守るでも攻めるでもない、老舗と民藝の共通点とは?
過去と未来をつなぐ道。
先日、とあるイベントで「これからも民藝はつくられ続けると思いますか?」という質問を受けた。この仕事をしているとよく聞かれる質問だ。答えながら、一冊の本のことを考えていた。
フリーライター・井川直子の著書『昭和の店に惹かれる理由』は、僕が民藝的だと感じる美学を持つ老舗の飲食店が、10軒紹介されている。店主の姿勢やお店の成り立ちの話には、積み重ねたものにしか宿らない奥深さがあり、語られる言葉は多くの示唆に富んでいる。なかでも特に心に響いたのは、「どのように味を守っているのか?」という問いに対する「守るでも攻めるでもなく、『つないでいる』という気持ちでやっています」という答えだ。徒に攻めるでも、頑なに守るでもなく、「つないでいる」という、覚悟の込められた言葉からは、先人たちの積み重ねた歴史に対する敬意と、目の前のお客様に対する真摯な想いが感じられる。
冒頭の「これからも民藝はつくられるのか?」という問いは、「これからも老舗はつくられるのか?」という問いと同じだ。老舗とは、誠実な仕事の積み重ねが人々に認められて、やがて至る頂だ。そして、老舗が味や店構えを時代に合わせて変化しても、変わらぬ温もりと瑞々しさ持ち続けるのと同じように、民藝も時代に合わせて姿形を変えながら、変わらぬ想いを未来につなぐものなのではないだろうか。
『昭和の店に惹かれる理由』
朝倉圭一
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。
text by Keiichi Asakura
記事は雑誌ソトコト2023年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
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