60年前、湖の底に沈んだ「幻の村」 愛知・宇連ダム枯渇で再び姿を現す
2019年5月19日、愛知県新城市にある宇連ダムの貯水率がゼロになったと、管理元の水資源機構が発表した。
同日、日本気象協会が運営するウェブメディア「tenki.jp」が公開した記事によると、貯水率がゼロになるのは1985年(昭和60年)の1月以来、2度目。今年に入り、ダムのある新城市の雨量は平年比の半分並で、豊橋市などでは、節水を呼びかけたという。
一方、ツイッター上では、水が干上がったダムの様子を撮影した写真が投稿され、注目を集めている。水がなくなったことで、ダムの底に沈んでいた橋が出現したというのだ。
60年以上前に沈んだ橋
出現した橋の名前は大嶋橋(おおしまはし)。宇連ダムが完成したのが1958年ということで、ツイッター上では、
「60年前はここに村があって人が橋の上を行き来してて、やがてそれがダムに沈み、再び出てきたと思うとなんか感動」
との声が上がり、話題となっている。
宇連ダムのある新城市役所秘書人事課の担当者は20日、Jタウンネット編集部の取材に応じ、出現した橋について、
「かなり昔のものであるので、詳しいことはわからないんです」
とした。ただ、1985年(昭和60年)に貯水率ゼロとなった際にも、当時の町広報誌に特集されていたと述べる。
かつての鳳来町(現在は新城市と合併)にあったダムが枯渇したことについて、上の広報誌には以下のように記されている。
「...とうとう、一月末には、貯水率0%という、最悪の状態に陥ってしまいました。このため、かつての生活の場であった住居や道路などの跡が、昭和三十三年、ダム完工と同時に水没して以来、再びその姿をくっきりと現しました」(広報「ほうらい」昭和60年2月号より)
上の画像でははっきりと確認できないが、写真中央には今回出現した大嶋橋の姿が映し出され、紹介されている。ダム完工前の状況を知る人に話を聞いたという担当者は、
「家があったのではないかということですが、地域の方の記憶では、住居ではなく農業をしに来て泊まっていった小屋だったと思うとおっしゃっていました」
とした。30年以上の歳月を経て、再び姿を現した幻の地域。橋のほかにもダムに沈んでいた「滝」も出現していたという。
ダムを管理している水資源機構豊川用水総合事業部の担当者に21日、水没した地区の詳細について話を聞いたところ、
「橋のあった地域の当時の地名は『北設楽郡三輪村川合』(編注:鳳来町に1956年に吸収)と聞いております」
と述べた。しかし、当時の生活について詳しいことはわからないという。
宇連ダムは農林省による1927年(昭和2年)の「大規模農林水利調査」で事業として計画が立ち上がったが、実際にダムの建設に着手したのは1949年(昭和24年)のこと。建設着手に時間がかかった理由については、資料が現存しておらず、不明だそうだ。
降雨の影響もあり、21日時点で出現した大嶋橋はすでに見られなくなっているという。
幻の橋はもう見られない。またいつか現れる日を待ちながらダムの底に三度沈んだ。
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