ウエット路面で最後に出て約1秒差でトップの衝撃。アウディのラストに挑戦するのは誰だ《特別交流戦金曜あと読み》
金曜日最後のフリープラクティス2。この日降り続いた雨はこの時間になっても弱まることはなかった。45分間のセッション半ば過ぎ、赤旗中断後の残り時間でこのセクションで初めてタイム計測に臨んだアウディスポーツRS 5DTMに乗るレネ・ラストは、計測1周目に1分57秒台で走り始めると、連続周回でタイムを詰めていき、8周目にこのセッションのベストタイム1分50秒385を記録した。
2位はBMCエアフィルターアウディRS5 DTMロイック・デュバルの1分50秒878。3番手はモデューロ・エプソンNSX-GTの牧野任祐でタイムは1分51秒332であった。前日から牧野は好調を維持するもののラストとは1秒近いギャップとなった。
前日に引き続き、コントロールタイヤであるハンコックを理解するために、GT500のみのタイヤテスト・セッションは45分間2回設けられ、1日テストを重ねて最後に、2019年DTMチャンピオンに1秒近いギャップを築かれたことに大きな衝撃を受けた。
ちなみにDTMとの混走である午前のフリープラクティス1でラストは6周して14番手。コースを確認した程度だったのだろうか。これも衝撃を大きくした要因だろう。“ホームの”GT500勢に大きなプレッシャーが掛かっていることは想像に難くない。
フリープラクティス2をセクター3の入口、ダンロップコーナーのイン側で観ていると、ラストとデュバルのクルマだけがソフトタイヤを履いているかのうようにグリップ感があった。それもコースインからタイヤが機能している感じだった。
対するGT500車両の多くはタイヤが温まるまでの数周はダンロップコーナー出口のS字セクションで、ホイールスピンさせてダンスを踊っているような状況でまるで次元が違う。車両によっては何周走ってもそのホイールスピンがあまり収まらず、まったくグリップ感がない。
さらにタイムアタックするラストのクルマは300Rからダンロップコーナーへの減速で、ブリッピング量が極めて大きく、それによってリヤ荷重を与えてブレーキングを安定させているように見えた。
前日、木曜朝、車両の記念撮影時にラストの車両を見ると、リヤの車高が極端に高く、強いレイク(前傾姿勢)がついていることが確認された。ドライ路面の木曜のテストセッションでもダンロップコーナーイン側で走行を見ていたが、GT500勢がシャープに向き変えていくのに比べるとアウディもBMWもDTM勢はロールが大きく動きが鈍重に見えた。ドライの一発のタイムだけならば、GT500勢の方が明らかに速そうだった。使っているスプリングがDTM勢はソフトなのではないかという印象だった。
ホッケンハイムDTM最終戦に参戦したGT500車両3台のデータを各メーカー内で共有。それをベースに各チームが通常の富士セットから大きく変更して臨んでいることは確認できた。あるチームのメカニックに聞くと今まで持っていたものの、これまで一度も使ったことがなかったソフトなスプリングを組んだと語っていた。
木曜のドライ状況ではアウディ勢にタイヤトラブルが頻発、その結果、ドライでのパフォーマンスを図ることは難しい状況があったが、少なくとも金曜のレインコンディションでは、対アウディで極めて大きな差があることが明確になった。ハンコックタイヤ用にセッティングを寄せたものの、GT500勢はまだ大きく足らないということなのではないだろうか?
タイヤ内圧がどのあたりが美味しいエリアなのかは、走行を重ねることで確認できる。しかし、スプリングレートや車高が極端に違うセッティングを現場だけで試すことは難しい。たとえばレートが半分以下で想定ストローク量が大きく違えば、それに合わせたダンパーの減衰値は7ポストリグ等による検証がなければ適正値は導き出せそうもない。
規則でピッチングを抑制するデバイスが禁止されているため、前への荷重移動を抑制するためにブリッピングを利用しているとして、もしECUセッティングでアタック時のブリッピング量を大きくできるとしたら、それに合わせたエンジン開発がなければオーバーレブによるエンジントラブルを招いてしまうだろう。
現場合わせができる範囲には限界がある。一方、DTM勢は長年コントロールタイヤでレースしてきた蓄積がある。やはり1回のレースウイークでその差を埋めるのは大きなチャレンジだ。
土曜の天気予報は曇り時々雨。そしていきなり20分間の予選。セッティングの幅とドライビングの幅を競うのがDTMの流儀だとすると絶好のコンディションとも言える。現状からするとGT500勢に不利なコンディションであるのは事実。誰がその逆境をはねのけてDTMチャンピオンに挑戦するか、そこが見どころとなりそうだ。
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