海外ライターF1コラム:“失われた世代”を生み出しているF1。才能があっても昇格できない若手ドライバーたちの現実

2024年4月2日(火)17時35分 AUTOSPORT web

 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、優秀な若手がF1昇格を成し遂げられないまま、チャンスがさらなる若手へと渡されつつある、今のドライバー状況に焦点を当てた。


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 F1はいま、次世代の優秀なドライバーたちのほとんどを失うリスクにさらされている。


 毎年、FIA F2やF3は、F1のチャンスを与えられるのにふさわしい強力な若手ドライバーを輩出している。しかし、今のF1には彼らが入るスペースが全くない。2024年のF1フィールドは、昨年と全く同じドライバーで構成されている。42歳のフェルナンド・アロンソや39歳のルイス・ハミルトンが走り続ける一方で、ルーキーがシートを得ることができなかった。


 大勢の才能ある若きドライバーたちが、F1で走る姿を見せることなくキャリアの転換を強いられつつある。ボトルネックが起きていることで、本来は今、F1にデビューしていたはずの世代はチャンスをつかめず、その次の世代のドライバーたちに追い越されてしまうことになりそうだ。


■フェラーリのシュワルツマンとベアマン


 追い越す立場の代表と考えられているのが、フェラーリのジュニアドライバーで18歳のオリバー・ベアマンだ。彼は今、F2での2シーズン目を戦いつつ、フェラーリのリザーブドライバーも務めている。サウジアラビアGPでレギュラードライバーのカルロス・サインツが急性虫垂炎のため欠場を強いられたために、ベアマンが代役を務め、輝かしいF1デビューを飾った。

2024年F1第2戦サウジアラビアGP オリバー・ベアマン(フェラーリ)


 サウジアラビアでの優れたパフォーマンスにより、ベアマンは、フェラーリのリザーブドライバーとしてトップの位置に立つことになった。数週間前にはそのポジションは、24歳のロバート・シュワルツマンのものだった。ロシア系イスラエル人のシュワルツマンは、2021年にF2でランキング2位を獲得。しかしF1レギュラーシートを得られず、現在はWEC世界耐久選手権ハイパーカークラスにAFコルセから出場している。

ロバート・シュワルツマン(フェラーリ リザーブドライバー)


■メルセデスのベスティとアントネッリ


 メルセデスのリザーブドライバーでデンマーク出身のフレデリック・ベスティは、チャンスが訪れた際にはベアマンのように自分の力を最大限に披露したいと考えている。


「レギュラードライバーのどちらかに何かが起こった場合、僕はすぐさまマシンに飛び乗る準備ができている必要がある」と22歳のベスティは言う。


「マシン、エンジニア、チームが僕に期待することについて、常に最新の情報を把握しておかなければならないんだ。100パーセント、準備を整えておく必要があるわけだ」


 彼は、2025年にF1でレギュラードライバーの座をつかむことが自分の目標であると断言している。

2023年F1第20戦メキシコシティGP フレデリック・ベスティ(メルセデス)


 しかし、彼を追い越す若手がメルセデスのジュニアドライバーの中から現れた。それは17歳のアンドレア・キミ・アントネッリだ。2025年にハミルトンの後任を務める候補として、ベスティの名前は挙げられていないが、メルセデスF1チーム代表トト・ウォルフを含む大勢の人々が、アントネッリの可能性について話題にしている。

2024年FIA F2第3戦メルボルン アンドレア・キミ・アントネッリ(プレマ・レーシング/メルセデス育成)


 ベスティは昨年のFIA F2選手権でランキング2位を獲得した後、今年はメルセデスF1でリザーブを務めるとともに、ELMSヨーロピアン・ル・マン・シリーズのLMP2で何戦かに出場することになっている。


■F2チャンピオンのドルゴヴィッチとプルシェールもF1に昇格できず


 2022年F2チャンピオンのフェリペ・ドルゴヴィッチは、アストンマーティンF1チームのリザーブドライバーとしての2年目を迎えた。チームオーナーのローレンス・ストロールが息子ランスをF1に残し続ける限りは、23歳のドルゴヴィッチがレギュラーに昇格するチャンスはなさそうだ。彼もベスティと同様に、今年ELMSに出場する予定だ。

2023年F1第23戦アブダビGP フェリペ・ドルゴヴィッチ(アストンマーティン)


 レッドブルは、長年にわたり、F1で最も野心的なジュニア育成プログラムを実施してきた。しかし今のF1にルーキーが入り込む余地がないため、最近、デニス・ハウガーを含む多くの若手ドライバーをプログラムから放出した。数年前までは、ハウガーは初のノルウェー人F1ドライバーになるのではないかと期待されていた。彼は今年F2での3年目を迎えており、F1で走ることを夢見ているが、レッドブルのサポートがない今は、難しいだろう。


 2023年F2チャンピオンのテオ・プルシェールは、数年にわたりザウバーのF1ジュニアプログラムのメンバーで、今年は全日本スーパーフォーミュラ選手権に出場している。一方で、ザウバー育成のゼイン・マローニは、今年F2で素晴らしい仕事をしており、彼の方がF1への昇格のチャンスは大きいかもしれない。


■「今のF1ドライバーに求められる最も重要な要素は経験」


 F2で素晴らしい成績を収めながら、F1へのチャンスを得られずにいる若手は多い。F2での勝利数を見ると、シュワルツマンは6勝、ベスティは7勝、ドルゴヴィッチは8勝、ハウガーは5勝、プルシェールは6勝を挙げている。本来ならF1シートをつかんでいてもおかしくない彼らは、そのチャンスが与えられず、まさに失われた世代と呼ぶべき存在になっている。


 なぜこれほどルーキーがF1に昇格するチャンスが少ないのかについて、オーストラリアGPでF1ドライバーとしての10周年を祝った31歳のケビン・マグヌッセンは、こう語った。


「今のF1ドライバーに必要とされる要素において一番大事なのは、おそらく経験なのだと思う」とマグヌッセン。


「F1で長くドライブしているドライバーほど、より多くのことを学習している。(10年のキャリアを持つ)僕でさえ、毎日新しいことを学んでいるぐらいなんだ」


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