フェラーリ会心のアップデートとベッテルを優勝に導いた“緊急ピットイン”【今宮純のF1シンガポールGP分析】
2019年F1第15戦シンガポールGPは、フェラーリのセバスチャン・ベッテルが今季初優勝を達成。フェラーリは第13戦ベルギーGPから3連勝、好調を維持している。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のシンガポールGPを振り返る。
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シンガポールGPの週末を席巻したフェラーリ。土曜はシャルル・ルクレールが3戦連続PPを奪い、日曜はセバスチャン・ベッテルがシンガポールでの自身最多5勝目を1年ぶりに決めた。フェラーリ3連勝は2008年以来11年ぶりのこと。ストレートだけでなくコーナーが見違えるほど速くなったSF90、速いマシンは美しい——。
高速2連戦を最後にヨーロッパ・ラウンドは終わり、シンガポールから終盤“ワールド・ラウンド”転戦がつづいていく。この第15戦にフェラーリは数々のアップデートを持ちこんだ。外観で分かるのはノーズと、「ケープ」と言われるフロントエンド周辺のエアロ・コンポーネンツ。リヤウイング(Tウイング含む)やフロア細部もモディファイされているようで、我々には見えない内部もバージョンアップされたのだろう。
日没前の金曜FP1はナイトレースなので、時間帯が違い参考にならないセッションと言われる。フェラーリにとってはそうではなかった。ふたりは新旧エアロ・パッケージを比較するためにプッシュ走行。ルクレールにギヤトラブルがあったものの23周したベッテルが2番手につけた。
セクター1は最速タイム、ストレート主体の区間でやはりSF90は優勢だ。注視すると“5コーナー通過タイム”でベッテルはフェルスタッペンを抑え最速、周回数が少ないルクレールもルイス・ハミルトン(メルセデス)を上回った。ストリートコース最初の“直角ターン”で明らかなポテンシャル向上を示した。さらに最後の“直角ターン×7”のセクター3でも、ベッテルが最速フェルスタッペンに迫る0.097秒差。持ちこんだアップデートがいきなり機能しているのが見てとれた……。
さらにタイムを追及すべく、ふたりはFP2でドライビングリズムを変えていった。ルクレールはコーナー入口でアンダーステア気味、ベッテルは出口でオーバーステア傾向。この挙動からは、イニシャル・セッティングからさらなるファイン・チューニングのための挙動データを収集すべく、方向性を分けたとも想像できる。FP2は3番手と6番手だがセクター1は“1-2タイム”を堅持。
一夜にして奇跡は起こせるのか。土曜FP3、ルクレールが一気にセクター1と3最速でトップへ。昨日のアンダーステアがきれいに消えている。<シャープIN〜スムーズOUT>、個人的に昨年会心のPPラップを魅せたハミルトンに近いと思った。
ルクレールは予選Q1:1分38秒014(3番手)→Q2:1分36秒650(トップ)→Q3:1分36秒217(PP)と刻み上げていった。3戦連続5回目PPの平均スピードは189.434KMH、中速コースで彼とSF90が真価を発揮したのだ(ちなみにモンツァPPは262.962KMH、スパPPは245.948KMH)。
この予選で気付いたこと。直線絶対優勢のフェラーリなのに、2番手マシンとの速度差がほとんどなかった。ベッテルがすべてのセクター最高速をマークしたのだが、セクター1では2番手、カルロス・サインツJr.と“0.9KMH差”、T地点(1コーナー手前150M)では彼のマクラーレン・ルノーとイーブン。参考までに昨年ベッテルは311.6KMH、それが今年は308.3KMHに低下している。
このデータから推察すると、彼らはアップデートによるフロント・ダウンフォース向上に合わせ、リヤもプラス方向にシフトしたのではないか。ひと言で言うなら、「必要十分な直線速度とコーナー速度の両立」——。
マリーナベイ“2時間マラソン”のように、ゆっくりしたペースで始まった61周レース。長い隊列のまま周回がつづけられ、19周目に動きが。4番手フェルスタッペンがピットイン準備、それを見たフェラーリは21コーナー付近にいたベッテルに“緊急ピットイン”を指示。そして次の20周目にルクレールを呼び込む。
ふたりのインラップとアウトラップを比べよう。ベッテル19周目:1分56秒992、20周目:2分06秒109。ルクレール20周目:1分57秒053、21周目:2分07秒019。ベッテルの前には空間があり、21周目:1分45秒455で飛ばしチームメイトをアンダーカットする展開となった。
メルセデス陣営はこれに対し“逆戦術”に出る。ハミルトンに26周目まで引っ張らせてからハードに交換、残り35周をこれでカバーする。一方フェラーリ勢は同じハードでも先に履き替えたから40周以上もしなければならない。タイヤの性能劣化度合が進めば追いつき、そこにチャンスを見出せるかメルセデス……。
そうはいかなかった。シンガポールGPの法則=SC出動率100%、35周目と43周目と50周目に3回も入る状況が起きる。そのたびにフェラーリ勢がハードタイヤをケアできたのは言うまでもない。ベッテルは背後にルクレールを従えたまま、1年ぶり待望のトップチェッカーを授かった。12年目シンガポールGPに初めてフェラーリ・チームが1-2フィニッシュ。モンツァほどではなくてもマリーナベイの夜宴は盛り上がったことだろう。
付記すると4位ハミルトンはきっちりと5位ボッタスに先行。17位ケビン・マグヌッセン(ハース)が最速ラップを58周目に樹立、それを狙ったボッタスは1点を追加できなかった。ハミルトンは依然として首位安泰の64点リード、フェラーリ勢とフェルスタッペンたちをほぼ100点リードしている。ここで負けてもチャンピオンシップ展開では痛くもかゆくもないだろう。
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