転ぶと柔らかくなる床に、手ぶらで使えるナビシステム... 広島で、新しい時代が始まりつつあった
「ニューノーマル」という言葉を耳にすることが多くなった。
日本国内で初めて新型コロナウイルスの感染が確認されてから、1年半以上がたち、わたしたちの生活は大きく変化した。特に、他の人とのかかわり方は、かつてとはまるで違う。
外出を自粛し、他人との接触を控え、交流はオンラインに。家族以外の素顔を直接見る機会すら、あまりなくなってしまったという人も多いのでは?
最初はそんな日々に違和感を抱えていたかもしれない。でもいつのまにか、それが「普通」になっている。
新しい日常が始まると、当然、新しい課題も生まれる。それらを解決するための事業が、広島県で行われている。
Jタウンネット記者は2021年9月2日、都内某所で行われたこの事業の実証体験会に参加した。
足から伝わるナビゲーション
広島県は「イノベーション立県」を掲げ、実証実験プロジェクト「ひろしまサンドボックス」を進めている。2020年秋、その中の事業の一つ「D-EGGS PROJECT」が始動した。新型コロナウイルス感染症の拡大によりあらわになった課題、これから顕在化するだろう課題を解決する「卵」を、デジタル技術を駆使して生み出そうというものだ。
さまざまなテーマのもと、29社+高専枠1件がそれぞれのアイデアを形にするため、広島で開発・実証を進めている。この30件は、全国から集まった391件の応募から、厳正な審査の上で採択されたものだ。
2日の体験会には、その中から「D-EGGS PROJECT」事務局が注目する8社が参加。それぞれのサービスやプロトタイプを披露した。
記者が特に気になったのは、「モビリティの自動化・パーソナル化」というテーマの下で開発を行う「Ashirase」のプロダクト「あしらせ」。世界初の振動デバイスを用いた視覚障害者向けの歩行ナビシステムだ。
靴に装着したデバイスが振動することで視覚障害者に進むべき方向をしらせるもので、日本版GPS「みちびき」を使って得た正確な位置情報を利用。スマートフォンアプリで目的地を設定すると、「まっすぐ進む」「停止する」「右折する」など指示を、振動する部位とテンポで使用者に直感的に伝える。
専用のシューズなどは必要なく、履きなれた靴でナビしてもらえるのも魅力的だ(形状によっては装着できない靴もある)。
誘導に「振動」を使うのは、利用者がより安全に移動するためだ。音声によるナビゲーションでは、視覚障害者が周囲の情報を把握するのに重要な聴覚を妨げてしまう。これによって安全の確認が困難になっているそう。「あしらせ」は耳だけでなく、杖を使う手、点字ブロックなどを感じる足裏からの情報収集も阻害せず、安全確認に集中しながら目的地に向かえるという。
Ashiraseの事業計画情報によると、コロナ禍によって、ガイドヘルパーなどによる「密」にならざるを得ないサポートは難しくなっている。そんな中、一人で移動することのハードルを下げる「あしらせ」は、視覚障害者の生活をより豊かにすることができそうだ。
転ぶと柔らかくなる床
静岡県浜松市に本社を構える「マジックシールズ」は、「コロナ禍での地域医療のレジリエンス強化」をテーマに転んだ時だけ柔らかい床「ころやわ」を開発している。
20年11月13日、スポーツ庁は新型コロナウイルスによる高齢者の「健康二次被害」を予防するためのガイドラインを発表した。人との接触を避け、外出を自粛することが「筋量・筋肉の低下」「歩行速度の低下」「認知機能の低下」に繋がっているという。これが、転倒や骨折などの問題に発展する。
マジックシールズの事業計画情報によると、骨折リスクの高い高齢者は「骨折を恐れて本人が歩かない」「本人のために周囲の人も歩かせない」ために、心身が衰弱していく負のスパイラルに陥っている。そんな中、同社は「ころやわ」で「すべての人が骨折を気にすることなく、自分の意志で自由に動ける社会」を目指している。
こちらが、その「ころやわ」を敷いた床。歩いてみた感覚では、フローリングのようには硬くないが、「やわらかい」というほどでもない。人を乗せた車いすのタイヤも沈み込むことなく、難なく移動できる。
しかし、試しに「ドン!」とやってみると......。
確かに、やわらかくなった!
フローリングと比べると「ころやわ」は、歩行からの転倒時の衝撃を約半分にまで抑えるという。ただ柔らかいだけだと高齢者が転倒しやすくなってしまうが、普段は硬いのでその問題もない。マットのように一部に敷くことも、床全面に設置することもできる。
必ずしも骨折を防げるというわけではもちろんないが、そのリスクが少しでも軽減されれば、高齢者にとっても、彼らをサポートする家族・看護師・介護士にとっても、安心して過ごせる時間が増えそうだ。
ご紹介した2つのアイデアの他にも、自動走行型配達ロボットを活用したスーパーの商品配達(Yper社)や、遠隔地から眼科医への相談ができるサービス(MITAS Medical社)、害獣として捕獲されたあと破棄されているシカやイノシシをキャットフードにする事業(nyans社)など、いろいろなテーマのプロジェクトが進められていた。
広島で始まりつつある「新しい時代」。我々の生活をどんなふうに変えてくれるのか、これからも注目していきたい。
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