦(東京スタジアム)だった。山口の右すね打撲によって途中出場のチャンスを得て、少なからずインパクトを残した。この試合でのパフォーマンスが評価されて、続く2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選・イラク戦(テヘラン)でMF遠藤航(浦和レッズ)とダブルボランチを組んで先発。「陽介は若いし、ガンガン行ける。すごくよかった」とベンチから見守った山口も絶賛した。頭を打って途中退場していなければ、もっと大きな仕事をしていたはずだった。
そして、3試合目となる今回は、1列前のインサイドハーフでプレー。毎回のように異なる役割を託されながら、それを瞬く間に理解・実践し、代表初ゴールも奪った。本人は「いつも通りの試合かなって感じで入れました」と大一番の重圧なしに自然体でプレーしたというから末恐ろしい。「若い時の方が何も考えずに思い切ったプレーができることがある」とGK川島永嗣(メス/フランス)も話したが、その勢いはチームを劇的に変化させそうだ。
20代前半のタレントが急激に頭角を表し、日本代表をガラリと変えた例は過去にもある。その筆頭が97年5月の日韓戦(国立)ですい星のごとくデビューし、瞬く間に日本の司令塔に君臨した当時21歳の中田英寿。1998年のフランス・ワールドカップ初出場、2002年の日韓・ワールドカップでのベスト16進出と、日本が世界の階段を一気に駆け上がることができたのは、この男の存在抜きには語れない。
もう1人が2010年の南アフリカ・ワールドカップ16強へとチームを導いた当時24歳の本田圭佑(パチューカ)だ。チームを率いた岡田武史監督(当時)は大会直前、本田の星稜高校時代の恩師でる河崎護監督に「ヒデ(中田)が出てきてイタリアで活躍して、日本をワンランクアップさせた。本田もそういう存在になるかもしれない」と予言したというが、実際、その通りになった。
今回の井手口のパフォーマンスを見て岡田氏がどんな感想を口にするか、ぜひとも聞いてみたいところだが、前者2人に共通する強烈なインパクトと強心臓ぶりを示したのは事実だ。このまま順調に成長を遂げてG大阪のエースにのし上がり、海外へステップアップするようなことになれば、レジェンド2人同様に日本代表をけん引する存在になるかもしれない。それだけの期待を抱かせた。
「今日の自分のパフォーマンス? もっと前半から行けたと思うし、まだまだその辺が自分の中で甘いんじゃないかと。展開のパスを出せたのも後半から。90分通して、それをできるような選手になっていきたい」と貪欲に高みを目指す井手口の未来像、そしてロシアへの軌跡を興味深く見守りたい。
取材・文=元川悦子
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