OHLINS Roadster NATSの復活劇。全損マシン修復とレース舞台裏に山野哲也「この達成感は二度とない」

2023年6月11日(日)14時23分 AUTOSPORT web

 2023年も盛況のうちに終わったENEOS スーパー耐久シリーズ第2戦『NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース』。各クラスでさまざまなバトルが繰り広げられたが、ST-5クラスでは開幕戦の鈴鹿で大クラッシュを喫した72号車OHLINS Roadster NATSが見事な復活劇を果たし、怪我の療養に専念していた山野哲也も、2カ月ぶりとなるレースでクラス2位獲得に大きく貢献した。


■休日返上でマシンはイチから組み立て


 鈴鹿での大クラッシュにより、マシンは全損の状態だった72号車。そのため、イチからマシンの製作することになったのだが、車体のメインフレームをはじめ、各パーツを調達するのには時間を要した。


「富士でスーパー耐久合同テスト(4月28日)があったタイミングでボディのロールケージができたので、それを受け取りにいき、そこからクルマを作っていきました。4月末から作業を始めたので、作業としては実質3週間でした」


 そう語るのは、NATS(日本自動車大学校)のモータースポーツ科長を務め、自らも72号車のドライバーとしてチームに携わる金井亮忠。この時期は、翌年の入学を検討している高校生向けのオープンキャンパスも開催されていたとのこと。「週末になると、高校生向けのオープンキャンパスがあったんですけど(製作中の72号車を見て)『これ、本当に走るんですか?』という状態でした」と話すほどの状態だったという。


 72号車に携わる学生メンバーは、卒業や進級などの関係で3月から4月のタイミングでメンバーが入れ替わる。つまり、開幕戦の鈴鹿にいた学生メンバーと、今回の富士24時間でチームに携わっている顔ぶれは異なっているのだ。新メンバーになり、いきなりマシンの製作からスタートするという状況だったが、全員が力を合わせ、短期間でマシンの組み立て、パーツ製作、塗装など、さまざまな作業をこなしていった。


 金井によると、一番のネックは時間との闘いだったようで、いかに効率よく作業を進めていくかが鍵だった模様。「今回は、組み立てとモノづくりと塗装を全部を同時進行で行い、学生たちにも細かく指示を出したりました。どうにか間に合いました」と当時の様子を振り返った。何としても富士24時間に間に合わせるため、休日返上で組み立てに没頭していたという。マシンが完成したのはレース本番を1週間後に控え、まさに富士スピードウェイへ出発する前日だったという。


「(富士24時間に向け)荷物を積みながらクルマの最終仕上げをして、月曜日の夜に校内のコースで少し走らせた後に積み込みをして、火曜日に富士スピードウェイで初走行となりました」と金井。大会前の火曜日に富士スピードウェイでシェイクダウンを行い、レースウイークに入っていったが、週末を通して大きなトラブルに見舞われなかったことが、クラス2位獲得への原動力になったと語る。


「本当に大きなトラブルもなく、セットアップに時間を費やせたことも大きかったです。トラブルが出るとモチベーションにも影響が出ますし、流れが変わってしまいます。そういった意味でも、レースで勝つためのことをサーキットでできたことが大きかったです」

2023スーパー耐久第2戦富士 OHLINS Roadster NATS


■チームや学生の想いを胸に、病み上がりながら激走を披露した山野哲也


 短期間でマシンを製作したチームスタッフやNATSの学生たちの想いをのせて、24時間レースに臨んだ72号車。Aドライバーハンデの消化もあり、序盤は後方でレースを進めたが、開始5時間のところでセーフティカーが出たのをみて、いち早くメンテナンスタイムを終わらせるという戦略に出た。その分、レース終盤でのブレーキ消耗など心配な部分も当然あったのだが、各ドライバーがマシンを労わりながら走行し、日曜日の朝の段階で2番手に浮上。しかし、後方には65号車odula TONE 制動屋ロードスターが僅差で迫っている状態だった。


 一時は65号車の先行を許した72号車は、ゴールまで残り2時間のところで山野に交代。ここからサーキット中が注目するような抜きつ抜かれつのバトルが展開された。


「2台とも、あと1スプラッシュしなければいけなという状況のなか、バトルをすることになってしまいました。24時間レースの残り30分で、同一周回でバトルをするというのはなかなかないことです」と山野。第1戦の鈴鹿でも白熱したトップ争いのなかで接触とクラッシュが起きてしまったのだが、今回に関しては接近戦を繰り広げても大丈夫という自信があったという。


「ちょうどメインストレートで並んだときに、お互いの顔を見合わせたのですが、65号車に乗っていた太田達也がヘルメットのなかで笑っているのが見えました。それを見て『彼は冷静だ』というのが分かったし、バトルを楽しんでくれるだろうと思いました」

2023スーパー耐久第2戦富士 OHLINS Roadster NATS


 そんななかで両車が最後のピットストップを迎えることになったのだが、ここでもタイミングが同じになってしまった。


「どちらかがスプラッシュのために先にピットに入ることになると思っていましたが、僕たちとしては先方(65号車)の動きを待って、彼らがピットに入ったら、次の周回に入ろうとしていました。その方が(2番手を守るのが)確実だなと思いました。しかし、こちらのタイヤがだんだんキツくなってきていて、バトルをすると余計にタイヤが辛くなってしまっていたので、タイヤ交換をしたいとリクエストしていました。それでスプラッシュ後の30分をダッシュすることにしました」と、ピットイン時の状況を振り返る山野。


 ちょうどバトルをしている最中にピットインすることになり、ピット入り口に向かう際にラインが交錯してしまう恐れがあったため、窓から手を出して、自車がピットインするという意思表示を行ったという山野。65号車も同じタイミングでピットインとなったものの、72号車が先にピットアウトした。「アウトラップは必死に逃げました。2周目以降は、冷えたタイヤのメリットを活かせると思ったので、とにかくプッシュしていきました」と語った。


 こうして、鈴鹿での大クラッシュから復活を遂げただけではなく、ST-5クラス2位を獲得した72号車。チームが今季一番の目標と掲げていた富士24時間でのクラス優勝には届かなかったが、レースを終えた72号車のピットはこれ以上ない満足感に満ち溢れていた。


 自身にとっても、サーキットでのレース競技という点では復帰戦となった山野も満足した表情を見せ「本当に良かったです。結果は2位ですが、優勝したような気分です。この達成感は二度とないかもしれないというくらい、気持ちいい瞬間でした」とコメント。「2カ月前、僕たちにとっては悲劇だったところから、クルマ、ドライバー、スタッフ全員が富士24時間に揃うことができたということが奇跡だったと思います。そこから始まって、このリザルトなので……感無量ですし、『よく復活したな』と安堵の気持ちです」と、チーム全員の頑張りを讃えていた。


 この2位獲得によりST-5ランキング2位となった72号車。開幕戦のクラッシュから復活を果たせたことが大きな起爆剤になっている様子が伺え、第3戦以降の快進撃からも目が離せない。

2023スーパー耐久第2戦富士 南澤拓実/野島俊哉/石井達也/金井亮忠/岡原達也/山野哲也(OHLINS Roadster NATS)
2023スーパー耐久第2戦富士 山野哲也(OHLINS Roadster NATS)

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