わくわくするローカルプロジェクトのつくり方。 ー 事例3選 ー

2024年2月8日(木)7時0分 ソトコト


プロジェクトの発案や立ち上げ方、継続の仕方、プロジェクトを主導していく際に知りたいことなどを、各地で注目のプロジェクトを手がけている三人に伺いました。「デザイン」「地域課題」「マーケット」の視点から、ローカルプロジェクトのつくり方を学んでいきましょう。


INTERVIEW#1:吉野敏充さん
Uターンして実践する、地域になじむプロジェクト。



よしの・としみつ●1979年山形県生まれ。『吉野敏充デザイン事務所』代表、クリエイティブディレクター。地域情報誌『季刊にゃー』編集長、『山から福がおりてくる』ディレクターなど、ローカルプロジェクトを多数手がける。

人との縁や流れのなかで、民藝のプロジェクトに携わる。


『吉野敏充デザイン事務所』では、山形県をはじめとした東北の民藝品や工芸品のデザインをしたり、プロジェクトを行ったりする仕事も多いのですが、特別に注力しようと取り組んできたわけではなく、人との縁や流れのなかで仕事が広がり、今に至っている感じです。


その始まりは東京でした。東京でデザインの仕事をしていた頃、渋谷区表参道のビルで「継がなくてごめんなさい」という貼り紙をしたイベントが開かれていました。聞けば、「倅」というプロジェクトで、農業を継がずに都会で働いていることを申し訳なく思う倅たちが、せめて実家の野菜を販売して役に立とうという思いで開かれたマルシェでした。僕も山形県新庄市の農家の倅だったので心を動かされ、翌週から親に送ってもらった野菜を一緒に売らせてもらいました。


「倅」プロジェクトに関わるなかで、次第に故郷に戻りたくなり、2010年にUターン。「倅」のマルシェのように農家や工芸作家や住民が出会うきっかけをつくろうと、「kitokitoMarche」を開きました。それで僕自身もつながりが広がり、山形県最上郡の伝承野菜をPRする『最上伝承野菜 料理と暮らし166レシピ』という本をつくる仕事を請け負ったり、山形県から民藝品の支援をしてほしいという依頼を受けたりしました。


一方、新庄市にある『雪の里情報館』にフランスの建築デザイナー、シャルロット・ペリアンが訪れ、地元の農家と一緒に「藁の寝椅子」を制作したという歴史を知り展示会を開くほど、民藝に惹かれていました。その後、新庄・最上地域の作家と一緒にプロダクトをつくる事業に関わりました。事業は2年間で終了しましたが、終わったからといって作家さんや職人さんとの関わりも終わらせるのは嫌でしたから、継続しようと決意しました。そのプロジェクトが「山から福がおりてくる」、通称「山福」です。


ただ、「山福」を続けるにはプロダクトを売り、利益を出さなければいけません。ECサイトで販売していますが、店舗の力には敵いません。ただ、卸すと利幅が少なくなるので、量が必要になります。量をつくるには、工芸作家や職人を増やすことが必要です。なので、今、若い担い手づくりにも力を入れています。


その「山福」をおもしろいと思ってくれた福島県郡山市の『ヘルベチカデザイン』代表の佐藤哲也さんと一緒に今、「郡山KARAPPO」というブランドを立ち上げました。郡山市西田町にある「高柴デコ屋敷」は三春駒や三春張子人形の発祥地なのですが、その張子のお面を使ったプロジェクトです。


張子でつくったお面をつけて踊る「郡山KARAPPO」の職人とプロジェクトメンバー。

まず、自分が地域になじむこと。プロジェクトはそこから始まる。


ローカルで仕事をしていると、デザインの部分だけ関わるというケースは少なく、企画から販路支援まで多岐にわたることが多いです。Uターンしてすぐの頃は、パソコンの修理まで依頼されていましたから(笑)。でも、ローカルのデザイナーってそういうことかなと。地域の人と関わり、歴史や文化を学びながら、地域になじむ形でデザインし、後世に伝えていくのがローカルのデザイナーの役割だと考えるようになりました。


長く講師を務める、山形県農林大学校でのデザイン講座。

僕がリードデザイナー(講師)の一人を務める『LIVE DESIGN School』の生徒さんの作品を見て、「かっこいいな。おしゃれだな」と思っても、「ローカルの人が見たらどう思うかな」と疑問に感じることもあります。若い頃は誰もがかっこよくておしゃれなデザインをつくりたがります。僕もそうでした。でも、そのスキルを獲得した後は、自分のデザインをどうやって地域になじませるかを考えたほうがいいかもしれません。なじませないと地域の人に受け入れてもらえないような気もします。変に尖っていたり、上手に見せようとしたりしてもバレます。自分に正直なデザインを心がけてください。もちろん、プロジェクトも同じです。


デザインやプロジェクトを地域になじませるには、まず自分自身が地域に根ざすことが大事です。仕事だけでなく、暮らしも含めて地域に根ざすことで、地域に合ったデザインやプロジェクトが発想できるようになりますから。


僕の事務所の昼食はいつも自炊です。仕事で関わった農家さんや近隣の農家さんからお裾分けをいただく機会も多く、畑で野菜を育てている社員もいます。地元の旬の食材を使ってごはんをつくることも、地域になじむきっかけになるはずです。地域に関心を持ち、デザイナーとしての役割に気づくこと。そこから、ローカルプロジェクトは始まると思います。


『吉野敏充デザイン事務所』・吉野敏充さんの、ローカルプロジェクトがひらめくコンテンツ。


Blog:KUROTERU BLOG
『自由大学』や『Farmers Market@UNU』の創設者の黒崎輝男さんのブログから、コミューンやコミュニティの考え方、デザインについて学びました。ときどき読み返し、今も学ぶことがないかチェックしています。


Blog:ぶぅーぶろぐ
新庄市在住で、山形県立農林大学校に勤める森千賀子さんのブログ。東京で仕事をしていた頃、新庄の今を知る情報源としてよく拝見していました。Uターン後すぐに会いに行き、その後、「kitokitoMarche」を手伝ってくださることに。


Book:ナリワイをつくる—人生を盗まれない働き方
伊藤洋志著、筑摩書房刊
Uターンするとき、デザインで食べられなかったら実家の農業をはじめデザイン以外の仕事を少しずつやって収入を積み上げたら生きていけるという勇気や心構えを、伊藤さんが提唱する「ナリワイ」から学びました。その後、出版された本です。

ソトコト

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