【インタビュー】挑戦する集団へ。中村代表が描く東京ヴェルディの未来像

2023年5月15日(月)17時0分 サッカーキング

東京Vの代表取締役社長を務める中村考昭氏 [写真]=東京ヴェルディ

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 挑み続け、感動を超えろ。WE ARE TOKYO VERDY

 これは今年5月15日のJリーグ開幕30周年に合わせ、東京ヴェルディが発表した「東京ヴェルディスピリット」の一節だ。Jリーグ30年の歴史に思いを馳せるタイミングでありながら、栄光の過去を強調するような言葉は、このボディコピーには一切含まれていない。

「挑戦する、と本気で言える状況になってきた」と中村考昭代表取締役社長は言う。2020年12月、経営危機に直面していた東京ヴェルディの代表となってから約2年。「東京ヴェルディスピリット」に込められた中村代表の思いと、彼が目指すクラブ像について話を聞いた。

インタビュー・文=坂本 聡

我々の「挑戦」は、過去30年の挑戦とは違う
——まず「東京ヴェルディスピリット」というクラブスローガンについてお聞きします。ボディコピーを拝見すると「挑戦」「野心」といった力強い言葉が目を引きますが、なぜ今、改めてこうしたコンセプトを掲げようと判断されたのでしょうか?

中村 ヴェルディが改めて成長していくためには転換点が必要です。「挑戦する」と口で言うのは簡単ですが、ようやくクラブがそう言っても恥ずかしくない、本気でそう言える状況になってきたのが今だということです。

——中村さんは2020年12月、クラブの経営体制が一新されたタイミングで代表取締役社長に就任されました。この2年間で新しいことに挑む土台ができた、ということですか?

中村 まず、コロナ禍という難しい社会環境がありました。それをようやく人類として乗り越えられる状況になってきたことが大きいですよね。クラブもこの2年間、組織や環境を整えながら、さまざまな取り組みを進めてきました。その結果、現状を維持するためではなく、クラブがより大きく成長していくための変化が必要な時期に来ていると思いました。それがちょうど、Jリーグ30周年と重なったということですね。

——クラブの組織を整理するうえで、中村さんが重視してきたことは何でしょうか?

中村 組織というのは人が循環していますから、新しく入ってくる人たちがどういう考え方や方向性を持っているのか。そのチューニングを大切にしてきました。ヴェルディは歴史があるので、その名前や過去の栄光に魅力を感じてこの組織に所属したいという人もいます。一方で、「自分たちで歴史を作っていこう」「それを超えていこう」「よりチャレンジしていこう」と思っている人もいます。今の我々が取り組んでいるのは、まさに「作っていこう」「チャレンジしていこう」という考え方ですから、それに近い考えを持っている人たちが新しく入ってきてくれることによって、結果としてそういう組織になってきています。

——「東京ヴェルディスピリット」にある「過去の常識、慣例にとどまらず」だとか「過去のじぶんたちを超えろ」という一節は、ヴェルディらしいテーマだと思いました。Jリーグの30年のうち、最初の数年は「ヴェルディの時代」だったわけで、この栄光の過去とどう向き合うのか。その部分についてはかなり深く考えられたのではないですか?

中村 ヴェルディの30年の歴史にもいろいろなチャレンジがありました。Jリーグを代表する輝かしいクラブであり続けるためのチャレンジの時代もあった。難しい状況に向き合いながら、なんとかトップに戻らなければという時代もあった。それから、クラブが存続するために、今いる場所に踏みとどまるための努力、「頑張り」という意味でのチャレンジもあったと思います。しかし、完全に上向きのベクトルでチャレンジするというのは、ある意味で今が初めてだと思っています。我々が掲げている「挑戦」の意味は、過去30年の挑戦とは違っていて、上昇していくチャレンジです。誰もヴェルディの歴史で経験したことのない、新しいチャレンジを我々はしていきたい。そういうフェーズだと思っています。

過去のイメージではなく、未来に向けたアプローチを

——ヴェルディスピリットにある「過去の常識、慣例にとどまらず」という精神が、さまざまな意思決定の指針になるわけですね。

中村 ヴェルディは良くも悪くも過去のイメージが強いので、そこを理想とする懐古主義のような風潮があるんですね。でも、今のヴェルディはあえて過去の指針にはとらわれない判断やアプローチをしているので、いろいろな部分に変化が生まれていると思います。今シーズンのユニフォームを作成するときも、一番初めに出てきた案が「Jリーグ初年度のスイカ柄ユニフォームをオマージュしよう」という話だったんです。でも、それは過去に戻ることだから、あのグラデーションの柄に代わる、超えられるものを作ろうと言って、スイカ柄のオマージュを意図的にやめてもらいました。

——マッチデーの味の素スタジアムの雰囲気もかなり変わってきたように思います。

中村 そうですね。味スタのゲートというか、歩道橋を渡ってスタジアムに入ってくる感じから変えてきています。装飾やアトラクション、試合の演出も変えましたし、ファン・サポーターが作ってくれる空気感もこれまでと違うと思います。コアサポーターはすごく大切ですが、我々は20、30年前の当時のコアサポーターだけではなく、今のコアサポーターとも向き合わなければいけない。あるいはこれからコアサポーターになってくれる人たち。そういった人々に対しても我々の魅力が伝わるような演出にしたいので、スタジアムコンセプトもあえて分かりやすく「みんながたのしいスタジアム」と言っています。すでにヴェルディのコアサポーターになってくれている人だけにフォーカスするのであれば、たとえば「緑の“聖地”」のような言葉になると思いますが、我々は今のタイミングではあえて「みんながたのしいスタジアム」と言う。それは未来に向かって歩んでいるからです。

<東京ヴェルディの主なスタジアムアクティビティ>

●『Green Heart Room』
さまざまな障がいや病気を持つ方、その家族などがスタジアム観戦を楽しめるよう、「東京こどもホスピスプロジェクト」と連携して観戦ルームを設置し、希望者を招待。

●「Kroi」がミュージックアンバサダーに就任
5人組のミクスチャーバンド「Kroi」が2023シーズンのミュージックアンバサダーに就任。イベントのテーマ曲を提供するなど、音楽を通じて東京ヴェルディを盛り上げる。

●ビジターサポーター向け 試合前アップ見学
ホームゲーム開幕3試合で実施。各試合150名限定で参加者を募り、アウェイ側のサポーターが試合前のアップをピッチサイドで見学できるサービスを実施。

サッカークラブには“人”しかいない
——サッカーについても聞かせてください。今シーズンのヴェルディは15試合を終えて8勝2分け5敗、順位表では3位と好調を維持しています(2023年5月13日時点)。中村さんは現場に口出しはしないタイプと聞いていますが、城福浩監督に対して何かリクエストしていることはありますか?

中村 あります。具体的なチーム作りは江尻(篤彦)強化部長や城福監督、小倉(勉)ヘッドコーチに全権を任せていますが、彼らに私からお願いしているのは、とにかく「ぬるいサッカーをしてほしくない」と。90分間のどのシーンを切り出しても100パーセントやり切っている、そこに強さや魅力があるサッカーをしてほしいと言っています。実際、今のヴェルディは90分ピッチに立ち続けるためにペース配分をするような試合をしていません。前半で倒れてもいいから100パーセントでやり切る。その点については、城福さんにはすごく理想的なサッカーをしていただいています。細かい戦術は別として、そういうサッカーじゃないと魅力がないと思うんですよ。

——いわゆる“ヴェルディらしいサッカー”というイメージも改めて定義し直す必要があるのかもしれませんね。

中村 華麗なパスワーク、ショートパスを細かくつなぐという部分も“ヴェルディらしさ”だと思いますが、それはインテンシティやアグレッシブさがあったうえでの技術や戦術だと思います。私が思う「ヴェルディらしいサッカー」は固定概念にとらわれず、魅力的な強いサッカーができること。それこそがヴェルディらしいサッカーだと思っています。

——「ぬるいサッカーを見たくない」というのは同感なんですが、少し意外でした。中村さんはクールな理論派のイメージだったので……。中村さん自身は、スポーツとどう関わってこられたんですか?

中村 小学校のときはスポーツ少年団でサッカーをやっていました。中学・高校は水泳部で、大学生になってアメフトを始めました。大学ではスポーツを真剣にやりたかったんですが、私が通っていた一橋大学は、一定の高いレベルで戦える競技といえばボート部かアメフト部が第一候補となるような大学だったんですね。アメフト部は当時2部リーグで、「1部へ行くぜ!」みたいな気合の入った部活でした。結局、1部には行けませんでしたが、そのあと入社したリクルートにもアメフト部があったので、そのまま実業団で4年間やりました。

——シーガルズ(現オービックシーガルズ)に所属していたんですか。アメフトの名門チームでプレーしていたとは驚きました。

中村 アメフトはサッカーやバスケと違って大学から始める選手が多いので、結果として自分も実業団レベルのチームに所属することができました。クオリティは決して高いレベルではなく、ベンチにも入れない選手でしたが(笑)、所属していた4年間で2度「ライスボウル」で勝っているので、日本のトップに立ったチームを組織の一員としては経験しています。

——スポーツの本来の魅力というか、熱の部分には強いこだわりがあるんですね。

中村 ある意味、日本一になったスポーツチームや選手を、メディア越しではなく体感として知っている。一方で、サッカーでは半月板損傷、大学アメフトでは1部にも上がれない、シーガルズ時代もベンチに入れなかった。光と影の両方を知っているんですよ。だからこそ、ヴェルディにはものすごく思い入れが強いんです。

——最後にお聞きします。クラブの代表として2年間現場を見てきて、今の挑戦にどれくらい可能性を感じていらっしゃいますか?

中村 私はやれると思っています。我々はそういう組織、チームを作ろうとしている。改めて思いますが、我々サッカークラブには“人”しかいません。そこに特別な技術や特許、特殊な機械があるわけではなく、人が集まってサッカーチームができ、サッカーチームを組織として、事業として成長させていく人がいる。つまり、ある意味で“人”しかいないんです。“人”がすべてなんですよ。今のヴェルディは成長の可能性を求める人が集まり、成長するクラブでありたいと思っている。だから、必ずやり遂げられると思います。

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