スズキのエースとしてマシン開発を担ってきたアレックス・リンスの貢献/MotoGP第14戦レビュー(2)
ジョアン・ミルのMotoGPチャンピオン獲得で、スズキは最高峰クラスで20年ぶり、通算7回目の最高峰クラス制覇を達成した。
スズキは2011年の800ccMotoGPクラス最後のシーズンで一度MotoGPレギュラー参戦を休止。その間に1000ccMotoGP規定に合わせた新型マシンを開発し、4年のブランクを経て2015年に復帰した。それから6年目となる今シーズン、スズキにとって創業100周年、世界グランプリ参戦から60周年目となる記念すべき年に、MotoGPクラスとなってから初のタイトルを獲得した。
MotoGPマシンの技術開発は日進月歩で、4年というブランクは大きなものだ。しかし、スズキの開発陣はV型4気筒エンジンのGSV-Rから、直列4気筒エンジンのGSX-RRを新たに開発し、テストを重ねて、復帰1年目からアレイシ・エスパルガロがポールポジションを獲得するなど活躍を収めた。2年目の2016年にはミシュランタイヤ、共通ECUソフトの導入とマシン開発環境の変化にもうまく対応。復帰後2年目でマーベリック・ビニャーレスが初勝利を記録し、新規参戦メーカーへのシーズン中のエンジン開発、年間エンジン使用基数やテスト回数などの優遇措置であるコンセッションを返上した。
3年目となる2017年はアンドレア・イアンノーネ、アレックス・リンスとライダーラインナップを一新。この年はそれまでの課題となっていたエンジンの加速性能を改善するためにエンジン仕様を変更して臨んだが、このエンジンキャラクターの変更が実戦では裏目に出てシーズン前半は苦戦を強いられる。優遇措置を失ったこの年、シーズン中のエンジン本体の仕様変更を行なうことができないため、周辺パーツの変更や車体回りの改善に取り組み、シーズン終盤には表彰台まであと一歩というところまで挽回した。
■コンストラクターズタイトルを獲得して3冠を狙うスズキ
続く2018年は前年の結果から再びコンセッションを受けてシーズンを戦ったが、この年はコンセッションを返上すること、つまり、表彰台と勝利を獲得することがが目標とされ、ふたりのライダーで通算9回表彰台を獲得。目標をクリアすると同時に勝利まであと一歩に迫り、リンスがランキング5位を獲得した。そして、2019年はルーキーのミルが加わり、エースとなったリンスが2勝を記録してランキング4位を獲得。ミルも5位を最高位にランキング12位を得た。
スズキは復帰1年目にベテランのアレイシ・エスパルガロとMoto2からステップアップしたばかりのビニャーレスを起用。3年目にも同じくベテランのイアンノーネとMoto2からステップアップしたばかりのリンスを起用している。復帰から4年目まではMotoGPマシンの経験豊富なベテランと若手の組み合わせで臨み、ベテランがマシン開発を担い、若手ライダーを将来のチャンピオンに育てるというのがスズキのレースポリシーだったが、リンスがそのとおりに2年間で大きく成長したことで、2019年以降はミルを加えたMoto2クラス出身の若手ライダーコンビで臨んだ。
リンスはライダーとして成長しながら、マシン開発にも貢献しており、昨年のイギリスGPではホンダのマルク・マルケスに一騎打ちで勝利を収めた。今シーズンはエースとしてタイトル獲得の期待が高かったが、再開1戦目のスペインGPで転倒した際に右肩を強打。その影響でシーズン中盤すぎまで苦戦を強いられた。それでも、シーズン後半に復調すると、第11戦アラゴンGPでスズキにとって今シーズン初優勝を記録している。
チャンピオンとなったミルも「MotoGPマシンの開発は1年という単位ではなしえないもの。それは何年間もの仕事の成果であり、スズキのエンジニアは長い時間をかけて勝てるマシンに仕上げてきた」と語っている。そして、GSX-RRを実戦で勝てるマシンに開発したのがリンスなのだ。
ミルがライダータイトルを獲得したと共に、チームスズキ・エクスターは今年のチームタイトルを獲得している。さらにリンスがランキング2位をねらえる位置につけており、コンストラクターズタイトルでもドゥカティと同ポイントながらランキングトップにつけている。ライダーのタイトルは決定したが、最終戦ポルトガルはリンスがランキング2位に浮上し、スズキがライダーランキングワンツーを獲得できるか、コンストラクターズタイトルを獲得してスズキがMotoGPでは初となる3冠を獲得できるかに注目が集まる。
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