チーム立ち上げから基盤を作った中村監督が退任 S広島R、来季はリーグ上位進出を

2024年5月27日(月)16時21分 サッカーキング

 サンフレッチェ広島レジーナは25日、WEリーグ最終節でセレッソ大阪ヤンマーレディースと対戦し、1−0で勝利。今シーズン限りで退任する中村伸監督のラストマッチを白星で飾った。

 新本拠地のエディオンピースウイング広島で最高の歓声を巻き起こした。今シーズンの最終戦に集まった観客はS広島R歴代最多の6305人。多くのホームサポーターが見守る中、歓喜の瞬間は77分に訪れた。相手のロングボールをDF市瀬千里が頭で弾き返し、MF柳瀬楓菜の落としをMF小川愛がダイレクトで縦につなぐ。それをFW髙橋美夕紀が大胆に逆サイドへ展開し、右サイドのFW李誠雅が持ち上がってゴール前にクロスを送った。

「いい形で右サイドにボールがいって、ソンアがいいタイミングで(クロスを)上げてくれた。『ここに来る』とわかっていたし、それを信じていた」。そう振り返るMF上野真実がゴール前に飛び出し、滑り込みながら「当てるだけの感覚だった」と左足で合わせた技ありのシュートでゴールネットを揺らした。

 チャンスを決め切れない時間が続いていたが、エースの上野が最後まで得点への執念を燃やしていた。「決めたい気持ちがあって空回りする部分もあったけど、最後は『仲間を信じて絶対にゴールにつなげる』という思いでプレーしたので、それが結果につながった」と胸を張った。

 先制点が決まった瞬間、スタジアムに大歓声が沸き起こった。上野はアシストした李に駆け寄って抱きつく。「クロスのおかげで点が取れたのでソンアに向かって走りました」と笑顔のエースに、ピッチからもベンチからも続々とチームメイトが集まり、熱い声援を送っていたホームサポーターの前で喜びを分かち合った。

 そんな光景をGK藤田七海はピッチの“特等席”で見ていた。チームの得点後も自陣に残っていたが、正面には紫に染まるスタンドと喜び合う仲間たち。視界に歓喜の輪が広がっていた。

「あれは自分しか見られない光景ですね。本当は自分も行きたいけど、みんながよろこぶ姿と、ベンチから飛び出してくる選手やスタッフとサポーターの盛り上がりは見ていてすごくうれしかった。あの光景を何回も見られるように頑張りたいです」

 S広島Rが始動した2021年3月はコロナ禍の真っ只中。声出し応援は禁止され、ファンとの交流も限られた中でのスタートだった。ホームでなかなか勝てず、何よりも欲しいホーム初白星をつかむのにも苦労した。そんなゼロからスタートしたチームで中村監督は選手たちが成長できる土台を作り、「積み上げ」を強調しながらチームを築き上げ、3年目でWEリーグカップ優勝という初タイトルをもたらした。

 今季から広島の8番を背負う小川は、「誰よりも熱くて、いいときも悪いときも『これも経験だ』と声かけてくれて、どんなときも選手が成長するのを信じて接してくださった。ゼロからのスタートでここまでレジーナの土台を築き上げてくださって感謝しています」と指揮官への思いを口にした。

 3年間でS広島Rは着実に成長してきた。チーム立ち上げ時にセレクションから加入した藤田は、3月に負傷離脱した守護神のGK木稲瑠那に代わって今季途中からゴールを守った。それまでの出場経験は昨季1試合のみだったが、「昨シーズンよりは自分もできることが増えている自信があったので、緊張はしたけど、しっかり臨めた」と成長を見せつつ、今季は10試合に出場。好セーブを連発したホームでのINAC神戸レオネッサ戦を含む5試合の無失点勝利に貢献した。

 藤田は、「ディフェンスラインが体を張ってくれて、自分のところまでシュートが飛んでくることの方が少なかった。みんなが前で守ってくれてすごく心強いなと感じていました」と真っ先にDF陣を称えつつ、自身のパフォーマンスを振り返った。

「INAC戦でセービングしたところは自信になったし、クロスの対応とか自分の中でチャレンジできることが増えてきたので、そこは収穫でした。でも、一対一で止めなきゃいけないところもあったので、そういうシーンで止められるGKになりたい。悔しさや喜びを経験できたシーズンでした」

 S広島Rは最終節で引いて守る相手に攻勢を仕掛けながら得点できない時間が続いた。そうなると、逆に相手に少ないチャンスを決められて負けるケースも多かったが、この試合ではエースの上野が決め切り、相手に押し込まれる時間帯も粘り強く守り切って、無失点勝利を収めた。

 今季得点ランク2位の11ゴールを記録した上野は、「(中村監督から)『最後はお前が決めないといけない』とよく言われていたので、そこの意識は本当に強くなったし、成長できた部分だと思う」と明かし、「シンさんから得点を求められていて、しっかり結果で返したい思いもあったので、勝利につながってよかった」と最後に恩返し弾を決めた。

 S広島Rでのラストマッチを終えた中村監督は最後の試合後会見に臨み、「今日は6000人以上の方々が、いつも以上に私たちとともに闘って背中を押してくれて、本当に心強かったです」と、いつもと変わらずサポーターへの感謝から口にした。

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「その応援のおかげで、我々が積み上げてきた武器を示し、全てを出し切ってくれた試合につながったと思います。選手たちも自分たちに矢印を向けてしっかり表現し続けてくれた最高のゲームでした」と続け、「チャンスをなかなか決めきれず、難しい展開になることなく、自分たちの狙いで勝ち切る試合ができたのは、彼女たちの成長だと思います」と選手たちを称えた。

 6000人以上が見守った今シーズン最終戦で勝利し、指揮官の有終の美を飾った。藤田は、「最後は笑って伸さんを送り出すために、自分たちも次のステップに行くために、勝てて本当によかった」と笑みをこぼした。これまでは試合後に選手たちの悔しい表情が多かったが、より笑顔が似合うチームになってきた。

 ただ、今季リーグ戦は2年連続の5位で終了。来季はより上を目指して、結果でチームにも観客にも笑顔を増やしたい。小川は、「ここまでたくさんの方に応援していただいている中でプレーできるのは本当に幸せなこと。もっとたくさんの方にレジーナの魅力を知ってもらって、また足を運んでもらえるように頑張りたいです」と話した。

取材・文=湊昂大

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