ARTA NSX GT3を急遽引っ張る“テンパらない”大湯と、松下の“1年生らしからぬ無線”
高木真一のスーパー耐久での負傷により、スーパーGT第7戦もてぎから松下信治を代役として起用したGT300クラスのARTA NSX GT3陣営。GTマシンでのレースが初となる松下を迎え入れるということは、レギュラードライバーの大湯都史樹がマシンのセットアップを主導し、チームを引っ張らなければならないことも意味する。GT300ルーキーである大湯にとって、さぞ肩の荷が重い状況だろう。
ところが予選を終えた大湯に話を聞いてみると「もちろん高木さんがいないのは寂しいですが、プレッシャーはありません」と飄々としていた。「まさかこんなに早くAドライバーになるとは思いませんでしたけどね」と少々困惑気味の笑顔で付け加える。
今回大湯が担当した予選Q1ではブレーキに問題を抱えており、当初の本命ラップだった計測3周目でのアタックを完遂できなかった。「ブレーキ温度が低い時に効かなかったり、それ以外のブレーキの問題もあった」(大湯)。
しかし大湯はまったく焦ることなく「もう1周、ちょっと様子を見させて」と無線でピットに伝えると、計測4周目でのアタックをまとめきり、使命だったQ1突破を果たしてみせた。
ARTAの土屋圭市アドバイザーは「あいつはテンパらない。いつもポワーンとしているけど、マシンに乗ってもまったくテンパらないから、こっちも安心していられる」と大湯を評する。
それでいて「セットアップに関しては、真一より大湯の方が神経質」だという。
「今年1年やってきて、真一と大湯(のコメント)が大きく違ったことはないし、大湯のほうがそもそも細かいところもある」とのことで、高木不在の週末でも、セットアップに関しては問題がなかったという。
「それでいて、決勝中もまったくテンパらない。(落ち着いた声で)『リヤタイヤ、たれてますね〜』みたいな。息が上がったような、トーンの上がった無線はこれまで聞いたことがない。俺はこのチームに20年いるけど、(福住)仁嶺と大湯のふたりくらいだね、1年生でも無線でちゃんと喋れるのは。あのふたりはレース中も落ち着いて喋る。無線を使える」
ルーキーに対して最上級の賛辞を送る土屋だが、第3戦鈴鹿での接触については「あれさえなければ、もっとポイントが取れていた。もったいなかったなと思う」と厳しい評価だ。
「だけど、そこは1年生だからしょうがない。何事も経験だよね。今回、真一の骨折によって、シリーズタイトルは遠ざかってしまったけど、鈴鹿でもうちょっとポイント取れていればね……」
大湯がQ1を突破したことで、この日がGTマシン初ドライブとなる松下に予選Q2アタックの機会が訪れた。松下はミスなく走り、トップからは1.4秒落ちのタイムで12番手に入った。
土屋氏は松下について「ものすごく運動神経がよく、適応能力が高い」と表現する。
「750kgのフォーミュラカーで戦ってきた人間が、いきなり1400kgのGTカーに乗って、ましてやABSなんてものも初めて味わって、予選一発は真一より速い大湯に対してコンマ5秒落ちでしょ? もう上出来でしょう。頭もいいし、おそらく決勝でも15周くらいあれば、トップレベルの走りができると思う。この2戦(もてぎと最終戦富士)で頑張って走ったら、たぶんホンダがGT500に乗せるんじゃない? そういう逸材だと思う」と松下の適応能力をベタ褒めする。
ちなみに土屋氏は、松下がコースインして無線チェックをした際、「1コーナー、2コーナー」ではなく、「ターン1、ターン2」という言葉に「“外国人”だな」と感じたという。
「エンジニアが『GT500の36号車と37号車が2秒後にきます』って無線で言ったら、松下は『ゼッケンで言われても分からないから『500』って言って」って(笑)。普通の1年生だったら、そこで言い返せないよね」。このあたりはフォーミュラと欧州での長きにわたる経験から来る部分であろう。
精神的支柱である高木の不在と予選12番手に終わった寂寥感はありながらも、予選後のARTA NSX GT3のピットにはどこかポジティブな雰囲気も漂っていたのが印象的だった。
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