【コラム】アッズリーニから始まるイタリアの逆襲…注目は“ピルロ2世”

2018年8月4日(土)17時47分 サッカーキング

ピルロ2世として注目を集めるサンドロ・トナーリ [写真]=Getty Images

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 イタリアの逆襲が始まった。A代表が2018 FIFAワールドカップ ロシアのプレーオフで敗れて1958年大会以来の予選敗退を喫し、欧州強豪国の凋落は多くのファンを失望させた。しかし、その弟分であるアッズリーニが今、著しい成果をあげている。

 昨春に行われたU−20ワールドカップで3位、今年5月のU−17欧州選手権ではオランダにPK戦の末に敗れたものの準優勝。そして今回、7月にフィンランドで開催されたU−19欧州選手権で準優勝を果たし、来年5月に開幕するU−20ワールドカップの出場権を手にした。ポルトガルとの決勝では延長戦に突入した末に3−4とあと一歩及ばず、2003年以来、通算4度目の優勝は叶わなかった。だが、内容は悲観するものではなく、希望の持てる敗戦だった。

 この大会で主役の一人となったのが、ユヴェントスのモイーズ・キーン。コートジボワール人の両親を持つイタリア生まれの18歳だ。グループステージのノルウェー戦でU−19代表の一員として初ゴールをあげると、2−0と勝利した準決勝のフランス戦で1得点。決勝戦では途中出場で流れを変え、0−2の75分から1分間の間に立て続けに2ゴールを奪うハイパフォーマンスを見せた。しなやかなバネを生かした高速ドリブルをストロングポイントとし、センターフォワード、サイドアタッカーと複数の攻撃的ポジションをこなす。そのテクニックの高さはマリオ・バロッテッリをも凌駕するものだ。

 キーンは2016年11月のペスカーラ戦で、16歳と8カ月でセリエAデビュー。2017−18シーズンはヴェローナにレンタル移籍し、リーグ戦で19試合出場4ゴールの実績を残した。市場価値はすでに2000万ユーロ(約26億円)に達するとも言われている。ユヴェントスは売却にも応じる構えだが、それは買い戻しオプションが受け入れられた場合に限られるようだ。もっとも本人に退団の意志はない。それはクリスティアーノ・ロナウドの加入が大きく影響を与えているからにほかならない。

「誰が、C・ロナウドがいるユーヴェに残留したくないと言うんだ? 本当に興奮している」とバロンドーラーの入団に心を弾ませている。再びヴェローナのような中堅クラブに移籍して出場機会を得ることも大きな成長の糧となるだろう。しかし、世紀のスーパースターとトレーニングを重ねることもかけがえのない経験になることは間違いない。この夏は極めて困難な選択を迫られることになるはずだ。

 そして、U−19イタリア代表の中でもう一人、記憶に留めておかなければならない選手がいる。ブレシアに所属するサンドロ・トナーリだ。この18歳のトラップ一つを目にするだけで、そのプロトタイプとなる選手を一瞬にして思い描くことができるだろう。 その選手は希代のレジスタ、アンドレア・ピルロである。キックに入るモーションだけでなく、風貌や髪をかきあげる仕草、どれをとっても酷似している。ピルロがキャリアをスタートさせたブレシアでプレーしていることも“ピルロ2世”と評価されることを手伝っているのかもしれないが、まるでピルロが現役復帰したかのような錯覚を起こしてしまうほどだ。DFとGKの間に放つフィードや針の穴に糸を通すようなラストパスはどれも一級品。もはやその数は減少し、死語になってしまった感もある“ファンタジスタ”の資質を十分に備えている逸材である。ユヴェントスやローマが関心を高めていると噂されており、後者は1000万ユーロ(約13億円)のオファーを準備しているとも。まだ18歳とトップクラブでプレーするには時期尚早な感も否めないが、フィジカル重視のセリエBで18試合に出場し2得点を挙げたことを考えれば、決して早いものではないだろう。

 ダイヤの原石は2人だけではない。アタランタのクリスティアン・カポーネとダヴィデ・ベッテッラ、サッスオーロのエンリコ・ブリニョーラ、ローマのニコロー・ザニオーロ、そしてミランのアレッサンドロ・プリッツァーリと将来性豊かな選手は少なくない。

 イタリアに“タレント候補生”が多く出現してきたのは偶然の産物ではなく、育成世代の強化プランを実行してきたゆえの努力の賜物だ。イタリアサッカー連盟のユース世代のコーディネーターであるマウリツィオ・ヴィッシディはアンダー世代の躍進の理由をこう語っている。

「育成資金を増額し、試合数を増やしてスタッフの数も増員させた。また、2年おきに強化プランを練り上げ、トップから若年層の世代まで同じ考えを共有している」

 今度は、地獄を目にしたA代表が捲土重来を期す時だ。9月からはUEFAネーションズリーグが開幕し、イタリアはポーランド、そしてC・ロナウドを擁するポルトガルと対戦する。いずれもFIFAランキングでイタリアを上回る相手ではあるが、弟分たちが好成績を出している今、A代表も期待に応えなければならない。

文=佐藤徳和
1998年にローマに語学留学し、同市内のアマチュアクラブ、ロムーレアの練習に参加。カルチョだけでなく全てのアッズーリをこよなく愛し、日伊協会会報誌『CRONACA』では、イタリアに特化したスポーツ記事を連載中。2017年11月『使えるイタリア語単語3700(ベレ出版)』を共同執筆。イタリア語検定協会事務局員。

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