アートの題材となった死体写真…アラーキーからマニアしか知らない写真家まで! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

2022年12月31日(土)17時0分 tocana

——【連載】驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する想像を超えたコレクションを徹底紹介!


「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。


 SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。


 本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。


人気なので、もっと死体写真を紹介します

——この連載は月イチの更新ということもあり、前回の取材(夏前)からだいぶ時間が経ってしまいました。最近のお店は、どんな状況でしょうか?


藤井慎二(以下、藤井):毎年8〜9月は夏休み中の学生さんで混雑するのですが、今年はコロナの影響で、例年に比べると8月は全然お客さんが来ませんでした。ただ、9月に入ると、卒業旅行などで立ち寄る学生さんが増え始め、月の後半は忙しかったです。10月以降も3連休などは混みましたね。


——10月からは「全国旅行支援」も始まりました。それの影響も、かなりあったのではないでしょうか?


藤井:「Go To トラベル」のときは本当にたくさんのお客さんがいらっしゃったのですが、最近の駅前の現状を見ると、ご年配の観光客が多いですね。うちは若いお客さんが主な客層のため、今回はそこまでの影響はないでしょう。とはいえ、別府は冬場も観光客が多いので、期待したいところです。


——年の瀬で、来年は旅行を考えている人も多いでしょうから、実際にゲンシシャに訪れると見ることのできるコレクションを紹介してもらいましょう。今回も、TOCANA読者に人気の「死体写真」というテーマから伺えればと思います。


藤井:死体写真は現代の倫理観では不謹慎といわれますが、死に対する考え方として議論を巻き起こす題材だからこそ、芸術写真としてご遺体を撮るということがよくあります。その代表例には、アラーキー(荒木経惟)の写真集『センチメンタルな旅・冬の旅』(新潮社)があります。棺に納められた妻・陽子さんのご遺体の写真は、現代の死後写真ともいえるのではないでしょうか。


——若い世代の中には「アラーキー」という愛称は知っていても、彼の作品を知らない人は多いかもしれません。


藤井:アラーキーは「生と死」を主題にした写真を数多く撮ってきました。今回のテーマとは少し異なるかもしれませんが、『食事』(マガジンハウス)という、同じく妻・陽子さんが亡くなるまでつくった手料理をアラーキーが撮った記録写真集も興味深い。同書は写真集好きの間では有名な一冊であり、うちにはニューヨークの出版社が全ページ複写して刊行した英語版『The Banquet』があります。


——アラーキーは世界的にも評価されているんですね。しかし、生前の妻との思い出を収録した写真集の1ページとして見ると、お棺の写真も受け入れられやすい気もします。


藤井:アラーキーの愛猫をみとるまでの記録『チロ愛死』(河出書房新社)も、生と死というテーマを直接扱った写真集です。セクシーな女性モデルのヌード写真と、死にゆく猫の写真を、見開きで対比させるように載せています。


死体写真マニアの間で知られる、ルドルフ・シェーファー

藤井:今回たくさん紹介したい本があるので、どんどんいきますね……。


——本当に山のように死体写真集を収集していますね(笑)。


藤井:旧・東ドイツの写真家である、ルドルフ・シェーファーを紹介しましょう。彼の写真集は東西ドイツ統一前に出されたため、日本ではほぼ紹介されてきませんでしたが、非常に美しい死体写真を撮っています。僕は『美麗死体写真集 Lilly』という大量の死体写真と死後写真を収録したCD-ROM写真集で、彼の存在を知りました。


——CD-ROM写真集とはなかなか聞き慣れないワードですが、この写真集を監修したのは鬼畜カルチャーで有名なビニ本雑誌『Jam』や『HEAVEN』の初代編集長・高杉弾なんですね。同作には写真家のジョエ


ル・ピーター・ウィトキンの作品も収録されている一方で、「華麗なQuickTimeムービーも収録」されているそうです。何の映像なんでしょうか……。


藤井:定価8800円と高価ですが、なかなか興味深いディスクです。ルドルフ・シェーファーによる死体写真集『Der Ewige Schlaf/ visages de morts』には、とても美しい死体写真が収められていますよ。ちなみに、『THE DEAD』というイギリス国立科学メディア博物館で開催された展覧会のカタログがうちにはあるのですが、そこにはシェーファーやアラーキーの作品も含め、死に関する写真が多く載っています。紹介されているアーティストの写真集を買い集めるだけで、それなりの数になりますね。


——日本のギャラリーだと、なかなか開催するのに敷居が高そうなコンセプトですね。ところで、遺体を撮影する行為というのは、海外でも今はタブー視されているのでしょうか?


藤井:抗議の声もあるかもしれません。ただ、展覧会を開催できるぐらいには寛容なのでしょうね。


SNSは裸体よりも死体の検閲が緩い?

藤井:アンドレス・セラーノによる死体写真集『The Morgue』も取り上げましょう。彼は不謹慎なアート作品でたびたび物議を醸す現代アーティストです。十字架に磔けられたキリスト像を自分の尿の中に沈めるアート作品《Piss Christ》は、ファッションブランド・シュプリームのデザインにも採用されました。


——きれいなキリスト像だなと思っていたのですが、アレおしっこだったんですか!?


藤井:ジェフリー・シルバーソーンの死体写真集『MORGUE』もとても美しく、SNSでよく見かける死体写真もあります。SNSは裸体よりも、死体のほうが検閲緩いみたいですね。


——肌の露出量とかで判断しているAIだと、生きている人間と死体の区別はつかないのかもしれませんね。


藤井:とはいえ、ネットでは見られない写真も、写真集にはたくさん収められています。蛇足かもしれませんが、美しい「死体写真っぽいもの」として、伊島薫の『死体のある20の風景』(光琳社出版)を紹介しておきましょう。小泉今日子さん、篠原涼子さん、松雪泰子さんといった有名女優が、ヴィヴィアン・ウェストウッドなどハイブランドの服を着て、死体のフリをするという写真集です。


——へぇ。世紀末だからなのか、こんなトガった写真集が刊行されたんですね。


藤井:この写真集は発売当時から幅広い人気があり、続編として『最後に見た風景』(美術出版社)が刊行されました。海外でも『Landscapes with a Corpse』という題名で出版されました。メラニー・プーレンというアメリカの写真家は『High Fashion Crime Scenes』というシリーズで、ハイファッションを身にまとった女優やモデルを被写体に同様のコンセプトで写真を撮っています。


——それぞれ、グーグルやインスタグラムで名前を検索してみましたが、想像以上に似通ったシチュエーションですね。というか、もろに影響下にあるといってもいいでしょう。


藤井:最後にポーランドの写真家である、スワヴォミル・ルミャックの写真集『The Love Book:The best of My Dreams』も紹介しましょう。実際の死体写真ではなく、粘土でつくられた人体に人造皮膚をはりつけ、そこに有刺鉄線を巻きつけたり、表面を切り裂くなどして、モデルの皮膚とモンタージュした作品などが収められています。日本でも非常に人気が高く、以前、来日して個展を開催したことがあります。飯沢耕太郎の『危ない写真集246』(ステュディオ・パラボリカ)でも特集されています。ちなみに、彼の作品は雑誌「BURST」(コアマガジン)の表紙にもなりました。


——まぶたに思いっきりかみそりが刺さっています。これ、今だと書店の雑誌コーナーには並べられないのではないでしょうか……。それにしても、死体写真というのは今もアーティストたちを感化するテーマのひとつになっているのですね。


藤井:やはり、死体に惹かれる人は今も昔もいますし、葬儀の際の慣習・風習としての死後写真が途絶えた今、芸術写真として死体写真を撮影して、需要に応えている面はあるのではないかと思います。ところで、今回もギリギリな表現のものを紹介してきましたが、TOCANAはどの本なら写真を載せられますかね?


——SNSで出回っている写真もあるみたいなので、とりあえず写真集の書影であれば載せられると思いますよ。ちなみに、藤井さんはこういった写真集の情報を、どのようなところから入手するのでしょうか?


藤井:本ですと、先程挙げた『危ない写真集246』、伴田良輔『奇妙な本棚』(芸文社)、屋根裏『世界のサブカルチャー』(翔泳社)、どどいつ文庫『世界珍本読本〜キテレツ洋書ブックガイド〜』(社会評論社)に、こうした写真集が紹介されています。また、「BURST」の死体特集号には、多くの死体写真集が掲載されています。あと実は、死体写真は写真共有サービスの「Pinterest」にも結構あるんですよ。


——同社のCMに出ている藤田ニコルも、まさかそんなギリギリの画像までもがPinterestにあるとは思っていないでしょうね(笑)。とはいえ、後学のために自分も会員登録しますか……。



書肆ゲンシシャ
大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

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