【ライターコラムfrom甲府】歯車のズレ、過密日程…来季J1復帰へ過酷な1年で得たものとは?
サッカーキング2018年11月24日(土)9時39分
J2最終戦後、サポーターと一緒に ©J.LEAGUE
2018年のヴァンフォーレ甲府を象徴するような、シーズンの終わり方だった。11月21日に開催された天皇杯準々決勝。甲府はAFCチャンピオンズリーグ王者・鹿島アントラーズと対峙していた。
0-0で迎えた75分。甲府は曽根田穣がエリア内へ仕掛けて、昌子源と競り合う。曽根田はコンタクトプレーで傷み、プレーに戻れない。しかしセカンドボールを回収した甲府は、数的不利の中で攻め続ける。先制の絶好機であり、なおかつ失点の危機でもあった。
選択は裏目に出た。試合後の記者会見で上野展裕監督はこう振り返っていた。
「我々はボールを外に出すチャンスもあったんですけれど、そこで少し持ちすぎたために、3人くらいが置き去りになって、ゴールまで運ばれた形でした」
ベテランのMF小椋祥平はこう悔いていた。
「自分たちが人数を掛け過ぎていた。人数をかけずやり切ることが大事だったと思うし、ファウルで止めるプレーも必要だった。そういうところが甘かった」
鹿島もブラジル人トリオをベンチに残して「終盤に仕留める」ゲームプランだったが、後半30分間までの流れは甲府優勢。コンパクトな守備組織を構築しつつ、サイドからの崩しも狙い通りに出していた。しかし鹿島は甲府の隙を見逃さず、見事なカウンターから土居聖真が決勝ゴールを挙げる。甲府は0-1で敗れて天皇杯、そして今季の戦いを終えた。
「行けそうだな」と思って、前のめりになると、ズッコケる……。そんなシーズンだった。
2017年の甲府は、サンフレッチェ広島と勝ち点1差でJ1残留を逃した。吉田達磨監督は交代せず、2018年のJ2でも指揮を執った。しかし今季は開幕から1敗2分とスタートダッシュに失敗し、歯車がズレていく。大宮アルディージャ、FC町田ゼルビア、東京ヴェルディという3連戦の相手は今思えば難敵揃いだった。「勝てそうで勝ち切れない」「ギリギリで勝ち越される」「ギリギリで追いつかれる」といった展開が続き、2勝4敗5分の苦境下で4月末に吉田監督はクラブを去った。
上野体制下で迎えた5月は4勝1分と「V字回復」を見せ、J1復帰への流れに乗れていた時期もある。ただ甲府はもう一伸びが出来ず、J1の昇格争いに最後まで絡めなかった。最終順位は9位。16勝11分15敗で、勝ち点59は6位・東京ヴェルディと12ポイントの大差だった。
一方でポジティブな要素もあった。天皇杯では清水エスパルス、セレッソ大阪を下した。ルヴァンカップもJ1勢3チームと競り合いってグループステージを勝ち抜き、プレーオフでは浦和レッズを退けた。「格上相手に良い試合をする」のはJ1時代から甲府が持つカルチャーだが、それが非常によく出たシーズンだった。
ただしJ2からルヴァンカップに参加したのは甲府とアルビレックス新潟の2クラブのみ。週中に開催されるグループステージはまだ小さな負担で済んだが、プレーオフ、準々決勝と勝ち上がるにつれて日程面の「ひずみ」は強まった。甲府は第17節・新潟戦、第18節・ツエーゲン金沢戦、第32節・大宮アルディージャ戦はいずれも週末から水曜日に開催がずらされた。
上野監督は苦言を呈する。
「過密日程はいいですが、J2のチームだけが中2日でJ1は1週間空いていたことがあったし、J2の中でも甲府が中2日で、1週間休んだ相手と戦ったこともある。そういう不公平さはキツかった。日程がタイトになれば選手に負荷はかかります。それでケガをした選手も多かった」
今季の甲府はリーグ戦を42試合、ルヴァンカップを10試合、天皇杯を4試合戦った。「56」という公式戦の試合数は、鹿島アントラーズに次ぐ数だ。お客がお金を払って見に来るプロの試合である以上、勝利を求めず臨むこともあり得ない。J2から2クラブだけがルヴァンカップに参加する仕組みは、甲府にとって過酷なものだった。DF湯澤聖人、MF新井涼平、MF島川俊郎、FWジュニオール・バホスと主力の長期欠場が相次いだのも、この日程と無縁ではない。
キャプテンのDF山本英臣は鹿島戦のピッチに立たなかったが、試合後はどうしても彼の話を聞きたかった。彼が目の前の試合だけでなく、「クラブの未来」を真剣に考えている選手だからだ。敢えて今季の“収穫”を聞いたのだが、彼はこう答えてくれた。
「今年は特に若い選手を中心に、試合に出ることですごく伸びたところもある。逆に『もっとこうして行かなければいけない』という課題を得られたことも大きい」
今季の甲府はDF小出悠太、DF今津佑太、MF道渕諒平、MF曽根田穣といった生え抜きの若手が多く出番を得て、持ち味を出した。MF佐藤和弘、MF小塚和季も含めて20代の選手がチームの中心となり、ベテラン頼みの体質は刷新された。
城福浩元監督、吉田元監督らが築いた堅守のカルチャーは良くも悪くも甲府の色となっているし、チームの「ベース作り」も決して疎かにはなっていない。上野監督も今季での退任を発表したが、そこは来季以降に引き継がれる部分だ。
山本はこう口にする。
「上野さんがやりたいことは、(試合に)出ている選手たちがやっていると思う。DFラインからのビルドアップに関して『どう入口を見つけるか』というところは、(吉田)達磨さんが植え付けた。そこは監督が変わっても積み上がっている部分。結果が伴わなければいけないだけど、ベースは自分たちの中に今後も残っていくものじゃないかと思います」
甲府はJ2の中でも「ビッグ」とは言い難い経営規模で、サッカーの中身が伴わなければJ1復帰も不可能だ。もちろんベース「だけ」で結果は出ない。連携や質を上げるにせよ、プレーの強度を追求するにせよ、相手の研究を深めるにせよ、「プラスアルファ」が必要なことは皆さんもこの1年で痛感しただろう。ただ心身ともに過酷な1年を経て得たものは確実にあるし、希望を失う必要もない。それが2018年のシーズンを終えた今の実感だ。
取材・文=大島和人
0-0で迎えた75分。甲府は曽根田穣がエリア内へ仕掛けて、昌子源と競り合う。曽根田はコンタクトプレーで傷み、プレーに戻れない。しかしセカンドボールを回収した甲府は、数的不利の中で攻め続ける。先制の絶好機であり、なおかつ失点の危機でもあった。
選択は裏目に出た。試合後の記者会見で上野展裕監督はこう振り返っていた。
「我々はボールを外に出すチャンスもあったんですけれど、そこで少し持ちすぎたために、3人くらいが置き去りになって、ゴールまで運ばれた形でした」
ベテランのMF小椋祥平はこう悔いていた。
「自分たちが人数を掛け過ぎていた。人数をかけずやり切ることが大事だったと思うし、ファウルで止めるプレーも必要だった。そういうところが甘かった」
鹿島もブラジル人トリオをベンチに残して「終盤に仕留める」ゲームプランだったが、後半30分間までの流れは甲府優勢。コンパクトな守備組織を構築しつつ、サイドからの崩しも狙い通りに出していた。しかし鹿島は甲府の隙を見逃さず、見事なカウンターから土居聖真が決勝ゴールを挙げる。甲府は0-1で敗れて天皇杯、そして今季の戦いを終えた。
「行けそうだな」と思って、前のめりになると、ズッコケる……。そんなシーズンだった。
2017年の甲府は、サンフレッチェ広島と勝ち点1差でJ1残留を逃した。吉田達磨監督は交代せず、2018年のJ2でも指揮を執った。しかし今季は開幕から1敗2分とスタートダッシュに失敗し、歯車がズレていく。大宮アルディージャ、FC町田ゼルビア、東京ヴェルディという3連戦の相手は今思えば難敵揃いだった。「勝てそうで勝ち切れない」「ギリギリで勝ち越される」「ギリギリで追いつかれる」といった展開が続き、2勝4敗5分の苦境下で4月末に吉田監督はクラブを去った。
上野体制下で迎えた5月は4勝1分と「V字回復」を見せ、J1復帰への流れに乗れていた時期もある。ただ甲府はもう一伸びが出来ず、J1の昇格争いに最後まで絡めなかった。最終順位は9位。16勝11分15敗で、勝ち点59は6位・東京ヴェルディと12ポイントの大差だった。
一方でポジティブな要素もあった。天皇杯では清水エスパルス、セレッソ大阪を下した。ルヴァンカップもJ1勢3チームと競り合いってグループステージを勝ち抜き、プレーオフでは浦和レッズを退けた。「格上相手に良い試合をする」のはJ1時代から甲府が持つカルチャーだが、それが非常によく出たシーズンだった。
ただしJ2からルヴァンカップに参加したのは甲府とアルビレックス新潟の2クラブのみ。週中に開催されるグループステージはまだ小さな負担で済んだが、プレーオフ、準々決勝と勝ち上がるにつれて日程面の「ひずみ」は強まった。甲府は第17節・新潟戦、第18節・ツエーゲン金沢戦、第32節・大宮アルディージャ戦はいずれも週末から水曜日に開催がずらされた。
上野監督は苦言を呈する。
「過密日程はいいですが、J2のチームだけが中2日でJ1は1週間空いていたことがあったし、J2の中でも甲府が中2日で、1週間休んだ相手と戦ったこともある。そういう不公平さはキツかった。日程がタイトになれば選手に負荷はかかります。それでケガをした選手も多かった」
今季の甲府はリーグ戦を42試合、ルヴァンカップを10試合、天皇杯を4試合戦った。「56」という公式戦の試合数は、鹿島アントラーズに次ぐ数だ。お客がお金を払って見に来るプロの試合である以上、勝利を求めず臨むこともあり得ない。J2から2クラブだけがルヴァンカップに参加する仕組みは、甲府にとって過酷なものだった。DF湯澤聖人、MF新井涼平、MF島川俊郎、FWジュニオール・バホスと主力の長期欠場が相次いだのも、この日程と無縁ではない。
キャプテンのDF山本英臣は鹿島戦のピッチに立たなかったが、試合後はどうしても彼の話を聞きたかった。彼が目の前の試合だけでなく、「クラブの未来」を真剣に考えている選手だからだ。敢えて今季の“収穫”を聞いたのだが、彼はこう答えてくれた。
「今年は特に若い選手を中心に、試合に出ることですごく伸びたところもある。逆に『もっとこうして行かなければいけない』という課題を得られたことも大きい」
今季の甲府はDF小出悠太、DF今津佑太、MF道渕諒平、MF曽根田穣といった生え抜きの若手が多く出番を得て、持ち味を出した。MF佐藤和弘、MF小塚和季も含めて20代の選手がチームの中心となり、ベテラン頼みの体質は刷新された。
城福浩元監督、吉田元監督らが築いた堅守のカルチャーは良くも悪くも甲府の色となっているし、チームの「ベース作り」も決して疎かにはなっていない。上野監督も今季での退任を発表したが、そこは来季以降に引き継がれる部分だ。
山本はこう口にする。
「上野さんがやりたいことは、(試合に)出ている選手たちがやっていると思う。DFラインからのビルドアップに関して『どう入口を見つけるか』というところは、(吉田)達磨さんが植え付けた。そこは監督が変わっても積み上がっている部分。結果が伴わなければいけないだけど、ベースは自分たちの中に今後も残っていくものじゃないかと思います」
甲府はJ2の中でも「ビッグ」とは言い難い経営規模で、サッカーの中身が伴わなければJ1復帰も不可能だ。もちろんベース「だけ」で結果は出ない。連携や質を上げるにせよ、プレーの強度を追求するにせよ、相手の研究を深めるにせよ、「プラスアルファ」が必要なことは皆さんもこの1年で痛感しただろう。ただ心身ともに過酷な1年を経て得たものは確実にあるし、希望を失う必要もない。それが2018年のシーズンを終えた今の実感だ。
取材・文=大島和人
(C) SOCCERKING All rights reserved.
「ライター」をもっと詳しく
「ライター」のニュース
-
矢野顕子のほっこり投稿に共感の声「そうとしか見えなくなってしまった!」5月27日19時44分
-
椎名林檎、6年ぶりアリーナツアー発表5月27日13時8分
-
槇原敬之が感謝 「どんなときも。」のサビ、映画監督の助言で現在の歌詞になった!全然違う元歌詞を明かす5月26日18時35分
-
ダンサー・TAKAHIRO「人生を変えたのは、アメリカ行きの飛行機に乗ったこと」 世界的活躍へのきっかけ【オリコン ライターズ】5月26日18時0分
-
槇原敬之が絶賛!低予算MVも話題...同業後輩の楽曲は「書いちゃいけないよ、ってことを書いてるのが好き」5月26日12時52分
-
直営店でしか手に入らなかったUNBY STORE別注のアウトドア ターボライター[PORTABLE STICK BURNER]が UNBY STORE 公式アプリで6/1(土)より販売開始!!5月25日14時16分
-
さだまさし、20年間過ごした市川市の親善大使就任式に感慨「格別なものがあります」5月24日23時4分
-
【2024年】韓国在住ライターがおすすめ!漢江でピクニックを100倍楽しむ方法【ハングクTIMES】5月24日16時0分
-
海外ライターF1コラム:不名誉な記録に近づくマグヌッセンの現状と、出場停止事件の歴史5月24日11時45分
-
キャンメイク「むにゅっとハイライター」「シルキースフレアイズ」に新色5月24日11時31分
スポーツニュースランキング
-
1大谷翔平が“史上5人目の快挙”へ! 第1打席に左前打で4試合連続安打 打率「.350」維持なら歴史的記録を達成 ココカラネクスト
-
2清水ルーカス・ブラガが今夏移籍?サントスから3億円超で完全獲得の可能性も FOOTBALL TRIBE
-
3球場騒然! 大谷翔平、まさかの走塁で“異変”が起きた…!? 相手野手のリアクションが話題に 「笑うしかない」「本当に実在するのか?w」 ABEMA TIMES
-
4張本勲氏「感無量」の始球式 杖をつきながらも左手で力投 「王貞治DAY」で「はってでも...」 スポーツニッポン
-
5「渡辺西武」厳しい船出 貧打解消せず零敗 守備でも乱れ...昇格即スタメンのコルデロがミス 今井2敗目 スポーツニッポン