“タイパ主義”のZ世代に支持される「位置情報共有アプリ」、親が知っておきたいメリット・デメリット #親と子のネットリテラシー入門
ここ数年で、子どもを取り巻くデジタル環境は劇的に変化。私たち親世代は、子どものデジタル機器の付き合い方や、ITリテラシーの教え方にどう向き合ったらよいのでしょうか? ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザーとして活躍し、自身も二児の母である鈴木朋子さんに教えてもらいます。
執筆者プロフィール 鈴木朋子さん ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザースマホやSNSなど、身近なITサービス全般に関する記事を執筆。なかでもSNSに関しては、コンシューマーからビジネスまで広く取材を行い、最新トレンドを知るジャーナリストとして定評がある。また、安全なIT活用をサポートするスマホ安全アドバイザーとして記事執筆や講演も行う。著書は『親が知らない子どものスマホ』(日経BP)、『親子で学ぶ スマホとネットを安心に使う本』(技術評論社)、『インターネットサバイバル 全3巻』(日本図書センター)など。
「渋谷なう」−−Twitterが日本で普及し始めたころは、こんなツイートが流行りましたね。「自分と近くにいる人は一緒に飲もうよ」と、知らない人同士で集まる人たちもいました。いい時代だったなとは思いますが、今ではリスクの方が大きいかもしれません。ネットを通じた出会いを悪用する事件も増えています。
2022年8月15日、北九州市で母親と高校生の娘が刺傷される事件が起きました。犯人は東京都に住む17才の少年で、事件後すぐに列車にはねられて死亡してしまいました。なぜ北九州市に住む女子高生と東京都に住む少年に繋がりがあったかといえば、ネットを通じて知り合った同士だったのです。
ここで、犯人が被害者の自宅を割り出した方法は、位置情報を共有するアプリだとの証言が出ています。アプリの名前は明確にされていませんが、位置情報共有アプリ『Zenly(ゼンリー)』では、と言われています。ほかにも位置情報を共有できる見守り機能やマップアプリなどもありますが、年齢からすると若者に人気のZenlyを使って、繋がっていた可能性は高いと思います。
「自分の位置情報を共有し続けるなんて」と思う人も多いかもしれません。しかし、位置情報を共有しているからこその便利さや楽しさもあります。そこで、今回は位置情報共有アプリのメリット、デメリットについて解説します。
位置情報共有アプリのメリットとは
ここでは位置情報共有アプリの代表格、『Zenly(ゼンリー)』についてお話します。ZenlyはフランスのZenly社が2015年にリリースしたアプリで、2017年にアメリカのSnap社が買収、その後人気アプリとなりました。残念ながら、Snap社の従業員削減により、近いうちにサービスを終了する予定です。
Zenlyは、お互いに承認した相手と位置情報を常に共有するアプリです。アプリを開くと地図上に自分のフレンドが表示され、誰がどこにいるのかがわかります。
位置情報共有アプリ「Zenly」は友達の位置情報がわかる(出所:Zenly)
さらに、その人がそこに何分滞在しているのか、どれぐらいの速度で移動しているのかといった情報も表示され、帰宅中なのか、就寝中なのかも推測されます。スマホのバッテリー残量も表示されるため、「電源切れてて」と言い訳することもできず、位置情報を開示し続けます。
友だちの滞在時間やバッテリー残量も表示される(出所:Zenly)
少し怖い気持ちもしますが、誰にも居場所を知られたくないときは「フリーズ」や「あいまい」などの機能で隠せます。ただし、隠していることは周囲に知られてしまいます。
Zenlyが若者に人気となった理由のひとつが、若者の「タイムパフォーマンス(タイパ)主義」です。若者は、「かけた時間に対する満足度」を重要視しています[*1]。友人に「いま通話できる?」とメッセージを送っても、相手がバイト中なら数時間返信が来ないかもしれません。でもZenlyを開けば、バイト中なのか、自宅でゆっくりしているのかがわかります。もしその友人が忙しそうな場合は、ほかの友人の様子を見て、暇そうな人に声を掛けられます。
このタイムパフォーマンス主義は、若者ならではの気遣いにも繋がります。若者はデジタルツールを使うことで、相手の負担にならないように気遣うのです。たとえば、先ほどの例のように「いま通話できる?」とメッセージしてしまうと、相手が「ごめんね。バイト中だった」と申し訳なく感じるかもしれません。そのやり取りを避けられます。
Zenlyを使うと便利なシーンは、待ち合わせです。だいたいの場所と時間を決めておけば、あとは位置情報を見ながら近づいて行くだけ。どちらかが遅れても、相手は自分の好きな場所で過ごせます。
親子で使っている人は、子どもの見守りに便利だと言います。学校から帰宅後に習い事に行けたのか、電車でどのあたりにいるのかなど、Zenlyを見ればわかります。帰宅時間が推測できると、それに合わせて夕飯を作ることもできますね。
また、スマホを紛失してしまったときにも便利です。Zenlyで繋がっている友人にZenlyを見てもらえば、すぐに紛失したスマホの位置がわかります。スマホを探すことは別の機能でもできますが、特にログインなどの操作も必要なく、アプリを開けばわかるのは助かります。
位置情報アプリのデメリットとは
Zenlyに限らず、位置情報を他人に共有するということは、生活をすべて明かすことに等しいです。自宅はどこなのか、学校や習い事はどこに通っているのか、週末はどのあたりにいるのかなどから、暮らしぶりがわかります。
位置情報を共有する相手は、かなり親しい人に限定する必要があります。家族であれば問題がないと思いますが、友人は注意したほうがいいでしょう。なぜなら、親しい友人だとお互いに思っていても、ふとしたことで関係性が変わる可能性があるからです。そして、ネットで知り合った人などはもちろん繋がらないようにしてください。Zenlyは「友だち」を増やすために“知り合いと思われる人”を表示しますが、友だちを増やす使い方は避けておいた方が無難です。
お子さんが「Zenlyを入れたい」と言ってきたら、親子で繋がるだけにしましょう。もし「友人と繋がりたい」と言ったら、すでに自宅を知っている地元の友人など、ごく親しい人との繋がりに留めるか、Zenly自体を使わないほうがいいかもしれません。
まとめ
Zenlyの公式Twitterによると、Zenlyはまもなくサービスを終了しますが、おそらく類似のサービスが誕生します。
2022年9月14日、zenly japan(@ZenlyJP)がサービス終了を告知するツイートを投稿
位置情報を共有するアプリに関しては、お子さんのリテラシーが高くなり、危険を感じたらすぐ位置をあいまいにするなどの対策が取れるようになってから利用するようにしましょう。
(文:鈴木朋子、編集:マイナビ子育て編集部)
参考文献[*1]Z世代の映像コンテンツの楽しみ方に関する意識調査(SHIBUYA109 lab.調べ/2022年8月18日)
<関連リンク>→子どもの好きなキャラクターが暴力! 「エルサゲート」に注意 #親と子のネットリテラシー入門→子どものオンラインゲームデビューは何才からが妥当だと思う? 「小学校5〜6年生」より支持を集めた第1位は?→ママたちは、子どものデジタル機器の使用についてどう感じてる?「親より詳しい」「社交的になった」反面、心配事やルールの必要性も
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