『トヨタ・スープラ(1994年編)』17シーズンにおよぶ長い道のりの本格的な第一歩【忘れがたき銘車たち】

2023年3月22日(水)11時35分 AUTOSPORT web

 モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、1994年の全日本GT選手権(JGTC)を戦ったJZA80型の『トヨタ・スープラ』です。


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 本連載で、JGTCスープラの名機“3S”搭載時代最終年である2002年をチャンピオン獲得で飾った一台、『エッソウルトラフロースープラ』の活躍を紹介したことがある。今回は、その初年度、“3S”搭載スープラの時代が幕を開けた1994年の車両についてお届けしたいと思う。


 1994年は、前年の結果的にプレ的な開催となったシリーズを経て、本格的に全日本GT選手権(JGTC)がスタートした年だった。その開幕戦からJZA80型のスープラは参戦を開始していたのだが、それは以前この連載でも紹介した『BLITZ SUPRA』など、メーカーワークスではない、しかも市販車と同じ3.0リッター直6ターボエンジンの2JZ-GTEを搭載したどちらかというとN1+αのようなスペックのマシンだった。


 そのマシンたちは、最大のライバルであるはずのニッサン・スカイラインGT-R(BNR32型)に対して、開幕から劣勢を強いられている状況だったのだが、そんな最中、スポーツランドSUGOで開催されたシリーズ第4戦から登場したのが、TRDが製作した『トヨタ・スープラ』だった。


 この当時、ツーリングカーによるもうひとつの全日本選手権である全日本ツーリングカー選手権(JTCC)も新たなスタートを切ったばかりで、TRD自体もそちらへのリソースを大きく割く状態だったが、JGTCへの本格参入をトヨタ・モータースポーツ本隊に促す思惑もあり、JGTC向けのスープラを製作することが決まった。


 そのためマシン製作の予算は限られていたが、TRDには当時、活動を終了していたグループCカーのパーツが余っていた。そこでそのグループCカー(トヨタTS010)のブレーキキャリパーやアップライトの部品などを流用して、スープラに装着。そんななかでもすべてが流用だったわけではなく、サスペンションアームについては費用があまりかからないため、新規に製作された。


 搭載されるエンジンはこれも流用で、1992年までアメリカのIMSA GTPで使用され、TRD USAにスペアやパーツが充分な数保管されていた社内呼称「503E」、排気量2140ccの直4ターボエンジンである3S-G改が採用された。


 同メーカーであればエンジン換装が可能だった規定を利用して、コンパクトな直4であれば重量配分の改善ができることを狙いに3S-G改が選ばれたのだ。そして、これをベースにJGTCの規定で決められたリストリクターを取り付け、そのための制御を行ったほかは基本的にIMSA仕様のままスープラへと収めた。


 エンジンについては足まわり同様ほぼ流用だったが、トランスミッションに関してはヒューランドから調達し、503Eに組み合わされた。このようにCカーから多くのパーツを流用して仕立てられたスープラは、幅広のタイヤを収めるための大きなフェンダーやリヤウイングなど、最低限とも思えるエアロが装着された姿で、シリーズ第4戦のSUGOラウンドでデビューを果たす。


 ジェフ・クロスノフのドライブで(当時、ドライバーはひとりでもOKだった)まず予選を戦うといきなり2番手、フロントロウにつけた。決勝ではトラブルのためにリタイアとなったが、デビュー戦ながらポテンシャルの高さを大いに発揮した。


 続くラウンドはMINEサーキットで開催された最終戦。ここでスープラは2戦目にしてポールポジションを獲得する。決勝ではまたもトラブルのためにチェッカーは受けられなかったが(リザルトは14位完走扱い)、参戦した2戦ともにライバルに脅威を感じさせるスピードを見せつけた。


 こうして2戦のみのエントリーながら初年度のシーズンを終えたTRD製のスープラは、翌年には参戦台数が増え、徐々にユーザーチームの努力でGT専用に作り替えられていきながら、さらに飛躍していく。2005年まで17シーズン続く、長きスープラ時代の本格的な第一歩が記された瞬間だった。

1994年の全日本GT選手権最終戦MINEを戦ったトヨタ・スープラ。ジェフ・クロスノフがステアリングを握った。

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