出会った瞬間に恋に落ちる? 激戦区の輸入コンパクトSUV界で抜群の可愛らしさを発揮/フィアット500X実践試乗レポート

2020年7月10日(金)19時32分 AUTOSPORT web

 話題の新車や最新技術を体験&試乗する『オートスポーツWEB的、実践インプレッション』企画。お届けするのは、クルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。


 第8回は、“チンクエチェント”の愛称で日本でもファンの多いフィアット500シリーズから、5ドアクロスオーバーSUVの『フィアット500X』を取り上げます。


 フィアット500Xは2015年秋に初めて日本へ導入され、2019年4月にはマイナーチェンジを実施。エクステリアの意匠変更と、新世代エンジンを搭載するなど、大きく進化しています。出会った瞬間に恋に落ちてしまいそうな、独特の魅力を持つ500Xの全貌に迫ります。


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 フィアットの日本向けウェブサイトを見ると、現在販売中の4車種のうち3車種が『500』を名乗っている。その3車種とは、3ドアハッチバックである素の『500』、そのオープン版の『500C』、そして今回取り上げる5ドアクロスオーバーSUVの『500X』である。


 残る1車種はパンダで、いま正規輸入されている非500のフィアットはパンダだけなのだ。


 フィアットのこうした“500依存?”の状態は、日本だけの話ではない。イタリア本国のウェブサイトでも、今やフィアットの乗用車ラインアップ7車種のうち5車種の車名に『500』が付くのだ。


 具体的には、前記3車種に加えて、5ドアワゴンの『500L』、そして2021年発売予定の電気自動車『500e』という5車種。ちなみに、あとの2車種はパンダと日本未発売のティーポで、日本のマツダが供給していた124スパイダーはすでに販売を終了した。

フィアット500X Cross


 このなかで、新しい500eは完全な電気自動車専用設計であることが大きな特徴だ。その500eが発売されても、エンジンを搭載する従来型500はマイルドハイブリッド化などの改良も加えられつつ「需要があるかぎりは」併売されるのだという。


 そして、日本未導入の500Lの骨格設計は旧グランデプント由来プラットフォームで素の500とは異なり、500Xのそれとも違う。


 つまり、同じように『フィアット500〜』を名乗っていても、素の500/500C、500X、500L、そして新型500e……と、それぞれの骨格設計は別物といってよく、基本ハードウェアは4パターンにのぼるわけだ。『フィアット500』とはもはや、特定のクルマの車名というよりブランド名と化している。


 そんななかでも、500Xはもっとも立派なボディサイズをもち、よって実用性や居住性がもっとも高いフィアット500ということになる。


 500Xは同じグループ内のジープ・レネゲードと同時開発された兄弟車であり、基本構造や主要メカニズムを共用する。その世界デビューは2014年秋で、現在販売されているのは2019年春に発売されたマイナーチェンジモデルだ。

フィアット500X Cross
フィアット500X Cross


■ワインディングで本領発揮!好事家を唸らせる500Xの走り


 2019年春のマイナーチェンジでは内外装のアップデートも実施されている。外観も主要大物部品の変更はごくわずかなのだが、灯火類がことごとくLED化されたことで、いかにも今っぽい雰囲気になった。


 また、内装の樹脂シボも以前よりツヤが落ち着いた素材になったようで、わずかながらも高級感を増した。


 ただ、マイナーチェンジの主眼はエンジンだ。日本でも販売されるガソリンが“ファイアフライ”という愛称の新世代エンジンに切り替えられたのだ。


 日本未導入のディーゼルも最新世代の“マルチジェット”に集約された。同時に4WDが選べなくなったが、これは日本仕様にかぎったことではなく、今は欧州でもFFのみだ(兄弟車のレネゲードには今も4WDがある)。

1.3リッター直列4気筒“ファイアーフライ”ターボエンジンを搭載。従来の1.4リッターターボエンジンに比べて燃費も向上


 新世代ファイアフライエンジンは、吸気バルブのリフト量と開閉タイミングを自在にコントロール(してスロットルを制御)する自慢の独自メカニズムの最新版“マルチエア3”を使う。


 そのうえで、0.33リッターのシリンダーレシオをモジュール化した設計となっており、3気筒(1リッター)ターボと4気筒(1.3リッター強)ターボを使い分ける。日本仕様の500Xは4気筒のみなのだが、欧州では3気筒の500Xもある。


 この4気筒ファイアフライは従来より排気量は縮小(マイナーチェンジ前のマルチエアは1.4リッターターボ)したが、ピーク性能は逆に向上しており、絶対的な動力性能に不足はない。それに組み合わせられる6速ツインクラッチ変速機も、それ単体の作動感は以前より滑らかになった感はある。


 ただ、最新の過給エンジンとしては低速トルクが意外に薄く、ある回転数からグイっとトルクが立ち上がる印象で、低速で加減速を繰り返すような都市部の走りでは、少しばかりたどたどしいのは否めない。


 こういうエンジン特性には柔軟性のあるトルクコンバーターATのほうがマッチングがいいケースが多く、ツインクラッチ特有のキレの良さが逆効果だったりもするのだ。

インパネはスイッチ類も少なくスッキリした印象。ボディ同色のインストゥルメントパネルがアクセントに
500X Crossはレザーシートを標準採用。運転席は8ウェイパワーシートを装備


 こうした走るシーンを選びたがるクセはシャシー方面にも少しある。市街地をゆっくりとしたスピードで這いずるような場面では、500Xの乗り心地はけっこう明確に硬い。


 フロアを中心としたボディ剛性感は印象的なほど高いので、好事家のみなさんなら不快感は抱かないと思う。数あるなかでももっとも立派で大人っぽく、家族づかいも想定したフィアット500……という位置づけを考えると、もう少し快適であってほしいとは思う。


 そのかわり、ワインデングモードに乗り入れて、シフトレバーをマニュアルモードにしてエンジンを積極的に高回転まで引っ張り、ブレーキやステアリングを積極的に操るような走り方をすると、パワートレインやシャシーに明確に血が通い出すような感覚があるのが面白い。


 そうやって、クルマにカツを入れるような運転を心がけると、500Xの嬉々として回るエンジンはなんとも心地よく、それを引き出すツインクラッチのキレ味もありがたい。そして、スピードが増すほど乗り心地が良くフットワークも活きるというものだ。

丸いヘッドレストが特徴的なリヤシート。大人が座っても十分な広さが確保されている
500X Crossのラゲッジスペース(通常時)
500X Crossのラゲッジスペース(最大時)


■フィアット500X CROSS諸元
































































車体
全長×全幅×全高4280mm×1795mm×1610mm
ホイールベース2570mm
車両重量1440kg
乗車定員5名
駆動方式FF
トランスミッション6速DCT
タイヤサイズ 215/55R17
エンジン種類直列4気筒インタークーラー付ターボ
総排気量1331cc
最高出力111kW(151ps)/5500rpm
最大トルク270Nm(27.5kgm)/1850rpm
使用燃料/タンク容量プレミアムガソリン/48L
車両本体価格341万円


■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano


1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず?見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り。


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