スーパーGT:GT500は全車FRで新時代へ。岡山テストで好調のトヨタ&ホンダ、トラブルが多かったニッサン

2020年3月31日(火)11時49分 AUTOSPORT web

 2020年のスーパーGTはGT500の3車が新車となる。そのなかでGRスープラがデビューし、NSXがFRレイアウトとなり、ここ数年では大きな話題があるシーズンだ。オフ期間のこれまでは各車トラブル出しやベースのセットアップの煮詰めなどを行ってきたが、いよいよ岡山の公式テストから本番に向けた“仕上げ”に入った。これまではウエイトを積んで走行することがセオリーだったが、ここでは開幕戦を想定しているので全車が降ろす。そのため初めて素のポテンシャルが分かる。


 テスト初日は雨混じりの不安定なコンディションで、スリックタイヤの出番は少なかった。そのなかでトップタイムをマークしたのは、2019年終盤に連続ポールポジションを獲得するなど尻上がりに調子を上げていたKEIHIN NSX-GTだ。


 コースレコード(1分16秒602)には届かないものの、唯一1分17秒台をマークし、結果的にこれが翌日分も含めて最速タイムとなった。FRになっても好調をキープしていると思われたが、実状はそうでもないらしい。


「昨年はセットのいいところが見つかり、それが今年のクルマに活かせると思ったらまったくできないです。昨年と同じようにやってみたら、ドライバーからは『逆です』って言われたり(笑)。なんとなくバランスを出す手法は分かってはいるけど、自分のなかでは納得できていない」


 そう苦笑い混じりで答えたのが、田坂泰啓エンジニアだ。FRになったことや車重が軽くなったこと(NSXは2020年からライバルと同じ1020kgに)、さらに空力が変化したことなどのさまざまな要素が絡み、これまでのセッティングのおいしいツボが使えずリセットされてしまったのだそうだ。


 それでもトップタイムであることは良しとすべきかもしれないが、納得ずくではない分、応用がきかない危険性もある。ドライコンディションが多かった翌日はトップタイムこそ譲ったが、ホンダ勢最速ではあった。


 両日ともにホンダ勢2番手だったのはARTA NSX-GTだが、こちらも「まだ探りながらやっているところはある」と星学文エンジニアは語る。


「開発車のセットからはだいぶ変わっているので。今はFRになったことはあまり意識せずにやっています」


 MRだから、FRだから、ではなく、1台の“レーシングカー”として見て、そのうえでバランスを最適化している状態なのだそうだ。


 2日目はGRスープラが最速となった。午前がWAKO’S 4CR GR Supra、午後がZENT GR Supraである。この2台に続いたのがau TOM’S GR Supraで、この日の総合順位はスープラがワン・ツー・スリーとなった。


 スープラは昨秋のシェイクダウンから好調で、トラブルも少なく、各車の走行マイレージも非常に多い。そのためライバルからは「完成度はもっとも高い」と警戒されている。


 だがWAKO’Sの阿部和也エンジニアは、NSXと同様に「セットがリセットされてしまったので」と複雑な表情を見せる。昨年タイトルを獲得したセットアップは、2020年のマシンでは通用しないのだという。


 現行の車両規定は、主要諸元が決められているうえに共通パーツが多く、開発やセッティングの領域が狭い。そのため車種がLC500からスープラに変わったとしても、基本構造はほぼ同じだったりするのだが、それでもわずかな仕様や規定の変更が影響しているようだ。


 ところでWAKO’Sを走らせるTGR TEAM WAKO’S ROOKIEは、実質旧Team LEMANSがCERUMOとジョイントする形に近い。そのためWAKO’SとZENTはチーム名はそれぞれ違うものの実状は「2台体制のCERUMO」と言える。


 今回のテストではタイヤ選択を分担して行うなど、各データを共有し、走行後に2台まとめてのミーティングを行っていた。情報共有の旨味と適度な競争原理が働けば、両車とも2020年のタイトル戦線に残り続けることになるだろう。

ZENT GR Supraは2日目午後にトップタイム。CERUMOに加入したWAKO’Sとの相乗効果を発揮中。「2代でタイトル争いして最終戦を迎えること」が2020年の目標だ


 なお、CERUMOの総監督でもある立川祐路によれば、第7戦までは共闘体制で、「最終戦は2台の間にパーテーションを立てて、完全ガチンコ勝負」が目標だという。


 同じく2台体制のTOM’Sは、auはセルモに追随したが、KeePer TOM’S GR Supraがやや出遅れた感がある。ただそれはタイヤ選択メニューをauと分けて行ったことが理由のひとつで、さらに「セットで試したところもあったので。タイムが悪いなりにその原因は掴めている」と小枝正樹エンジニアは語っており、実力があり、かつ体制の変更がない平川亮/ニック・キャシディ組は、今季も開幕から優勝候補の1台となるだろう。


 一方、もう1台のドライバーである関口雄飛は、「調子は悪くはない」と好感触を得た模様。「フィーリングで言えばセパンテストのときの方が良かったけど、今回はコンディションが悪いなかでも常に上位にいたので良かった」と語っている。


 LC500のときもそうだったが、トヨタは開発車でベースのセットを決め、そこから大きく振って限界を確認している。そのため「上限と下限が分かっているので、みんな迷走しないと思う」と東條力エンジニアは言う。だからコンディションの変化が少なければ、同程度のウエイトならばスープラはほぼ同じポジションに固まることになりそうで、テスト2日目はその傾向が見えつつあった。


■ニッサンもプレチャンバー導入の噂。GT500エンジン戦争も新時代到来か


 さて、好タイムを出した2メーカーに対し、ニッサンはどうだったのか。昨年に引き続き車種もGT-Rのままで、変わったと言えば空力くらいで3車中もっとも変化が少ない。となれば順調に熟成が進むはずである。


 思い起こせばちょうど1年前の同テストでは、カルソニック IMPUL GT-Rが2番手以下に約コンマ7秒もの差をつけるぶっちぎりの速さだった。だが2020年は平凡なタイムに終わっている。ニッサン勢最速のMOTUL AUTECH GT-Rは7番手に終わった。


 一見、不安を残す結果に見えるが、数字ほど悪くはないようだ。松田次生によれば、「クルマは乗りやすくなり、タイヤも悪くない」と語っている。


「全体的にレベルアップしている印象です。昨年はブレーキがナーバスだったけど、今年はそれもなく乗りやすくなった。タイヤはウエットもがんばってくれている」


 ミシュランの小田島広明氏によれば、「昨年重要課題は特にはなかったので、正常進化」と語っているが、今のところそれは順調のようだ。3月初旬には同じ岡山でウエットテストを行なっており、その効果も出ている模様。ちなみにブリヂストンは今季は予選一発を課題に掲げて開発している。


 GT-Rの乗りやすさに関しては、他のニッサンドライバーも同じ意見だ。高星明誠が「無難にできている」と語れば、今季からGT500復帰の千代勝正も「運転しやすく素直」と口をそろえる。

ニッサンGT-RニスモGT500のプロペラシャフトのトラブルが多い。岡山公式テストでもカルソニック IMPUL GT-Rが破損。幸いシャフト本体だけの損傷でフロアトンネルへの被害は皆無だったこともあり、修復はわずか10分で終了するという鬼速シューティング


 ただGT-Rはややトラブルが目立つ。今回も含め、プロペラシャフトの破損があったり、セパンテストでは前半にエンジントラブル(正確には本体ではなくその周辺個所)で載せ替えを余儀なくされた。旧型と比べて仕様の変化が多ければ初期トラブルはありがちで致し方ないところだが、GT-Rはライバルよりもそれは少ないはずなのになぜ? という疑問が残る。


 なお、パドックでは「2020年、ニッサンはついにプレチャンバーを導入した」という噂が流れている。もしかしたらそれに起因するトラブルが頻発しているのかもしれない。先行投入しているライバルも、当初は制御や信頼性確保に追われたとも聞く。ニスモの石川裕造氏にそのあたりを直撃すると、「準備はしています」という答えが返ってきた。


「以前から言っているように、その準備はしていて、まだまだ試してはいます。今回載せているエンジンは今年仕様ですが、プレチャンバーが入っているかどうかは、ちゃんと答えないでおきます」


 もしもGT-Rにプレチャンバーが入っているとすれば、エンジン戦争はもうワンランク上の次元に突入したことになる。


 ちなみに今年のマシンのシェイクダウン当初、3メーカーとも制御で苦労していた“ボッシュ問題”はほぼクリアしていると思われ、その点に関しての不満の声は聞くことはなかった。


 今回の各陣営のピットは、新鮮な顔ぶれが多かった。ステップアップしてきたルーキーや移籍、復帰など、何らかの変化があったコンビが9組。テスト前は各ドライバーの走りに期待が集まったが、天候に恵まれなかったのが残念なところ。

岡山公式テスト2日目の午前にクラッシュしてしまったWedsSport ADVAN GR Supra。翌日居残りテストを行う予定だったが、撤収を余儀なくされた


 初日は雨混じりで、2日目はドライ路面が多かったものの、底気温でタイヤがなかなか温まらず、ピットロードでは走り出しでハーフスピンするマシンもいたくらいである。メニューが押すため必然的にファーストドライバーの出番が多くなり、新人にとっては難しい状況と言えた。


 それでもそのセッションのベストタイムを新人が出している場合もあり(コンディションが不安定なので本当の意味でのベストとは言い難いが)、安定したドライ路面で本当の実力を見てみたいと思わせる面々が多い。


 このようにエンジニアなども含めた体制面で見れば、2020年はほとんどのチームで変化があった。それゆえ例年以上に開幕までとシーズン中での浮き沈みの幅が広くなることが予想される。昨年のカルソニックGT-Rの例でも分かるように、岡山公式テストの結果が、そのまま開幕戦をはじめその後の速さに結びつくとは限らない。


 開幕戦が延期されたことも、開発やセットアップの熟成に影響することだろう。いつか必ず行われる開幕戦は、今年は「開けてビックリ」な展開になってもおかしくない。静寂から一転し、賑やかなスタンドから、その戦いを見届けよう。



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